第36話 ゆびきりげんまん

 東北新幹線に乗った僕たちは、二列シートに並んで座り、東京駅のコンビニで買ったおにぎりを食べている。


「宮畑君、お茶は?」

「あっ、貰おうかな」

「はいっ。どうぞ」


 木綿ゆうさんが、蓋を開けてお茶を手渡してくれる。周りの人から見たら、僕らは恋人同士に見えるのだろうか?

 そう思ってしまうと、大事な撮影旅行のはずなのに、なんだか僕は浮かれてしまう。木綿ゆうさんは今日も凄く可愛いし、天気もまずまずだし、今回の撮影旅行ではいい写真が撮れそうだ!


 僕は、昨日の夜のことを思い出していた。

 急に泣き出して、僕の胸に飛び込んで来た彼女は、しばらく嗚咽を漏らすと僕の顔を見上げて、「ごめんなさい」と言った。

 僕が、「いいよ」というと同時に、急に僕から離れた彼女を僕はクスッと笑う。どうやら、急に冷静になって恥ずかしかったみたいだ。という僕も顔は真っ赤になっていたのだけど…。


「二泊三日で、裏磐梯を中心に撮影しようと思ってるんだ。木綿ゆうさん、行ったことある?」

「あのー、裏磐梯って、何処にあるんでしたっけ?

「へっ!!そこからか〜!?えっと、裏磐梯は、福島県の磐梯山の裏側に広がる湖や沼が点在しているところの一帯かな」

「凄く綺麗な場所なんでしょうね〜。楽しみです」

「うん、紅葉は本当に見事だよ。ただ、今回は紅葉にはちょっと早いけどね。でも、見所は満載だし楽しめると思う」

「そうなんですね〜。私…、実は、東京より東に今まで行ったことがないので、ちょっと興奮しそう。ふふっ」

「えっ、東京より東に行ったことないの!?」

「あのー、やっぱり、おかしいですか?うーん。なんでだろう?やっぱり、実家が東京というのもあるんですが、修学旅行も大阪・京都だったし、付き合った人もかいなかったから一緒に旅行とかも行かなかったし…」


 急に爆弾を落としてくるのは木綿ゆうさんの得意技だ。

 本当に、今まで付き合ったことがないのだろうか?でも、こんな美少女を男どもが放っておく訳がないだろうし…。

 そんなことを考えていたら、「ん?」と僕の顔を見つめてくる。

 くー、ちょっとその表情が可愛すぎて悶絶してしまいそうだ。


「じゃあ、これからは、僕と色んなところに行こうよ」

「うわぁ〜!!嬉しい!んっ?でも、本当ですよね!?」


 満面の笑みで僕を見つめる彼女は、今度は左手の小指を僕の前に差し出す。


「じゃあ、約束してください」


 これって、指切りってことだよねと思いながら、僕もゆっくりと左手の小指を彼女に差し出す。すると、彼女は、僕の小指に自分の小指を絡めると、「指切りげんまん、嘘ついたら、針千本飲ーます。指きった!」と小声で歌う。


 くーー。やばい。可愛すぎる! 

 というか、僕こそ、彼女を連れて色んな所に行ってもいいのだろうか?そんな役得、これまでの人生で一度もなかったのに…。

 なんで、こんな風になっているのだろうか?僕は、初めて彼女に会った講義のことを思い出していた。


 あの時、教授が出席確認で生徒の名前を読み上げて行った時、同姓同名ということで、彼女の事を意識をし始めた。しかも、同じアパートに住んでいることがわかり…。そして、荷物の受け取りでミスしたり、ご飯をお裾分けしたりとそこから、僕らはこうして急接近した訳だが、こうして、僕についてくる彼女は、もしかして僕のことが好きなのではないだろうか?そう思ってもいいのだろうか?

 でも、ここで僕が大きな勘違いをしてしまえば、今後、彼女と過ごす時間はなくなるかもしれない…。


 あー、本当に、どうしたらいいのだろう?



 話をもどそう。

 昨夜、部屋に戻る際、彼女に、「注意点ってありますか?」と尋ねられた。今回は写真撮影が目的で、結構藪の中とかも入って行く…。


「悪いけどオシャレは出来ないって感じかな。長袖のシャツとパンツとそして、リュックが必須かな。あっ、駅から裏磐梯まではレンタカーだし、それに撮影中もペンションに荷物は置いておくからキャリーは持って来てもいいよ」

「うん。私も、正直そんなに可愛らしい服とか沢山持ってないし。そう言ってもらった方が気が楽ですし…」


 そんなことを言う彼女が溜まらなく可愛い。


「う、うん。じゃあ、明日、朝五時半にここに集合ね。じゃあ」

「はい。また明日ね!おやすみなさい…」



 そして、今、二人で新幹線でおにぎりを食べているところなのだが、ちらりと彼女の方に目をやる…。そう、とにかく可愛いのだ。それしか言葉が出て来ない…。

 トイレに行くのだろうか?時折通る男性達が全員、通り過ぎる際にチラッと彼女を二度見していくのだ。それだけ、彼女はこの車両の中で光を放っているのだろう。


 一体、彼女のポテンシャルはどこまで凄いんだろう?


「オシャレは出来ないよ」と昨夜言ったその通りに、彼女はまさに山ガールのような出で立ちで、待ち合わせの時間に部屋から出て来た。

 白に紺の線が入った長袖ボーダーシャツに薄いカーキの半袖シャツを重ね着して、下は黒のレギンスにグレーのショートパンツを履いてる。そして、くるぶしまであるグリーンが基調のハイカットのスニーカーがまた似合ってるのだ。まさに、これから登山に行くの?と聞かれそうな服装だ。しかも、むちゃくちゃ可愛いとあれば、注目度も増すだろう。


 それに比べて僕は…。黒のシャツにジーンズ。全くいつもと変わらないというか、彼女と並ぶと『こいつ誰?』的な感じだろう…。

 そんな僕が、こうして彼女と一緒にいていいのだろうか?ついさっき、ゆびきりをしたばかりなのに、思ってしまう…。


 もしも、僕と彼女とどうこうなったとしても、きっと大変だと思う。僕は、本当に彼女と釣り合いが取れるような男性になれるのだろうか?



To be continued…

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