1章 9.計画を話してみた。
それからクリスの自宅に3人で戻る道中、雲一つない青天の真昼の空の下で、これからの計画を全て話した。
「まずはサンダリアンの身なりを整える。金はかけられないから出来る範囲でやっていくぞ。私が散髪を担当しよう。そして髭を剃るんだ。顎をつるつるのぴっかぴかにして、爽やかさを前面に打ち出すぞ。いいか、これはまず、仕事を発注しているファミール家のドン、貴婦人への対応だ。ラズユーを見る限り、そのマダムはあのような見た目が好みなはずだ。なるだけあいつの容姿を参考にする。そこでクリス、君の出番だ。そのつるつるピッカになったサンダリアンの肖像画を描いてもらう。それを今の戦士カードの画像と差し替えるんだ」
すると、右隣を歩いていたクリスが驚きを隠せぬまま口を開いた。
「肖像画ですか!? 僕、風景画専門の画家ですよ!? それに戦士カードの画像を記憶石のあの正確すぎる画像から差し替えるんですか!? 記憶石の精密性分かってるんですか!? あれは鏡と同じ要素があるんですよ!?」
息継ぐ暇もない程に一気にまくし立て、怒涛の質問攻めだ。
「ああ、知っている。だが君は風景画以外が描けないことはないだろう? それに、記憶石のその特徴を逆に狙うんだ」
「……どういうことっすか?」
左隣をとぼとぼ歩いているサンダリアンが尋ねてきた。
「記憶石は真実をそのまま読み込み、反映させる。そこが今の私達には問題なんだ」
「そこに何の問題があるんですか!?」
今度はクリスが食い入るように尋ねてきた。
「サンダリアンの見た目だ。例え小奇麗なつるつるピッカにしても体系や雰囲気、精神性も含め、今回は時間が無さ過ぎて、マダムを納得させられるような説得力がまだ足りない。記憶石のとてつもない緻密性のせいで、そのまま反映されてしまうことになる。そこで、盛って盛りまくるんだ!! クリスの絵でな!!」
「盛る!?」
二人は目を見開き、顔も口調さえも揃えて発した。
「戦士カードは見た目を載せておけばいいんだろ? 他の戦士達はあの記憶石の緻密性を良しとしているために、皆同じようにそのまま自身の姿を取り込み、反映させている。だが、別に他の画像情報でもいいはずだ。盛り盛りのイケメン自画像でもな!!」
「盛られた俺のイケメン自画像すか……!? いいんすかね、あ、でも討伐ギルド的には戦士カードの必須項目に自身の画像、とだけ定められてるんで問題はないかもっすけど……」
「あの、僕……、肖像画描けないことはないとは思います。小さい頃はよく人を描く練習とかもしてたんで……。ただあまり自信はないです……」
クリスが弱々しい声で覇気なく言った。
「クリス、あんな素晴らしい風景画が描けるんだ! もっと自信を持っていいと私は思う。それに風景画だけでなく、人物画まで描ける画家ともなると仕事の幅も広がるはずだ。新しい事へ挑戦するのは勇気がいるが、君にとってきっと大きなプラスになると思う。クリス、何度で言うが、君はもっと自分の絵に技術に自信を持っていい」
「あ、ありがとうございます……」
頬を赤らめ、下を向いた。クリスは慣れていないのか、ちょっと褒めるといつも口数も減り、こうだ。
「そしてなるべく、サンダリアンには筋トレをしてムキムキマッチョを目指してもらいたい」
「マッチョっすか? 髪型とか見た目はすぐに変えられるかもしれないすけど、ムキムキマッチョは時間かかるっすよ?」
「分かっている。この仕事の登録締切まであと1週間しかない。まず体系を見るからにすぐにマッチョになるのは無理だろう。だが今後のことを考えるとマッチョになり、よりたくましく剣士らしさを打ち出すことは、今後の仕事獲得にメリットは大きい。それに基礎体力も付き、今より強くなれるのは事実だ。だから筋肉を付けつつ、基礎体力を上げ、まずは1週間でその曲がった姿勢を正す。猫背なのは自覚があるだろう?」
「あるっす……。俺、子供の頃から猫背で、なかなか治らないんすよ」
サンダリアンは肩を落とし、己を蔑むように言った。
「猫背だと明らかに周囲からは自身がなく見える。戦士として、この仕事請け負いシステムとしても、かなり損な要素になっているはずだ。だから常に仁王立ちをするんだ」
「仁王立ちっすか? 常に!?」
「ああ、腰に両手を当て、常に偉そうな雰囲気を醸し出すんだ。腰に手を当てれば自然と胸が突き出て猫背を治しやすくなるはずだ」
「少し恥ずかしいっす……」
サンダリアンはあまり気乗りしないようだ。
「この短期間で猫背を矯正するのはその方法しかない。もちろん日常でも常に背中をピンと張る意識を怠るな。そして腹筋や背筋をなるべく鍛える筋トレを毎日多く取り入れるんだ、はい、仁王立ちだ! 今から!! それで歩いてみるんだ!」
「わ、分かったっす……」
サンダリアンは渋りつつも、腰に手を当て目の前の道をゆっくりと歩き始めた。自然と猫背が軽減され心なしか背筋が伸びた。
「わ、サンダリアンさん、なんだか偉そうですよ!! それに少し強そうに見えます!」
クリスが素直に驚きの言葉を発した。
「なんか不思議な感覚っす……、ちょっと自信がついてくるというか」
「だろう? 人は少し体のポーズを変えるだけで、それとなくそのポーズのような姿へなっていくんだ。例えばほら、その腰の両手を今度はこの青空へ大きくグーで掲げてみてくれ」
「こ、こうっすか……?」
サンダリアンは、ぎゅっとにぎりしめた拳を天高く突き上げ、そのまま歩いて見せた。
「おおおお、サンダリアンさんがなんだか自身に満ち溢れてかっこよく見えます……!!」
近くにいるクリスが非常に興奮しつつ、なぜか嬉しそうだ。だがおかげでサンダリアンは気乗りし、自信を掴もうとしている。
「そ、そうかな……? ちょっと恥ずかしいな……。けどこれ気分がいいっすよ、レイさん!」
「そうだろう。これは『ハイパワーポーズ』と言って、自信に満ちたポーズをとることによって己の心に自信を灯すという技だ。れっきとした実験まで行われ、その効果も出ているんだ」
「レイさんの世界にはそんな技があるんすか! すごいっす! 俺も『ハイパワーポーズ』使えるようになりたいっす!」
彼が言うような技ではない気がするが、そこは言わないほうがいい気がするので黙っておこう。
「ああ、すぐに使えるようになるぞ。実際君がオークを討伐した際に両手を掲げ、高揚感に浸っていただろう? 気分が良かったはずだ。常にあのポーズを意識し、過ごせばいい。今まで君が行ってきた行動やポーズは『ローパワーズポーズ』と言って逆に自信喪失しか生み出さない技だったんだ」
「俺ってば、そんな悲しい技を日頃から使ってたんすね……。仕事もらえるわけないっすね……。けど、俺は今から『ハイパワーズポーズ』の使い手になってみせるっす! 俺なんだか自身がみなぎってきたっす!!」
そう言うなりサンダリアンは拳を天に突き上げたまま勢いよく早足で歩き始めた。意外と、いや思った通り単純な男かもしれない。純粋というべきか。この手の性格は何もかも素直な分、吸収率が高いはずだ。大いに期待出来るかもしれない。
日頃からそうとも知らずに、ハイパワーポーズばかり取っていた私に、「なんかいつも偉そうだよね」と素晴らしい助言してくれた同級生に感謝だな。
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