第30話 宮畑木綿(ゆう)という女の子 その四 1/2

 私は今、恋をしています。

 

 それも、一世一代の本気の恋です。この気持ちを彼に伝えるにはどうしたらよいのでしょう?


 そもそも、この気持ちが『恋』ということを私は永らく理解することが出来ませんでした。だって、私は今まで一度も男性とお付き合いをしたことがないんです。だから、彼を見た時の安心感だったり、きゅんとする胸の疼きだったり、もっと一緒にいたいという気持ちだったり…。これって一体なに?と思っていたんです。


 親友の彩湖さいこは、とっくに分かっていたようですけどね…。私が、私と同姓同名の彼に恋をしていることを…。それならそうと早く教えてくれればいいのに!!って彩湖さいこには怒っちゃいましたけど。


「私も早く答えを教えてあげたかったけど、やっぱり自分で解決した方が良かったでしょ?だから、言ってあげたんじゃんか?帰省する彼についていけばって。凄く大きなヒントをあげたのに、木綿ゆうったら全く気が付かないんだから。でも、ほら、ちゃっかり彼のお母さんとも仲良くなったみたいだし、結果オーライじゃんか?私に感謝しなよ〜」


 なんて、開き直って言うんですよ。

 確かに、彼の実家での時間は本当にかけがえのないものだったし、元カノの中塚さんとも会えたり、そして最後には励まして貰ったり…。そう!凄く素敵なお母様と楽しく過ごせたことも大切な思い出です。

 何より宮畑君との距離が一気に狭まったと思うのは、私の思い違いではないはず…。と、信じたいです。


 福岡から東京へ戻ってきた時、私は、自分の気持ちのコントロールが出来ずにいました。


 正直に言います…。


 私は、駅から髙科アパートへ二人で歩いている時、もっともっと宮畑君と一緒にいたいと思っていました。

 だから…、宮畑君の部屋に行きたいですって言いたかったけど…。だけど、そんなこと無理です。言える筈ありません。だから、凄く寂しそうな顔をしている私に宮畑君が左手を差し出してくれた時、凄く嬉しかったんです。

 ほんの少し触れあえただけなのに、私の今の気持ちが宮畑君に通じたような気がしました。


 そうそう、次の日から、毎朝一緒にジョギングをするようになりましたよ。

 毎日、朝六時に私の部屋の前に集合です。最初は、宮畑君はとても眠そうで、そして凄くきつそうでしたが、二週間も経つと別人みたいな走りになってました。なんでも、身体を動かすのは嫌いじゃないみたいです。

 あっ、実は、今日、ジョギングコースの最後にある坂道で、がくんとスピードを落としてしまった私の手を宮畑君が引っ張ってくれたんです…。

 いつもは最後まで走りきれるのに、昨晩私は書き物に熱中してしまった為、寝不足だったのかもしれませんね。


 えっ?あざといって?

 そ、そんなこと……。

 本当に、考えてもいませんからね…。たまたまですから!!

 

 だけど、宮畑君の手って本当に大きくて、温かくて…。ゴール地点で、宮畑君が「大丈夫!?」と言いながらゆっくりと私の手を離した時、もっとこの温もりを感じていたいって心から思いました。

 男の人ってみんなあんなに大きい手なんでしょうか?兄もあんなに大きな手だったかな?

 いえ、大きさの問題ではないんです。きっと他の人の手だったら私はあんなに幸せな気持ちにはならないと思うんです。

 そう、それは間違いないと自信を持って言えるんです。やっぱり、私は宮畑君がいいんです。


 そう、今の私はそんなことばかりを考えています。恋の熱病って、本当にあるんですね。私はずっとその病にかかっているようです。




To be continued…


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る