第41話 鉢合わせ!?

「えっ、ここを登るんですか?」


 頂上を見上げながら木綿ゆうさんが驚いたような声をだす。

 そう、ここは、福島裏磐梯第三スキー場。僕らは駐車場から遙か頭上にあるリフトの先をみている。勿論、この季節、リフトは動いてない。だから、頂上まで歩いていくしかないのだ。


「頂上まで上がって、そこからさらに右の方へ登って行くと、赤沼と呼ばれる場所があるんだ。そこで撮影して、帰路につくって感じ」

「赤沼か〜。楽しみですね〜。でも、かなりきつそう…。うん!頑張りましょう〜」


 二人でリフトの鉄柱脇にある登山道を登って行く。最初は、あーだこーだと会話をしながら余裕を持って登っていた僕たちだが、中腹を過ぎたあたりから連続する急登ですでに会話はなくなり、ただ『はっ、はぁー』という苦しい息の音しか聞こえなくなった。

 それでも、僕たちはペースを落とさず順調に登ってきている。やはり、毎朝のジョギングが功を奏しているのだろうか?

 約一時間程かけて漸く頂上近くまで登ってきたその時、赤沼の方向から一人の女性が降りて来ていることに気付いた。

 だんだん大きくなってきたその女性はリュックに三脚を結んでいるようだ。どうやら、彼女もカメラマンなのかもしれない。


 ん?あれっ?はっ?えっ?ま、まさか!?


「み、宮畑君?」、「ゆ、結城か?」


 なんと山を降ってきた女性はなんと写真同好会部長の結城佳奈子だったのだ。結城は、僕の後ろにいる木綿ゆうさんを見つけると、彼女にも「こんにちは」と声をかけた。


「結城、えっと、ここで何してるの?」

「えっ、何って?合宿のロケハンよ。というか、私の方こそ聞きたいわ。宮畑君は何してるの?もしかして、デート?」

「はっ、違うよ。僕もロケハンと展示会に出す写真を撮りにきたんだ」

「あっ、そうなんだ。でも、彼女連れなんて、なんだか…」

「い、いや、その、それは…」

「ほら、これ見てよ。これ、福島三科展クラブの方に裏磐梯のスポットを教えてもらったものよ」


 そこには、ポイントの名称、マップコード、それにどんな被写体があるかなどが、小さな文字でぎっしりと書かれていた。


 そのメモをみた僕は、言葉を無くしていた…。

 結城は、僕が彼女を連れて観光気分で写真を撮りに来ているんだろうと思っているはずだ。写真を常に真剣に考えている結城からすれば、『信じられない…』という気持ちだと思う。

 確かに、僕は写真に対してそこまでの覚悟が出来ていないのかもしれない。だけど、だけど僕は、木綿ゆうさんのお蔭で写真の楽しさを改めて思い出したんだよ。それが僕にとってどれだけ大事なことだったかということを結城に伝えたい…。その時、下を向いていた木綿ゆうさんが声を発した。


「結城さん。こんにちは。あの、私、宮畑君の撮影を邪魔してしまったかもしれないけど、宮畑君は、きっと結城さんが驚くような写真を撮っていると思います。宮畑君は写真の事を本当に真剣に考えて、大事に取り組んでいました。だから、信じてあげてください」


 結城は、うっという顔をしてその言葉を聞いている。


「宮畑さんだっけ!?ごめん。私と宮畑君の付き合いの長さを知らないのだろうけど、余計なお世話っていうか、そんなの分かってるし…」


 今度は、木綿さんが、うっと言葉を漏らす…。

 あの、一体ここで、何が繰り広げられているのでしょう?この雰囲気、かなりヤバすぎる。


「宮畑さん、今度ゆっくりと話をしましょ。じゃあ、宮畑君、私は急ぐから行くね。じゃあね」

「お、おう。じゃあな、気をつけて」


 結城は、軽い足取りで今、僕たちが登って来た道を降っていく。首からはカメラをかけて、いつでも撮れる状態になっている。流石なだ…、僕が心で思った時、結城が突然振り向くと、僕たちにカメラを向けた。なんなんだろう?もしかして、僕たちを撮った?とか?


 木綿ゆうさんは、気が付くと僕の左腕に自分の腕を絡ませて、下を向いている。


木綿ゆうさん、ありがとう。庇ってくれて…」

「ご、ごめんなさい!私、凄く出しゃばったこと言ってしまって。写真のこととか全く知らないのに偉そうに…」


 彼女の声が震えている。


「いや。嬉しかったよ。木綿ゆうさんが僕の写真のことを信じてくれていること…」

「うん。ごめんね。今度、大学で会ったら結城さんにも謝らないと…」

「いや、あいつはカラッとした性格だから、すぐに忘れてるよ。気にしないで。ほんとはいいやつなんだ。写真に対しては厳しいけどね」


 僕がそう言うと、彼女は、さらに力を入れて腕を握ってきた。


「い、痛っー」

「なんで、結城さんをそうやって庇うんですかっ!もう、宮畑くんなんて知らないっ!!」


 そういうと、ずんずんと上に登って行く。

 あー、もう!!僕の気持ちなんてとっくに分かってるでしょうに…!!


「こら、木綿ゆうさん、危ないから一緒に行くよ。ほら、もう!止まってってば!」


 僕の言葉が聞こえているはずなのに、彼女は全くスピードを弛めない。実は、彼女は何気に意地っ張りだ。いや、意地っ張りな時があるって感じか…。それは、僕もつい最近、気付いたことだけどね。

 でも、そういうところも含めて彼女は本当に凄く可愛いんだ。


 顔を上げると磐梯山の崩落した山頂部分が間近に見えてきた。一体彼女はどんな顔をしてこの情景をみているだろうか?きっと、瞳を輝かせながら、コンデジのシャッターを押しているに違いない…。そう思うと愛おしさが溢れてくる。

 僕は、完全に恋に落ちてしまったようだ。



To be continued…




- - - - - - - -

第二章はここまで!

いよいよ次回より最終章へとなります。

二人の恋の行方へは・・・。


引き続きよろしくお願い致します!!

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