第10話 羽田空港にて

 山手線で品川まで行き、そこで京急に乗り換え、羽田空港に向かう。

 

 朝早い時間にも関わらず、生憎、山手線の電車の席は埋まっており、僕らは吊り革を持ち、並んで立っていた。


 窓ガラスに少しだけ映る彼女をついチラっと見てしまう。何度も言うが、本当に言葉にできないくらい可愛いさだ。

 どうやら、僕の前に座っている男性も彼女のことを見ているようだ。さりげなくしているつもりみたいだが、彼女を意識しているのが、手に取るようにわかる。

 余り見るなよ!と言いたいところだが、悪気はないのだろうな。男性だったら当たり前の条件反射に他ならない。そう思うと、自分もそんな感じで彼女を見ているのかなと少し反省してしまう。


 そんなことを思っているうちに、『まもなく品川です』というアナウンスが入った。

 僕らは、人混みに押されながら階段を登り、京急の乗換口に向かう。

 流石に、重そうだったので、彼女のキャリーは、僕が持っている。彼女一人だったら大変だっただろうな。

 まあ、男として、それ位の行動は当然のことだと思ってはいるのだが、彼女は何度も「ごめんなさい。ありがとう」と言ってくる。こういうところもいいんだよな〜なんて思ってしまう。



 軽快なメロディーがホームに流れる中、羽田空港行きの快速がホームに滑り込んで来た。この電車に乗ると、約二十五分で羽田空港に到着だ。京急品川駅のホームには、大きな荷物を持った乗客で溢れていたが、幸いにも僕らは座ることが出来た。


 七人掛けの席の端に並んで座る。

 彼女は、ずっとスマホを見ている。ふと覗き込むと、どうやら『福岡観光名所』のキーワードでチェックをしているらしい。


「ねえ、木綿ゆうさんって、福岡は初めて?」


 僕は、彼女に尋ねる。


「へっ、、。あ、あ、あっ」

「何?ほら、落ち着いて、落ち着いて。ほら、ゆっくり深呼吸して」


 彼女は、言葉に詰まりながら、ただあっけにとられた顔で僕を見つめている。僕は焦って、恐る恐る彼女の背中をさする。


「もう、私を殺す気ですか?もう、どうなっても知りませんよ!!!」

「んっ?へっ?」


『そんなこと言われても…。もう、、全く意味がわかりませんからー!!!』

 

 心の中で絶叫をするようになって何日過ぎただろうか!?今日の僕も絶好調だ。


 そうしている間に、電車は羽田空港に到着した。

 僕らは、改札を抜けると、出発ロビーへ続く長いエスカレーターを登る。


 その時、エスカレーターを小走りに登ってくる男性が僕らを追い抜いた。僕らと同じくらいの年齢のようだ。どうやら、誰かを探している様子だが見つけることは出来なかったみたいだ。まぁ、、僕には関係無いけどね。


 第二ターミナルの出発ロビーから短いエスカレーターを登ると中二階があり、そこには沢山の飲食店が並んでいる。

 チェックインの時間までは、まだ余裕があった僕らは、数多い店の中から、セルフ形式の讃岐うどん店で、朝食を食べることにした。


 カウンターに二人仲良く並んで、『ぶっかけうどん』を食す。

 二人とも何故か一緒のメニューを頼んでいた。


「はい。お次の方どうぞ」

「「ぶっかけうどんの冷たいやつを下さい」」


 なんで、二人一緒に同じ言葉をハモってしまうんだろう。

 しかも、これは、今まで何度も体験している。僕と彼女は本当に思考が似ているのかも知れない。その理由は、やはり、読み名とはいえだからだろうか?


 そんなことを思いながら食べていたら、彼女が僕の方をじっと見ているのに気づいた。


「ん?なに?なんかあった?」

「いや。その、、、。宮畑君って、左利きなんですか?」


 そう、僕は左利きなんです。一時は右利きにしようと努力をしたけど、結局左利きの方が自分でもしっくりと来るので、それからは修正という無駄な努力はしていない。

 そうか、、彼女も確か、左利きだったな……。


「私、いつも並んで食べる時、すごい気を使うんですよ。だって、食べてるとお互いの腕が当たっちゃうから。でも、宮畑さんだったら平気ですね。ふふっ。良かった」


 あー、、、可愛すぎる!!!

 もう、なんでこんなに彼女は可愛いんだろう?そして、なんで、僕はこんなに素敵な彼女と一緒に旅をしているのだろう?

 僕は、改めて、同じゼミになったこと、そして、同じアパートになったという偶然に感謝していた。


 そんな彼女の顔をつい長く見つめてしまう僕。


「もう、、、何ですか?」


 そういって、彼女は真っ赤な顔になった。


「あのー、、前歯にネギが付いてるけど」

『バシッ!!』


 彼女は、僕の左肩を叩くと、「そんなことは、もっとさりげなく言って下さい!!」と急に拗ねた顔になった。


「ごめんごめん。だって、、言わないより言った方がいいやろう?」

「そりゃ、そうですけど。もうっ!本当に、宮畑さんって、、、今までの私の知ってる人と全然違う!」

「そうかな〜。僕はいたって平凡な何の取り柄もない男だけど…」

「そんなことは、絶対にありませんっ!!!」


「「ん?」」


 急に目を見つめ合うと、お互いが下を向き顔を赤くする。


『もう、何なの!?助けて〜〜!』

 

 僕は、心の中でまた絶叫した…。



To be continued…




- - - - - - -


私の作品で、「思いつきの旅に出かけてみませんか?」を一度読んでいただければ幸いです!

ここで登場する羽田空港のエスカレーターで追い抜いていった男性の物語です。

もし、お時間あればどうぞよろしくお願い致します。

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