第8話 帰省

 お互いが熱を出した日から早くも一ヶ月が経とうとしている。

 

 僕と彼女はあの日以来、急接近した。

 と、、、自分では思うのだが、ちょっと違うんだよな…。


 それは、彼女の僕への態度に他ならない。とにかく、僕の前からすぐに消えてしまうのだ。


 夕食のお裾分けをしに、彼女の部屋のチャイムを押す。

 彼女は、「はーい」といって元気にドアを開けた途端、僕を見るなり顔全体が真っ赤になってしどろもどろになってしまうのだ。


「はい。これ。また作りすぎたんだ。豚の角煮とか食べれる?」

「だ、だ、大好物です。いつもありがとう」

「良かった。じゃあ、冷めないうちに食べてね」

「は、、はい。お皿、また洗って戻しに行きますね」

「うん。いつでもいいよ」

「あ、ありがとう」


 そういうと彼女はすぐにドアを閉めた。

 そして、中から、「あーーーーーーーっ」と叫ぶ声が聞こえた。


 あー、、僕は、本当にどうすればいいのだろう?


 恐らく、彼女は、僕の事を避けている訳ではない。だけど、実は僕のことを苦手にしているかもしれない、、と思うようになっていた。

 それと言うのも、大学院の講義では会うと小さい声で挨拶をしてくれるものの、すぐに顔を下に向けてしまうし、講義が終わると一目散で部屋を出てしまう。

 この間なんか、たまたま学食のテーブルにいた彼女を見つけ声をかけたら、間違いなく食べかけだったはずの蕎麦を「ご馳走様」なんて言って、片付けてしまい出て行ってしまうし、、。



 一体どうなってるんだ!?



 そんな状況が続き、、

 早くも前期の授業の最終日となった。

 

 僕は、明日から久しぶりに、福岡の実家に帰省する予定なのだが、僕の部屋の下の住人の事がとても気になっていた。

 それは、彼女とは、相変わらず、すれ違いの日々が続いていたからだ、、。


 だが、もしかして、僕の料理を楽しみにしている可能性も有る。やはり、彼女にはその旨を言っておいた方がいいかもしれない。そう思った僕は、彼女の部屋のチャイムを鳴らした。


 だが、生憎、留守の様で返事がない。

 僕は、一度部屋に戻ると、百均で買ったメモブロックに、『明日から帰省します。良い休日を過ごしてください。宮畑佑』と記すと、彼女の部屋の新聞受けから部屋の中にそのメモを滑らせた。



 朝六時。僕は、リュックを背負うと静かにドアを閉める。

 一週間実家で過ごすつもりだが、着替えなどは持って帰らないのでとても身軽だ。

 羽田空港を八時半に飛び立つ便に乗れば午前中には実家に着くはずだ。

 まだ朝が早いので出来るだけ音を立てずに僕は階段を降りていく。その時、一階の部屋のドアが開いた。


 僕は呆然として立ち尽くした……。


 何故なら、彼女、宮畑木綿みやはたゆうが、キャリーケースを片手に部屋から出て来たのだ。


 「一体、どうなってんの!?」


 僕は、ここ最近ずっと思っていた事を無意識に口に出していた。


 


To be continued…




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