第23話 初めてのドライブ

 彼女が寝ている部屋の前に行き、「あのー!木綿ゆうさん?そろそろ起きてくださいな!!」と声をかける。

 だが、うんともすんとも言わないので、仕方なく僕は部屋の扉を静かに開ける。本当に、仕方なくですよ。読者の皆様、お間違いなく、、、。


 カーテンから漏れる薄明かりに照らされた彼女の寝顔。

 本当に気持ちよさそうにしてる。

 なんだか、起こすのが憚るな…と思った瞬間。彼女は、パチっと瞳を開くと、僕の方を見た。


「み、宮畑、く、ん!?」


 寝ぼけてるのだろうか?むっちゃ色っぽいんですけど!!!


「お、おはよう。もう九時だから起こそうと思って……」

「・・・・・・・えっ!!!!」


 枕元に置かれたスマホで時間を確認した途端、「あーっ」と言いながら、ベットから飛び起き、着替えをしようと思ったのか、Tシャツを捲り上げようとする。


木綿ゆうさん!ちょっと待った!!落ち着いて!!」


 僕の声で正気に戻ったのか、今度は、Tシャツの裾を下に引っ張る。そして、「ご、ごめんなさい」と呟いた。


◇◇◇


「あまりに居心地が良くて、宮畑君の実家に来ていることを忘れちゃって。寝坊してしまって、本当にごめんなさい。お母様、、お手伝いもせず、本当に申し訳ありません」


 遅い朝食を囲んでいる中、彼女は平謝りしている。


「いいとよ。沢山寝た方が女の子は色々調子が良かとやけん。気にせんでいいけんね」

「うっー。私、実はこういう所がいっぱいあるんです。少しほんわかし過ぎって、母にもいつも言われてるんですけど、なかなか治らなくて…」


 彼女は、トマトを箸で掴むと小さな口元に運ぶ。


「いいんじゃない!?それで。そっちの方が木綿ゆうさんらしくて、僕は好きだな」

「「ぐっ、、」」


 僕が、何気なく言った一言で、母さんと木綿ゆうさんが同時にむせている。


「佑!」「宮畑君!!」


 二人同時に僕に向かって声をだすと、今度は顔を見合わせ笑い出した。


「本当に、、宮畑君は凄いです。私なんか足元にも及びません」


 なんのこっちゃ?と思いながら、僕はいい感じで茹で上がったウィンナーを頬張った。


「さあ、食べ終わったら、行くよ!」

「はいっ!」


 彼女は満面の笑みで僕を見つめた。


 そして今、僕は、母さんの車を借りて、彼女と一緒に北九州市の平尾台にある千仏鍾乳洞せんぶつしょうにゅうどうに向かっている。

 ここは、僕が子供の頃、まだ父が生きていた時、家族三人で出かけたことがある思い出の場所だ。

 冬は暖かく夏は涼しいというとても過ごしやすい場所なのだが、実はこの鍾乳洞は、途中から水の中を歩かなければならない。夏は、その水がキンキンに冷えていて、最高に気持ちいい。ただ、余りにも冷たいから最初水に足を入れた時には、悲鳴と共に飛び上がるのだけれど…。

ん?僕は、もしかして、飛び上がって抱きついて来る事を期待しているのではないか?と思ってませんか?そんなこと、、、勿論、思っていますよ!そして、彼女をしっかりと受け止めますからご安心を!



「これから峠になるから揺れるよ」

「はい。ありがとう。あのー、ガム食べますか?」

「うん。貰おうかな」


 母さんから貰ったのだろうか。小さなビニール袋には、お菓子やジュースが入っている。彼女はその中からガムを取り出すと、包装紙を外し「はいっ。あーん」と言った。

 「あ、あーん」と僕も声を出しつつ口をあけると、ミントの香りが口一杯に広がった。


 なんか、こういうのっていいよなぁ。


 僕と彼女は、恋愛においての経験値は、他の人から見たら『はっ?まじっ?』って感じだろう。勿論、ドライブデートなんてのも今日が初だ。だから、彼女が喜んでくれてるかどうか、正直不安だったのだが、ラジオに併せて鼻歌を歌っているくらいだから、楽しんでくれているのだと思う。

 初めてのドライブが、彼女でよかった。

 僕は、心からそう思っていた…。


 走り出して一時間少しで、鍾乳洞の駐車場に到着した僕たちは、車を降りると鍾乳洞の入り口へ続く長い階段を降りていく。


「ここ、帰る時は登るって事だよね…。登れるかなぁ〜」

「宮畑君、、もしかして運動不足ですか?じゃあ、これから私と朝、一緒に走りますか?」

「えっ、、木綿ゆうさん!!もしかして、毎朝、走ってるの?」

「いえ、雨が降ったら走ってませんから毎日ではないです。距離も少しですよ。たった三キロです。私、甘いものとか大好きで、すぐに食べ過ぎてしまうんです。だから、、、」

「そうなんだ〜。でも、全く太ってないじゃない?分類したら、正直痩せている方だと思うよ。その割にはキュッ・ボンッ・キュッだしね…」


突然、止まった彼女は、真っ赤な顔で僕の顔を見ている。

ん?わなわなしてる!?と思った瞬間、


「ば、、ばかっ!!!!!もう、知らない!」


 そういうと、彼女は、テンポを上げて階段を降っていく。


「あ、危ないよ〜!走っちゃ!」

「走ってません!!早歩きですっ」


 あ〜、、また、やらかしてしまった。

 ほんとに僕は一言多いのがたまに傷なんだよな。これは、毎回母さんにも言われているのだけど、一向に治らないんだよな〜。


 でも、彼女が毎朝、ジョギングしているなんて、知らなかった。

 偉いな…。自分の身体を維持するためにしっかりと考えているんだ。

 でも、朝とは言え、あんなに可愛い女の子が一人でジョギングって危ないよ。ならば、僕が、これからセキュリティポリスのごとく付いていかなきゃな。

 丁度僕も、最近完全に身体がなまってるんので、ちょっとくらい身体をいじめた方がいいのかもしれない。


 東京に戻ったら、彼女と一緒に走ろう。

 これはこれで、、楽しそうだ!




To be continued…







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