1章 2.死ぬ覚悟をしてみた。
目の前の少年は、顔と同じく瞳の色まで青い。金髪と青顔と青眼のグラデーションのようなダブルコントラストが芸術的に美しい。いやそんなことを考えている場合ではない。するとその少年は恐る恐る口を開いた。
「あの……、なぜ死のうとしてたんですか……?」
「いや、私じゃなくて君がだろ!?」
「ひっ……!!」
あ、泣きそう。顔をひきつらせ背後へのけ反り、大きな青い瞳にどんどん涙を貯め込み始めた。つい突っ込んでしまった。私が聞きたいのに、それを全て投げかけてくるから致し方ない。見た目はまるで天使のようなのに、自暴自棄過ぎる、ちょっとやばめな少年。けれどお構いなしに私は言葉を続けた。
「何が君にあったのか知らないが、まだ若いんだし人生何度でもやり直せるだろ!? 君何歳なわけ?」
「16歳、です……」
私より5つ下か。道理で幼いわけだ。
「名前は?」
「サーザント・クリスです……」
「なにそれ、かっこいい名前」
「そ、そうですよね、サーザント家はみんな優秀で……、けど、僕はこれで……、うう……」
ついに大粒の涙を出し始めた。褒めたはずなのになぜ泣く。
その時、背後から草木をかき分けるような、ザザッとした物音が耳へ届いた。少年にもそれが聞こえたようで、泣いて揺らしていた肩がひゅっと止まる。
「ま、魔物かも……」
怯え切った少年が音の方向へ目線だけ動かしながら、か弱き声で呟いた。
「はぁ!?」
思わず大声が出てしまった。びくっと体を震わした金髪少年は「ひっ」と言い、顔を更に引きつらせ、今度はガタガタと震え出した。この子はあの世へ行きたいはずなのでは。
すると音の主は、私達の目前へついに姿を現した。
「なんだこれ!?」
またもや大きな声を上げた私に、少年が私の腕をガッと掴んでプルプル震え始めた。いや、元から震えていたのだろう。その震えが二の腕から直に伝わって来た。この子はあの世へ行きたいはずなのでは。
そんなことを再び考えつつ、目前のモノに目線を再び移すと、牙をむきだしにした、大きな猪のような獣が存在していた。非常に興奮している様子で、鼻息を荒々しくならしている。図体が通常の猪の倍以上はあり、目も4つあるし、牙も口から6本はみ出していた。明らかに未確認生物だ、そうだ、UMAだ。都市伝説好きの友人に今度自慢してやろう。けれど、あの牙に刺されたらどうしよう、ぜったい痛そう。友人へ報告する前に死ぬな。
「ピンチすぎだろ」
そう呟いた私に降り続く雨は、無情にも冷たく打ち付ける。着ている水玉パジャマなんてもうびっちょびっちょだ。少年の白いシャツもそうだ。雨で透けてしまった彼のうっすらとした肌色の肩を見て思い出した。やばい私ブラしてない。ノーブラはさすがにまずい。アメリカーンな女子ならいいかもしれないが私は生粋な日本人だ。さすがの私の胸を形をさらけ出す勇気はない。こんなピンチな時でもおムネを気にしちゃう私はやっぱり女子だな。いや、今はそんなこと考えている場合ではない。ああ、これはきっと走馬灯の一種で現実逃避というやつかもしれない。いや待て、走馬灯は過去の記憶からこのピンチを抜け出す手段を脳が探してると聞いた事がある。もしかすると私のおムネにそんなピンチを抜け出す救いがあるのかもしれない。
胸にそっと手を当てる。
「……全然分からない」
私の大きくもなく小さくもない胸を一応見てみたが、どんなにむにむに触っても直視しても全く思い当たらなかった。
「……少年よ、覚悟だ。おねーさんと一緒になら嬉しいだろ?」
全てを諦めた私は、自身の腕に捕まる少年を見つめ、どやっと笑ってみせた。私でも怖いが、最後ぐらい笑って死にたい。どや顔はいらないかもしれないけど、なんとなくどやってみせた。死に際にどやるのは自身の美学だ。けれど同意を求めた少年は「こいつ何言ってんの?」と言わんばかりに口をパクパクさせて更に青ざめた。この子はあの世へ行きたいはずなのでは。
彼について、3度も同じことを心の中で呟いた時、目の前のハイパー猪UMAが突進してきた。こんな見たこともない新種を発見した私が名付け親だ。そんなことを考えながら目をぎゅっと閉じた。
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