最終話 これからもずっと…。
木綿さんが僕の部屋に初めて泊まった次の日から、なんと彼女は僕の部屋に住みだした。さっきも、なんなら自分の部屋は解約してもいいくらいのことを言っているし…。
さすがに、彼女のご両親やあのイケメンお兄さんに申し訳無いので、やんわりと「まだ早いのでは…」と匂わすも、「だって、もう、両親や兄には言っていますから大丈夫」と言って聞かない。
そうこうしている内に結城の誕生日がやってきた。今日は、写真同好会のメンバー全員で、ちょっとだけ洒落た店で誕生会をやる予定だ。勿論、この時期に、店の予約するのは至難の業という事を僕は身を以て知っている。だけど、こんな洒落た店をサクッと予約した長谷部は、「なーに、簡単さ。だって、半年前から予約してたしな」なんて言っている。半年前から予約って、すごい!ん?もしかして、長谷部?お前…。
黒のタートルに濃い茶色のミニスカートの結城は、店にいる男達の視線を釘付けにしている。とにかく、彼女のいるテーブルがとても明るく見えるのだ。きっと、他の男達は一緒にいる僕らのことを疎ましがっているだろう。
「「「結城〜!誕生日おめでとう!」」」
「……ありがと」
えっ?なに、このテンションの低さ。一体なにが合ったんだろう。すると結城の横に座った長谷部が、「ほら。今日は飲むぞ。とことん付き合うぜ。俺…」といって、結城の持つジョッキに自分のジョッキをカチンと合わせた。
美味しい料理が次々と出てくる。
僕は、結城や長谷部、それに酒豪の髙橋につられて、いつもより速いペースでビールやハイボールを飲んでいたので、すでに酔っているかもしれない…。
「み・やーはたーくーん。飲んでるー?」
結城もかなり酒が回っている様だ。すでに五杯目となるビールを飲んでた長谷部も、ふと気が付くといつの間にか既に机に突っ伏している。何がとことん付き合うだ、お前、弱すぎだよと僕は心の中で突っ込む。そして、これ以上、結城が飲まないように、僕は彼女が持っていたグラスを取り上げた。
「えっ。なにすんの。まだ、飲むの!もう!!!!」
「結城、ちょっと飲み過ぎだぞ」
僕の横で比較的静かに飲んでいた髙橋が釘を刺す。
「いいじゃん。今日くらい、今日は飲まないとやってられないのよ」
「あーあ。俺、知らないからな。じゃあ、あとは宮畑、よろしく」
「えっ、帰るのか?まだ早いだろう?」
「明日、朝一番からオートレースの撮影に行くんだよ。ごめん」
「まあ、それならしょうがないな。気をつけてな」
「おう。またな」
そう言うと髙橋はテーブルにそっと一万円を置くと、店を出て行った。目で見送った僕は結城の方へと視線を戻す。すると…彼女は僕の腕を掴みぶんぶんと振りだした。
「ねえ、宮畑君。私、宮畑君のことが好きだったんだ。でも、だった、だよ。もう、いいの。諦めるから。宮畑君は、もう一人の宮畑さんとイチャイチャしてたらいいよ。ほんと…。でも、もうイチャつくのは私のいないところでして欲しい。それだけは守ってよ。だって、だってさ…」
そういうと、結城は大きな涙を流し始める。声を上げずに静かに泣きじゃくる結城がとても小さく見えた。
正直、彼女が僕に好意を持っていてくれているのは薄々感じていた。だから、それを表面化しないように、結城を必要以上に友達として接していたと思う。だけど、それって、知らないうちに彼女を傷つけていたのかもしれない。だから、僕は、ただ、「ごめん」と言うしかなかった。
「ほら、長谷部君!もう一軒行くよ!今日は付き合ってくれるんでしょ?早く起きなさいってば」
会計をしていた僕の横を、結城は、ほぼほぼ寝ている長谷川を無理矢理引っ張り、店の出口へ歩いて行く。
「今日は、ありがと!宮畑君、これからも写真仲間としてよろしくね」
そういうと彼女は、ぺこりとお辞儀をして、くるっと背を向け歩き出す。かと思ったら、結城は「宮畑君のばーか!」と大声で叫び、一瞬、僕の方を向いて「べーだ」と小さなベロを出した。
「結城!誕生日おめでとう!そして、いつもありがとう。で、本当にごめん!」
「ばーか!謝らないでよ。早く行っちゃえ!木綿ちゃんのとこ…」
そういうと結城は、長谷部の頭をパチンと叩き、「ほら、しっかりして!」と介抱しながら歩いて行く。
僕は、彼女達の姿が小さくなるまでずっと見つめていた。
さぁ、帰ろう。木綿さんが待っている。
僕は、小走りでハイツに向かう。きっと彼女は、やきもきしているんだろうな。今日も出かける時、「結城さん、いるんだよね」なんて、言ってたし。
でも、僕は君しかいない。それを言葉にして伝えていかないとね…。
そう、「君だけが好きなんだ。愛している」ってことを…。
◇◇◇
そうして、瞬く間に五年が経った。
そして、僕は、今、北海道の美瑛にいる。そう、自分の夢をなんとか実現したのだ。二度目の国家試験で漸く合格した僕は、美瑛にある中学の教師に採用され、何気に忙しい日々を送っている。
部活の顧問は、写真部を任された。ここ美瑛は、プロカメラマンも多く在住する地域で、彼等の存在が素人の腕も底上げしているという不思議な土地だ。だから、学生達も非常にレベルの高い写真を撮る。僕は生徒に混ざって、休日毎にあちこちと撮影に出かけている。
「ただいま〜」
「お帰りなさい〜」
「あー、寒っ!やっぱり、ここの冬は半端ないね」
「ふふ。そうだと思って、今日はシチューにしました!」
「お〜。良い匂い〜」
「今日ね、隣の武木田さんからジャガイモと人参貰ったんだよ。あと、角田さんからはブロッコリー!」
「木綿さんって、本当にモテモテだよね。気をつけてねほんと」
「ははっ。え〜、佑君、焼き餅焼いてくれるんだ〜。嬉しい〜」
「ばかっ。だって、こんなに可愛くて素敵な子はここにはいないからさ…」
すると、彼女が僕を背面からぎゅっと抱きしめてきた。
「ありがと。私、凄く幸せ…」
僕と木綿さんは、昨年の六月に結婚した。
結婚しても木綿さんは、みやはたゆうからみやはたゆうになる訳で、、、。漢字も呼び名も全く変わらないのだけど、この式を通じて、僕たちの気持ちは以前よりもっともっと強く結ばれたような気がした。
同じ名前、同じハイツ、そして同じ大学院、偶然としたら出来すぎの出逢いだったな。でも、多分、これは偶然ではなくて、きっと運命だっんだと思う。
僕にとって木綿さんは、そして、木綿さんにとって僕は、きっと運命の人だったに違いない。その運命の人に、こうして出会うことが出来たことを神様に感謝しなければ…。
いつまでも、二人はずっと一緒だ…。
fin
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永らくお付き合いいただきありがとうございました。
全部で四十八話、約十万字という長編と呼べるかどうか分かりませんが、そんな作品を初めて書きました。なので、途中、構成などで難しい点もありましたが、カクヨムで色々な方々の作品を読ませていただくことで刺激を受け、何とか書けたかなと思っています。
次は、超久しぶりに時空関係の恋愛ものを書きたいなと思っています。
今後ともよろしくお願い致します。
僕と彼女はいつも紛らわしい!! かずみやゆうき @kachiyu5555
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