第32話 サイゼでミーティング?
結城加奈子といえば、この大学の多くの男子学生は『あー、あの子か』と言うだろう。
彼女の容姿は飛び抜けているし、昨年の学祭で開催されたミスコンでも二位だったし、とにかく常に目立つ存在だ。そのミスコンも実は、実行委員会をしていた親友に無理矢理頼まれて、渋々出たそうだ。だから、化粧もリップだけ、そして、服もジーンズと気合いゼロだったようだ…。
それでも、二位になるなんて、よっぽど素がいいのだろうな。ほんと、凄いよな…。
また、ファッションには疎い僕でも、結城は、自分の容姿を最大限に活かすセンスの良い服をいつもチョイスしている。
以前、「ブランド品でしょ!?どこで買ってるの?」と興味本位で聞いた時、彼女は、してやったりという顔で、「私の持ってる服?むっちゃ安いものばかりだよ。古着やシモムラなどがメインだし。そもそもブランド品なんて買うならカメラにお金かけたいしね」と彼女はそう言ったっけ。
その歯に物着せぬストレートな性格は、とても気持ち良く、そんな彼女には、女友達も多いのだ。そして、何より、僕らの趣味である写真の世界でも、プロカメラマンから実力を認められていて、「私のところで修行して、プロになったら…」などと誘われているらしい。
そんな彼女に、今、凄く睨まれているんです。
一体、何故…、こうなった?
カフェでの一件は、
しかし、「宮畑君、今日、夕方から緊急ミーティングするから、いつものサイゼに午後六時に集合して」と凄まじい圧で言われた僕は、結城の勢いに負けて、「お、おう」と肯いてしまったのだ。
本当は、今日は早く帰って、木綿さんの好きな野菜スパを作って、持って行こうと思っていたのに…。
そして、今、僕はサイゼの窓側の席で、結城加奈子と対峙しているという訳だ。
「宮畑君、本題は、後から聞くとして、まず合宿の件だけど、夏は宮畑君が帰省したからやらなかったじゃない?だから、十月の終わりに福島の裏磐梯で合宿をしたいと思ってるの。それってどう思う?」
僕ら、写真同好会は、年間五万という活動費を大学より貰っている。少人数の同好会だから金額は正直こんなものだろう。ただ、そのお金は、例えば、展示会をやったり、今結城が言っているような合宿に使ったりして、有効活用している。だが、今年は、展示会を十一月にやることになっているから、その五万はそこで使うのではなかったか?
「結城、十月の裏磐梯は紅葉もピークで最高だし凄く素敵な写真が撮れるけど、皆んなのジャンルには合わないけど大丈夫か!?それに、僕らの活動費って、もうないんじゃない?大丈夫?」
すると、彼女は、「ニヤッ」として、僕に話しかける。
そもそも、この店に結城が入って来ただけで、周りのテーブルにいた男子達がざわついたし、ほら、今も凄く僕たちは視線を浴びている…。
「大丈夫なの!それが!七月にあった三科展写真会のグランプリを私が取ったじゃない?それが大学の事務局にも知れ渡っていて、なんでも私が大学の名前を広めた功績ということで、あと五万追加ってなったのよ!凄くない!?あとさ、ジャンルについては、皆んなの得意なものを毎回かやっていこうと思ってるのよ。だから、今回は風景写真で、次は新宿で街撮り、そして、その次は江ノ島辺りでのポートレート、鈴鹿サーキットってみたいに計画していくつもり」
完璧に練られた計画を聞きながら、僕は一枚の写真を思い出していた。
それは、暮れゆく街角で、乳母車を押しながら、右手で小さな女の子の手を引く母親を後ろから撮った一枚。モノクロームなのに真っ赤な夕陽を連想してしまう…。そして、何よりその母親の横顔がとても優しくて、僕はあの写真の前でしばらく動くことが出来なかった。確かに、こんな写真は、結城しか撮れない…。
ジャンルが違うとは言え、こんな凄い写真を撮るやつが僕と同じ同好会にいることを誇りに思っているし、僕が知らない技術を色々と教えてもらったりもしている。だから、結城は、美少女だけど、僕からすれば『写真仲間』であり、
だけど、「私って凄くない!?」といいながら、海老ドリアを「ふうふう」言いながら食べてる結城を見ていると、ちょっと可愛いなと思ってしまうのだ。あー、僕も男だから、これはしょうがないよね。
「で!今日の本題なんだけど。いい?」
さっきまで楽しそうに合宿の話をしていた結城の視線が鋭くなっている。
「あの子と付き合ってるの?」
「へっ?」
「だから、もう一人の宮畑さんよ!」
やっぱり、
さあ、どうやって話をしていけばいいか…。一旦、イカスミパスタを口に入れて、食べ終わるまで考えよう…。
To be continued…
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