最終章 2.推測を聞いてみた。

「てっきり、この家のことを言っているかと」


「僕の尋ね方も悪かったですね、すみません……」


 クリスはバツが悪そうに下を向いた。


「え、レイさん、チキュウに戻っちゃうっすか!?」


 サンダリアンがまた同じことを繰り返そうとしている。先程と全く同じ表情だ。いや、それ以上だ。声が上ずり、かなり動揺している。もう泣き始めるかもしれない。


「チキュウとは、レイ君のふるさとのことかい?」


 その制止をしたのがモルファーだった。サンダリアンが発する永遠の別れのような言いぐさとは裏腹に興味深々と尋ねてきた。それもそうだ。特にタイミングもなかったので、私はまだ彼に何も伝えてはいなかった。私がこの世界へどのようにして、やって来たのかを。


「ああ、そうだ。私は流れ星に願ったせいで気が付くとこの世界へ辿り着いていた、別世界からな」


「なんと……! レイ君は天界から来たのか!」


 誰もそんなこと言ってない。モルファーは私を天使だと思っているのかもしれない。以前クリスに同じように伝えた時「神ですか?」と尋ねられ、拒否をしたことを思い出した。


「そう捉えてもいいのかもしれない」


 だが、今回はクリスのように天使らしく、そう答えてみた。自分が知らなかっただけで、神でなくとも、天使の可能性は多いにある。


「奇跡だ……!!」


 モルファーは絶句し、天を仰ぎ、言葉を繋ぐことを止めた。天然なのかもしれない。


「……レイさんは、もし戻れるとしたら……、戻りますか?」


 クリスはそんなモルファーの隣で、真剣な眼差しを送って来ていた。


「そんなこと考えたことがない」


「考えたって仕方ないから、ですか……?」


 クリス達と初めて出会った時も同じことを聞かれた。あの時もそう答えた事をきっと彼は覚えていたのだろう。


「ああ、そうだ」


「ではもし、その手段が見つかったとしたら……?」


 金髪天使は、青い瞳を揺らしながら私を見つめている。以前は私と変わらなかった身長が今では少しだけ大きく感じる。


「なぜ、そのようなことを聞くんだ」


「レイさん、あなたは流れ星に願ってここへ来たと言ってましたよね」


 クリスはいつも以上に真剣だった。私もその雰囲気に呑み込まれるように返事をした。


「ああ、そうだな」


「……記憶石の謎は日々研究され、次第に明かされはじめています。最近の発表では記憶石は、大昔に天から降って来たものではないか、という説が有力とのことです」


 そう言うなり彼は押し黙った。記憶石、そのワードが急に現れ、その言葉の意味が何を示すのか、私にはまだ分からなかった。そこでサンダリアンとモルファーが口を開いた。


「もしかしてレイさんの見た流れ星って……」


「……なるほど、そういうことか」


 二人とも神妙な面持ちで、何やら考え込むように納得していた。その表情を見つめていた時、咄嗟に気が付いた。天から降ってきた記憶石と流れ星。この二つが私の中で今、繋がった。


「まさか、私が見た流れ星は記憶石だったと言うのか? そこで『別世界へ行きたい』と願った私の想いを記憶として吸収してしまったということか?」


 クリスが息を飲むようにまた話し始めた。


「……僕の推測です。ですが、その可能性は高いのではないかと思います。僕が思うに、レイさんがチキュウで記憶石の流れ星に願い、その石に願いが記憶された後、その流れ星はなんらかの形ですぐに消滅した。そこで消滅した記憶のチリだけが天界を漂う中、記憶石が持つ特有の共鳴の力が発生し、この世界の記憶石に引き寄せられた。そしてレイさん自身もその記憶に引っ張られるように、ここへ引き寄せられたのでは、と……。まるで願いが叶えられたように……」


 流れ星、つまり隕石は地球の大気圏内に入れば、そのほとんどが燃え尽きて消滅する。私が願ったあの流れ星もきっとすぐに消えて無くなったはずだ。クリスの考えはかなりの憶測ではあったが、的を得ていた。もしあの流星が記憶石だったとすればその可能性は多いにありそうだった。


「なるほどな。一理はあるかもしれない。だが、クリスが言う『帰る手段』はどこにも見当たらない気がするがな」


 今の話を聞く限り、地球へ帰る手段はどこにもない気がした。


「……ある、かもしれないんです」


 サンダリアンとモルファーが目を丸くし、クリスの次なる言葉を待った。私もだ。


「もうすぐ流星群がやってきます、この世界に」


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