第29話 写真同好会

「おーい、宮畑。午後の講義一緒だろう?飯でも食おうぜ」

「うーす!久しぶり〜〜。俺、午後、授業ないから暇だったんだよ。混ぜてくれよ!」


 うちの大学じゃあちょっとイケメンで名が通ってる長谷部一也はせべかずや、そして、僕と同じく彼女いない歴=年齢のモテない君、高橋 誠たかはしまことが僕に声をかけてくる。


 実はこの二人は、写真同好会で活動している仲間で、長谷部はそのイケメン顔を使い、可愛い女の子のポートレート中心に撮影活動をしている。そして、髙橋は、サーキットに通っての所謂レース写真専門だ。


「あー、みんな!!久しぶり〜〜!私も混ぜて〜!」


 今日も清楚と可愛いと少しのエロいが混ざった絶妙な感じを漂わせ、僕らに向けて手を振る女性。そう、うちの大学では絶大な人気を誇る美少女の結城佳奈子ゆうきかなこ。彼女もまた、僕たちの写真同好会に所属している写真仲間だ。彼女は、モノクロームで瞬間を切り撮る街撮影まちさつえいにおいては、プロも一目置いている女の子だ。


「宮畑君、みんなで揃うのって久しぶりじゃない?ご飯食べながら今後の打ち合わせしようよ!」

「そうだね。そうしよっか」


 何を隠そう、この結城佳奈子が僕らの写真同好会の部長で、僕が副部長を仰せつかっているのだ。正直、この春も彼女目当ての入部希望が殺到したのだが、今時点、誰一人メンバーにはなっていない。正直、僕は、これだけの人数が入部してくれれば、同好会から部への昇格もあるのではないかと内心期待していたのに、彼女は、入部試験と称して提出させた写真二枚を見るなり、「ごめんねなさい。入部は承諾できないわ」と全員をバサバサっと切っていったのだ。

 その行いが今や伝説となり、それからは入部希望が一切ない状況だ。それはそれで、本当は困るのだけど…。


 でも、まあ、しょうがないか…。


 やっぱり、仲間になる人は、結城と仲良くなりたいという下心なんて持たず、真剣に写真に取り組んで欲しいから。それは、僕ら四人の共通した願いだった。


「ほらっ、行こっ」


 そういうと、結城は僕の手を取ると学食の横に出来た真新しいカフェへと向かう。振り向いた僕に長谷部と髙橋が『にまっー』と笑う。

 な、なんだよ!なんか、気恥ずかしんだけど…。


「おい、ほら、急いで来いよ!」


 僕は、男どもに声をかける。


「えー、俺らって…、お邪魔虫なのでは〜!?」


 長谷部がニヤリとして言い放つ。


「ば、ばかね。打ち合わせって言ってるでしょう?ほら、早く来なさいよ」

「「へいへい〜〜」」


 まったくこいつらときたら……。


 だが、カフェのテーブルの上に自分達が直近に撮った写真を並べ始めるとみんなの表情が一変する。


「これ、、この電信柱って必要?ほら、こうして切った方がいいんじゃね?」

「女の子の表情がやらせっぽいよ。もっと自然な、ほらこっちの笑顔の方がいいと思うけど」

「この子のほっぺに光が当たってるのはいいんじゃない?」

「流し撮りばっかじゃ、なんかつまんねーな」

「ピントが単車のライトに来てるのがいいよね」

「雨の中のスピード写真か、これはかっこいいな」

「これ、長野?もののけの森?う〜ん、惜しいな。苔にもっと艶がある季節の方が良かったんじゃないか?」

「あー、美瑛の向日葵の写真?これいいな〜。見てると元気でてくる」

「ん?これって、誰?」


 結城が、一枚の写真を手に取りみんなに確認する。


『げっ・・・・・・。それ、木綿ゆうさんの写真だ。まずい!混ざってた!!!』


 時既に遅しって前もあったような…。


「「むっちゃ、可愛いじゃん!しかも、凄い自然な表情!!」」


 長谷部と髙橋が興奮している。


「これ、誰の作品なの?」結城がもう一度聞く。


 観念した僕は、右手をゆっくりと挙げる。


「宮畑〜〜!?」

「「「え〜〜〜〜!!」」」


 みんな驚きの声を上げる。

 もう少し小さな声でお願いしたい!だって、カフェにいるみんなが僕を見ているんですけど…。


「いつからポートレート始めたんだよ?お前、風景一筋じゃんか。なんで?」

「いや、これは、プライベートの一枚で。この子にも許可を得てないから。これは、ごめん、僕が隠し撮りで撮ったようなものなんだ。みんなに見てもらうような写真じゃないから、ほら、返してくれよ」


 すると、結城がその写真を僕の手に届かぬように宙でひらひらとさせ、鋭い突っ込みを入れる。


「ねえ、誰?何処の人?モデルさん?凄い可愛いじゃない」


 なんだか凄く棘がある言い方に僕は少し物怖じしてしまう。


「そうだよ。お前、こんな素敵な人がいるモデル事務所知ってるんなら俺にも教えろよ!」


 ポートレートが得意な長谷部も乗っかってくる。

 あー、なんて言おうか…。絶体絶命とはこのことだ…。


 その時、カフェの入り口で、聞いたことのある声が聞こえた。


「ほら、木綿ゆう!こっちこっち。ここ、空いてるよ!」


 何っ!あの子は木綿ゆうさんの友達の彩湖さいこさんだ。

 で、木綿ゆうさんを呼んでいたということは、まさか木綿ゆうさんもここにいるってこと!?


 やばい!まだ、こいつらには…、特に可愛い女の子には目がない男達には木綿ゆうさんのことを知られたくない。


「あー!僕、次の講義の資料の準備がぁー」


 逃げ出した僕に結城がヒステリックに叫ぶ。


「誰!?誰なの!?」

「おい、逃げるなよ!!」

「「「み、や、は、たー!!!」」」


 僕の名前を大声で呼ぶもんだから、ほら、木綿ゆうさんが近づいて来るじゃないか!?


「あの、私を呼びました!?」


 うっ。なんで!!

 なんで、今日は黒縁メガネを付けてないんだ!?しかも、超清楚系の代名詞とも言える白のワンピにピンクのニットカーディガン!!もう、なに!?何が起きてるんだろう!?これじゃあ、注目の的じゃんか…。


 僕は、咄嗟に奴らから離れたテーブルに顔を伏せる。


「いやっ、その、俺らは宮畑って呼んだだけで、き、君のことは呼んでないよ」


 あの、イケメン長谷部がどもってる!!


「あのっ、私の名前も宮畑って言うんです」

「「「はっ!?」」」


 みんな唖然としている…。

 その時、髙橋が溜まらず強い口調で言い放つ。


「紛らわしくてごめんな。俺らは、君じゃ無くて、宮畑佑みやはたゆうのことを呼んだんだよ」

「はい。私もと言います。ねっ!宮畑君!」


 顔を伏せて隠れたつもりだったが、やはり見つかっていたようだ。

 彼女は、僕の方へ顔を向け「にこっ」と笑った。


「ちょっと待って!この写真、この子じゃないの?」

「「あー!!!!!!」」


 「あー」と叫んだ後、わが写真同好会の三人は絶句したままだ。


 あー、、終わった。今日の講義は欠席だな。こいつらが僕を離してくれるはずがない。

 よく見ると、木綿ゆうさんの後ろにいる彩湖ちゃんも「あ〜あ。知ーらないっ」とか言ってるし…。

 そして、一番不思議なのは、結城がなんだか超不機嫌なんだけど!?


 なんなん!?ほんとに!




To be continued…

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