第5話 宮畑佑という男子

 僕、宮畑佑みやはたゆうは、どこにでもいる大学院生だ。

 少し痩せ型で、身長は百七十センチちょい超え、決してイケメンではなく面白みがなく平凡な容姿。女子に対して洒落た一言なんて一度も言えたことがない、、そう、ごくごく普通の男子だ。

 

 そんな僕にも輝かしい過去は一つくらいはある。

 それは、、、高校三年の時、ずっと気になっていたクラスメイトの女子に告白されたこと。ただ、それが、卒業式の日だったというのが、なんともタイミングが悪く、後々僕を悩ませるのだが…。

 

 それから二週間後、地元福岡から遠い東京の大学に進学することになっていた僕は、初めて出来た彼女といきなり遠距離恋愛をスタートとする形となった。


彼女:「ねえ、今何してるん?」

僕:「ぼぉーっとテレビ見とる」


彼女:「今度いつ帰ってくると?」

僕:「ゴールデンウィークに帰るつもりやけん」


彼女:「私、車の免許とったっんよ」

僕:「そうなんだー。良かったじゃん」


 僕らは、最初は頻繁に連絡を取り合った。

 付き合い始めてのカップルなら当たり前かとは思うが、あの頃は本当に僕らは仲が良かった…。

 初めての東京生活に慣れず落ち込んでいた時、彼女とのラインは僕の乾いた心を潤してくれた。


 だが、月日が流れる度に、僕たちのやりとりはどんどん希薄になっていった。

 それに、彼女が話す博多弁がとてもダサく思えた。その頃の自分は、すでに東京に馴れ、スマートな言葉を使っていたからかもしれない。


 でも、そんなのは僕の慢心だった…。

 僕の中身は全く変わってなかったのに、無意識に『都会』というものを彼女に示し、自分で自分に酔っていたのかもしれない。


 そんな僕に、彼女は愛想を尽かしたのだと思う。

 秋が深まる頃には、彼女からは連絡が極端に減り、自然消滅というお決まりのパターンで、僕の初めての恋は終わってしまったのだ。


 それからというものの、僕は、女性に対して必要以上に臆病になっていった。

 あの時、彼女としっかりと話し合って別れていれば、こんなことにはならなかったのかもしれないのだが…。


 例えば、大学でも、友人にクラス会や合コンなどに何度も誘われたが、あれこれと言い訳を作り断ってばかりいたし、夏期休暇中に行った自動車免許合宿で知り合った女の子から何度かラインを貰ったが、結局返事をすることが出来なかった。

 そんな時、自分の癖でもある、をしてしまい、『自分が至らない点』を無駄に明確にしてしまうことにより、反省を通り越し、さらに自信を無くしてしまうのだ。



 そうして、月日は流れ、、、、。


 僕は、今日、ゼミで起きた『同姓同名事件』にて、僕と同じ名前を持つ「宮畑木綿みやはたゆう」という女性を知ることとなった。


 それにしても、同じ名前の人間がこんなに近くに居るなんて、尚且つ、、僕の部屋の下に住んでいたなんて、神様のいたずらにしては手が込んでいる。

 

 ただ、凄く不思議なのは、彼女に対してだと、何故か僕は普通に話せるのではないかと思ってしまうことだ。

 それは、同じ名前だからなのかもしれないし、彼女が持つ柔らかい雰囲気なのかもしれない。それとも、彼女がただ単に聞き上手の名手かもしれない。

 正直、理由は全くわからないが、とにかく、彼女に対しては、リラックスして話すことが出来る気がするというのは、初めての感覚だった。


 

 現実に戻そう…。

 下着が入った箱を開けてしまった僕に対して彼女は、今ごろ、どう思っているのだろうか?

 僕の作った『福岡新鮮野菜スパゲッティ』を食べて、少しは機嫌を直してくれただろうか?そして、味は気に入ってくれただろうか?


 僕は、彼女が、お皿を洗って持ってくるということを今か今かと心待ちにしていた。


『ん?それは、何故だろう?』

 



To be continued…

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