第9話 彼女がついてくる!?

「お、おはよう。これから旅行にでも行くの?」


 僕は堪らず声に出す。


 彼女は、初夏にぴったりの淡いクリーム色のワンピースに黄色のミュールを履いている。なんて似合ってるのだろう。しかも、例の黒いメガネを今日はつけていない。正直、その可愛さの破壊力は尋常じゃない。


 そんな彼女がさらに爆弾を落とす。


「えっと、、。ついて行っていい?」

「はぁえっ!?」


 僕は、なんとも表現し難い間抜けな声を出した。


「ど、どういうこと!?意味が全くわからないんだけど…」

「ずっと、彩湖さいこにこのグチャっとした気持ちのことを相談してたの。だけど、彩湖ったら、私が余りにも聞くから、なんかもう辟易したみたいで、『もうさ、それならしばらく一緒に過ごしてみたら』っていうんですよ。私は、最初、そんな事出来るわけないでしょって言ってたんだけど…。でも、やっぱりすっきりさせたいの!だから、どうかご一緒させてください!」


 そう言って彼女は、顔を真っ赤にしながら頭を下げた。


 彩湖さいこってのはあのショートカットで活発なあの子か?

 

 整理するとこういうことか…。


 彼女、宮畑木綿みやはたゆう彩湖さいこという友達に自分の気持ちが整理出来ず色々と相談していたら、余りにも同じようなことを聞いてくるから面倒臭くなり、『一緒にいたらわかるんじゃない』と軽く言ったことを真に受けて、今、こうしてキャリーを引いているということなのね!?


「君は、僕がどこに行くのか知ってるの?」

「福岡でしょ!?」


 即答だった。あっ、そうか。あの下着事件の夜に、福岡新鮮野菜スパゲッティを持っていったんだっけ。だから彼女は、僕の出身が福岡と知っているのか。


「別にいいけどさっ、全然面白くないと思うよ。凄い田舎だし」

「いいの。そういうのも含めて、色々と経験もしたいし…」


 彼女は、長い髪を指で巻いては解いている。

 最近、気づいたのだが、どうやら落ち着きを取り戻そうとする際の彼女の癖みたいだ。


「じゃあ、行く?ほんとにいいの?結構、お金も使うよ。飛行機にも乗るしさ」

「うん。大丈夫。同じ便のチケットは予約してるから」

「えっ?はっ?なんで!?どうやったら僕が乗る便を知ることができるんとね?」


 僕は思わず博多弁で聞いてしまう。


「宮畑君がバイトしているカフェのマスターに聞いたの。彩湖とたまたま入ったカフェがとても居心地良くて、たまに行ってたんだけど。まさか、そこで宮畑君がバイトしてたなんてね。でも、宮畑君はいつもいない日だったけど…。で、なんでって!?マスターと仲良くなってね、、私が、宮畑木綿みやはたゆうですと挨拶したら、『おー!!ここにも同姓同名のバイトしてる男子がいるよ〜』となって、、。それって、宮畑君のことじゃない!?だから、ここでバイトしてるんだってわかったんだ。それからは、店に行く度にマスターから宮畑君の事を色々と教えてもらって……。その、、とにかく一杯教えてもらいました。ふふっ」


 いや、『ふふっ』て、、それって、駄目でしょうに!!!

 まあ、僕は彼女の事がとても気に入って、、いや、、好きだから別にいいんだけどさ。マスターは、どんなことを話したんだろう?後で、電話して詰問しておかねば…。


「じゃあ、行きますかね」

「はい。行きましょう」


 僕と彼女は並ぶようにして、駅までの道のりを歩いて行った。


「あの、ちょっと聞くけど、そのとしている気持ちってなんなの?」


 さっきから、ちょっと顔が緩んでいるというか、ずっと笑顔の彼女に僕の疑問を投げかけると、急に厳しい顔になったかと思うと、「もやっじゃなくて、グチャッです」と強い口調で切り替えされた。


 あー、くそっー。やっぱり意味わからんわ!なんなんこれって!!




To be continued…

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