第46話 手に入れたもの…

「宮畑君、ここにいたんだ…。探したんだよ。だって、今朝から調子悪いっていってたし、授業中も凄く元気なかったし…」


 彼女はそういうと重そうなトートバックを下ろし、僕の向かいの席に座った。


「木綿ちゃん!木綿ちゃんもランチ時間はお初だね。いらっしゃい!」

「あっ、マスター。こんにちは」

「何か食べた?」

「えっと、、まだです…」

「そうか!なら、木綿ちゃん専用特製カルボナーラ作ってあげるよ」

「えっ、いいんですか!?それってメニューに…」

「いいんだ。ちょっと待ってて。実は、今度メニューに載せようと思っているから、木綿ちゃんはいわば実験台だよ。ふふっ」


 そういうとマスターは嬉しそうに厨房で彼女用のカルボナーラを作りだした。


「「・・・・・・・・・・・・・・」」


 気まずい。超気まずい。声をかけることができない。

 一体、何を話せばいいんだろう。彼女のことが本当に好きだと分かったのに、もう彼女には恋人がいる…。『僕は馬鹿だったよ』って情けない所を彼女に見せるのは、僕の最後のプライドが許さない…。

 だから、今は、ただ下を向くしかない・・ん?


 ぽたり、ぽたりと滴がテーブルの上に落ちた。

 顔を上げた僕は、木綿さんが声を出さずに泣いていることに気がついた。

 それは静かな涙だった。そして、何より尊く、木綿さんの全てが愛おしいと思った瞬間だった。


 だけど・・・。だけど・・・。


「はい。木綿ちゃん。お待たせ!ん?宮畑くん、彼女泣いてるじゃないか?何かやったのか?」

「いや、僕は何も…」


 その時、彼女は、右手で涙を拭うと、弱々しい笑顔を僕に向けた。


「ほら、木綿ちゃん。まずは、食べよう。元気出るから」


 彼女の前に、マスター特製のカルボナーラが置かれる。

 さっき、ナポリタンを食べ、お腹いっぱいな僕でさえ食欲をそそる香りって、マスター、どんな技を使ってるんだろう?


 すると彼女は、マスターと僕に「いただきます」と小さく呟くと、スプーンとフォークで器用にくるくると巻いていく。そして、小さな口にそれを運ぶと、「ん!」とさっきより大きな声で驚きを示した。


「お、美味しい!!!!」

「そう!?そうでしょう!?なんと言っても、木綿ちゃん専用だからトリュフとかも使っちゃったしね。ふふふ。もう、儲け度外視だよ!」


 マスター、そういうことばっかりしているから、この店は儲けが少ないんだよ!!と心の中で突っ込みつつ、僕は今の状況を整理する。


 僕は、彼女を愛している。だが、彼女には恋人がいる。僕は辛くて、ここに逃げてきた。だが、彼女は僕を追って来た!?

『えっ!?なんで!?』


 僕が一人で頭の上にクエスチョンを出してそわそわしている間に、彼女は特製カルボナーラをあっという間に完食してしまったようだ。


「ごちそうさまでした!マスター、とっても美味しかったです。そして、凄く勇気が出ました」


 そういうと、彼女は、僕に向き合いつつ僕の目をじっと見つめてきた。

僕は、それを逸らすことも出来ず、見つめ返している。


「宮畑君」

「えっ。はい」

「宮畑君…」

「あっ。は、い」

「宮畑くん!!!」

「なっ、、」


 彼女は、さらに強い瞳で僕を見つめる。


「私を宮畑君の彼女にしてください!そして、卒業したら一緒に北海道に、美瑛に連れて行ってください…」


 僕は余りの衝撃に言葉を無くしてしまった。


 すると、マスターが木綿さんが食べてカルボナーラのお皿を引き下げつつ、温かいココアをテーブルに置く。そして、僕に厳しい視線を向けてくる。


「宮畑君、女の子にここまで言わせちゃダメじゃないか」

「くっ、、、」


 だって、だって、だって!!!


「昨日、見たんだよ。木綿さんが、すごくカッコイイ男性と腕を組んで歩いてるところ。だから、だから…」

「えっ?そんな…。そんな人いません!!」

「だって、昨日、大学で…」

「それ、いつですか?どんな人ですか?」


 彼女は、ちょっと安心したような顔で僕に訪ねてくる。


「昨日の夕方、スェードの濃紺のジャケットに黒の細身のパンツのすごくカッコイイ男性…」

「宮畑君は、私がすごく軽い女だと思ってるんですね。正直、私、今、とっても怒ってます」

「えっ、だって、だって、だって…」

「その男の人は、私の兄さんですよ。ほら、前に言ったと思いますけど、弁護士事務所で働いている…」

「はっ!?」

「私の誕生日に、なんでも好きな物買ってやるぞっていうんで、服を買ってもらったんですよ。これから年末にかけてかなりハードっぽくて、昨日の午後しか時間取れないっていうから、大学まで迎えに来てもらったんです」

「そ、そうなん、だ…。はぁー、マジ!?僕がどれだけ涙したと思ってんだよ…」

「あのー、最後の方、聞こえませんでしたが…!?」

「ぐっ。いいよ。聞こえなくて!!」


 彼女は、僕に向かって左手を出してくる。

僕も左手をゆっくりと差し出す。そして、ぎゅっと握った。


「もしかして、焼きもちやいてくれたんですか?」

「違うよ、もう、終わったと絶望したんだよ」


「ふふふっ、大袈裟な…」なんていいながら笑う木綿さんを見ると僕の心はいつの間にか彼女で一杯になっていたんだなと再確認する。


「あの、返事は…?」

「木綿さん、酷いよ。君がかっこいい男性と腕組んで歩いたのを見て僕がどれだけ落ち込んだと思ってるんだよ。そうだよ。そう。僕は、君じゃなきゃダメなんだ。君が好きなんだ。いや、ずっと前から君を愛してるんだ」


 勢いに任せてマスターの面前でなんちゅうことを言ったんだろう。

 ただ、もう、それは後の祭りで、マスターはニヤリと笑うとスマホで僕らを撮ってるし、木綿さんは僕に抱きついてきたかと思うとわんわん声を上げて泣いてるし…。でも、なんだか心の中がとっても温かいんだ。彼女の優しい温もりが好きなんだ…。


 今日僕は、世界で一番大事なものを手に入れた…。




To be continued…



- - - - - - - - - - - - - - -


いつもありがとうございます!

あと二話でこの物語も終了する予定です。

どうぞ最後までお付き合いくださいませ!



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