第37話 カップルみたい!?

 東北新幹線の郡山駅で下車した僕らは、駅前レンタカーで白いヴィッツを借り、裏磐梯を目指して高速道路を走っている。


「ほら、見えてきたよ。磐梯山ばんだいさん。日本百名山の一つで、福島県のシンボル的な山かな」

「うわ〜、すごく特徴的な形ですね〜」

「うん。昔は綺麗な三角型の形が良い山だったらしいけど、大爆発を起こした際に、崩れちゃったみたいだね」

「へ〜〜。さすが、宮畑君!なんでも知ってるね〜」

「いや、これ、昨日、ネットで調べただけだから」

「ふっ。本当に、宮畑君は真面目ですね。ふふふ…」


 それから彼女が笑い止むまでかなり時間が掛かったとだけ言っておこう。


 郡山駅から約一時間半で、裏磐梯にある道の駅に到着した僕たちは、昼食を取った後、アイスクリームを片手に小休憩中。ベンチに座って、これからの行程を確認しているところだ。


「狙ってるのは、夕景と日の出の時間帯なんだよね。だから、今日は、それに備えてロケハンをしたいと思ってるけど、木綿ゆうさんもそれでいいかな?」

「あの、本当に私の事は気にしないで。私は、宮畑君といるだけですっごく楽しいから」

「そ、そう…!?」


 思わず声が裏返ってしまう。深い意味は無いのだろうけど、こんな風に言われれば期待してしまうよ…。


「ねぇ、宮畑君のアイスって、美味しい?」


 彼女がじっと見つめる先は、僕が食べてる『山塩味』のソフトクリーム。


「あっ、食べてみる?」


 実は、木綿さんが食べている『そば味』も凄く気になっていた。だからだろうか、深い意味を持たず、僕も彼女にせがんでみた。


「僕も、そば味のソフトクリーム、食べたいな〜」

「へっ…。あっ、じゃあ、お互い交換しましょっ!」

「そ、そうだね」


 すると、彼女は自分の左手で持っている『そば味ソフトクリーム』を僕の口に寄せる。


「はい、あーん」


 あの、言いながら顔を真っ赤にするのはやめて下さい。

 僕の心が破裂しそうです。


「じゃあ、お返しに。はい。どうぞ」


 今度は、僕の左手にある『山塩味ソフトクリーム』を彼女の口に近づける。

 彼女は、「あの、その、えっと…。もう、いいや!」といいながら、小さい舌でペロッと一口舐めたかと思ったら、上唇をもう一度ペロッと舐めた。


「美味しい〜」、「可愛い〜〜!!!!」


 すみません!心の声だけにしておこうと思ったのに、余りにも可愛いからつい、声が漏れていました。


「か、可愛い!?って?何が?」

「はい、じゃあ、まずは桧原湖ひばらこに行こう!」

「え?質問しているんだけど…」

「さー、行こう〜!」

「ん——。なんだか誤魔化されているような…」

「早く行かないと日が暮れちゃうよ〜!」


 そう言いながら車に向かって歩き出した僕を、彼女は「待って〜」と走ってくる。なんとか、誤魔化せただろうか?でも、かなりやばかった!無理矢理話を逸らしたけど、ぎりぎりセーフだったかな!?

 それにしても、こんな感じで彼女と一緒にいたら、僕の心の声が溢れてしまうに違いない。でも、その言葉を聞いた彼女に「ごめんなさい」なんていわれると僕は立ち直れないよ。本当に、気をつけないと…。


◇◇◇


 僕は、桧原湖ひばらこに向かって車を走らせた。

 助手席に座る彼女はさらにご機嫌な感じで、ニコニコ度数がさらに上がっているような気がする。

 車窓から流れる情景を見ながら時折、「うぁ〜、あそこ綺麗〜」や「緑が鮮やか〜」とか言っている。

 そんな彼女を見るともっと自然を感じてもらいたいと思う。僕は、クーラーを止めて、窓を全開にした。


「気持ちいい〜〜!!!!」


 湖畔を通ってくる涼しい風が僕らを包み込む。

 彼女の長い髪が風に吹かれて忙しそうに靡いている…。


 あー、なんて素敵な情景なんだろう。僕がポートレートカメラマンだったら、この瞬間を絶対に逃がしていない。

 ゆっくりと流れる緑の木々を背景にして、浮かび上がる木綿ゆうさんの笑顔…。カメラこそ構えていないものの、僕は心のシャッターを数回押す。

 この彼女の笑顔を僕の心に一生留めておきたい。なんでだろう、ちょっと瞼が熱くなってきた……。



 夕景を撮るポイントは、かなり前からスマホの地図でチェックして、トイレ付きの駐車場も調査済みだ。

 僕のジャンルである風景写真は、自然の中に入って長時間、自然と語り合うという作業となる。だが、人間誰しも尿意は催すし、しかも秋や冬になれば、気温も下がりとにかく体調が不安になることもしばしば。だから、出来れば撮影ポイントの近くに車が止めれて、そこにトイレや自動販売機があればとても安心なのだ。特に今回は、木綿ゆうさんもいるから、そこは大事なポイントだった。


「さあ、着いたよ。ここで車を止めて少し歩くからね。そうそう、良かったらこれ使って」


 僕は、鳥のマークが入った小さくたたむことが出来る長靴をキャリーから取り出す。


「えっ!これ長靴?これから行く所は水の中とか?」

「うん。ちょっと泥濘んだところもあるから、長靴は必須なんだ。昔買ったんだけどサイズが小さくて、この前、別に買ったから二足あるんだよ」

「あ、ありがとう!長靴を二足も…。荷物多いのにごめんなさい」

「いいよいいよ。ほら、そんなに重いものでもないし」

「あー、長靴なのに可愛いね〜。私も宮畑君と同じものを買おうかな。ペアだと嬉しいし…」

「えっ?なんか言った?これいいからおすすめだよ。今度購入出来るサイトのアドレス教えるね」

「う、うん」

「準備は出来た?行こうか」

「うん!」



 彼女が歩く度に『パッカパッカ』と音がする。

 やっぱり、彼女には大きかったのかな。でも、長靴を履いた木綿ゆうさんもとても可愛いや。こうして、僕の撮影に付き合ってくれるなんて。普通の女の子だったら、長靴を履いて湿地に下りていくより、オシャレな靴を履いて都会で遊びたいと思うのだろうな。だけど、彼女は、こうして喜んでくれている。

 そうか、福岡に帰省した時の鍾乳洞もそうだけど、彼女は、全てにおいて『楽しもう』という意識がとても強い。そういう気持ちって、僕にはなかなか真似は出来ないけど、見ていてとても気持ちがいいんだ。


「ほら!宮畑君!!なんか見たことがないカエルさんがいますよ!うわぁ〜、良く見ると…、き、きしょい〜〜!!!!」


 カエルをみて楽しそうに絶叫している木綿ゆうさんを見ながら、僕は三脚をセッティングする。ちょうど、少しずつ日射しが落ちて来ている。

今日は、良い写真が撮れそうだ。




To be continued…

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