第28話 缶ビール

 おさらいをしておきましょう。


 後期最初の講義において、教授との面談があることは分かっていたのだが、その面談において、将来のことが話題になるということを親友の彩湖さいこさんから聞いた僕と同姓同名の宮畑木綿みやはたゆうが僕の部屋にやってきた。

 二人で将来の夢を話していた時、僕が、北海道の富良野か美瑛に住むつもりだといった事で、彼女は少しテンションが上がった…ように見えた。


 はい、皆さん、思い出しましたか?


◇◇◇


「北海道?富良野?美瑛?……。えっ!?福岡じゃないんですか?なんで、なんでなんですか?」

「ん?ほら、僕は写真が好きで、年に二、三回、行ってるんだよ。その費用の為にアルバイトをしているという訳なんだ。もうトータル十回以上は行ってるんだけど、行く度に将来絶対にここに住みたいと思ってしまって。だけど、働かないと食べていけないでしょ?なので、現地で高校の教師にでもなろうかなって…」


「そうなんだ。凄いなぁ。偉いなぁ。羨ましいなぁ…」


 急に、声のトーンを落としたと思うと彼女は、僕に爆弾を落とした…。


「宮畑君!あのっ!福岡の時と同じように、美瑛に住む時、私もついていっていいですか?というか、ついていきたいです……」


 はぁ〜!?それって…。

 僕が言葉を無くしていると、「ダメですか…!?」と囁くような声が聞こえてくる。

 僕と一緒に美瑛に住むということなの?

 木綿ゆうさん、貴方、今何を言っているのか、分かっているのでしょうか?



「あの、ちょっと待ってて下さい」


 そう言うと、彼女は僕の部屋から出て、カンカンと階段を降りて行ったと思ったら、二、三分すると、両手に缶ビールを持って、部屋に戻ってきた。


「はい。宮畑君の将来の目標が決まったところで、乾杯しましょう!」


 そういうと、一本を僕に渡すと、自分の手に持ったビールのプルタブを引いた。


『プッシュー』


 僕もそれに釣られてプルタブを引く。


「えっと、宮畑君の夢が叶うように!そして、その夢に向かって歩く宮畑君を私は心から応援していきたいと思います。では、乾杯〜〜!」


 僕らは、軽く缶ビール同士を『コツン』と当てると乾いた咽に流し込む。


「ふっー。最初の一口は本当に美味しいですよね〜。私、今まではビールは苦手だったんですが、福岡でお母様と宮畑君とで飲んだビールがとっても美味しくて。それから、実はちょこちょっこと飲んでるんですよ。ふふっ」


 現実的でもない…、しかもなんの保証もない、ただ僕が勝手に思っている夢物語にこうして本気で応援してくれる人がいる…。それもこんなに近くに…。これって、本当に幸せなことだと一人その喜びを噛みしめる。


「あの、宮畑君!?み、宮畑君!?」


あっ、一人ではなかったんだ!

夢心地の僕の意識は、いつの間にかどこか遠くに行ってしまってたようだ。


 それから僕たちは、気ままにおしゃべりをし、パソコンで動画を見たり、僕の冷蔵庫にあった缶ビールやジュースを飲んだりと二人の時間を楽しんでいた。


「宮畑く、ん!?み、みや、はた、、くんは、写真、、同好会、なん、ですよ、ね…」


 彼女は、何か言おうとしているが、酔いと眠気なのか、全く聞き取れない。だけど、今、写真同好会って言ったっけ!?


 結局、彼女は可愛らしい寝顔で、ソファに持たれたまま眠ってしまった。


 ほらっ!お約束タイムがやってきてしまった。

 あの、決してそれを期待していた訳ではありませんよ!皆さん!!



「ほら、木綿ゆうさん、、寝てると風邪引くよ。部屋に戻った方がいいよ」

「う〜〜ん」

「起きないと…」

「……」


 はぁ〜〜!もう、あり得ない!!僕はこれでも健康的な男子なんだよ。木綿ゆうさんはそこら辺が全く分かってないんだよな〜。多分、素がこうなんだろうけど、罪すぎるわ!!


 結局、福岡の実家でやったように、彼女をお姫様ごっこして、僕の布団に寝かせる。先週、シーツを洗っておいて良かった…。

 そう思いながら、照明を消した僕は、ソファーに寝転び、ただただ天井を眺めていた。


 ふと彼女の方へ目をやると暗闇に目が慣れたのか、薄らと寝顔が見える。


「安心して寝てるよな。ほんと…」


 彼女の寝息が聞こえる…。

 やっぱり、一人で寝るより、二人の方がいい。

 明日も、明後日も、ずっとそうだったらいいのに…。



 ただ、そう思ったのは最初だけで、、、。

 

 それから朝までは、彼女が寝返りをうつ度に、僕の我慢レベルは振り切れ、その度に悪魔の囁きと良心の間で激しい戦いが起きたのです。


 あー!!!これって地獄〜!




To be continued…

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