第4話 美味しい料理は特効薬

 僕は、今、母から送られてきた福岡の新鮮野菜を吟味している。


 まるまると太った茄子、熟成して真っ赤になっているトマト、黄色やオレンジ、緑の色鮮やかなミニトマト、そして、2Lサイズのアスパラ、大分県産とシールが貼ってる自然栽培の椎茸、ビニールには、春タマネギが三つ、そして、大玉のキャベツには百円のシールが貼られている。


 「すげぇー、これで、百円か〜」


 東京と比べると『本当に福岡は住みやすい場所なんだなぁ』と思わず呟いてしまう。


 よし、今日は、この野菜をふんだんに使ったスパゲッティを作ろう。

 そう思った僕は、早速、箱の中から、キャベツ、茄子、アスパラ、トマトを取り出すと、水でさっと洗い、ざるの上に置く。

 そして、ニンニクを刻んで、ベーコンを一口大に切ると小皿の上に並べた。


 ビニールの中からタマネギを取り出し皮をむいて半分に切る。そして、その半分をみじん切りにし、残りの半分は少し大きめにカットする。

 茄子は、一口大にカットし水を入れたボールに浮かべておく。キャベツ、トマトも包丁で適度な大きさにカットする。

 アスパラは、根本を少しだけ切り落としすと半分に切り、沸騰した鍋に塩をひとつまみ入れた後、根本の方から順番に入れ、約一分茹でる。

 

 さあ、これで、準備は完了だ。


 僕は、アスパラを茹でた鍋をさっと洗うと、たっぷりと水を張ってコンロに置く。お湯を沸かしているうちに、フライパンにオリーブオイルを入れ、まずニンニクを炒める。

 食欲が湧く香りがして来たところで、みじん切りした玉ねぎを投入。その後は一口大の玉ねぎ、そして、ベーコンとキャベツを順に入れ炒める。キャベツがしんなりしてきたタイミングで、塩胡椒をいつもより多めに入れる。


 しんなりした玉ねぎを一欠、菜箸で取って食べてみる。

 

「うん、美味い!」


 僕は、リズム良くフライパンを振ると、ざるから茄子と大きめにカットしたトマトを投入。そして、少し火を通した後、セール特価五百円で買った白ワインをフライパンにたっぷりと注ぎ、急ぎ蓋をする。


 ジュッーという音と共に美味しそうな香りが漂う。

 ここで、一旦フライパンの火を止め、今度は沸騰した鍋にイタリア産のスパゲッティを二人分投入する。

 何故二人分かって?もう、わかるでしょう?そう、さっきやらかしてしまった彼女に持って行くつもりなのだ。


 人は、美味しいものを食べると幸せになり、嫌な事を忘れるという…。

 だから、今日の出来事を過去のものにしてもらう為に、僕は一生懸命に腕を振るっているという訳だ。


『ピッ・ピッ・ピッー』


 タイマーが七分経ったことを知らせる。

 さあ、麺も茹で上がった。

 僕は、トングで麺を掴むと、まだ湯気が登るフライパンにさっと入れ、ゆっくりと具材と絡ませた。


 いよいよ仕上げだ。

 テーブルに置いた白い大きなお皿に綺麗に盛り付けをしていく。

 正直、どんなに美味しい料理も、見栄えが悪ければその魅力は半減するという。できるだけ円を描くようにスパゲッティの麺をお皿に盛り付けたら、最後に、アスパラを一番上で交差させる。

 

 よし、これで、『福岡新鮮野菜スパゲッティ』の完成だ。


 僕は、軽くラップをすると、アパートの階段をゆっくりと降りた。

 そして、一の三号室のドアの前で『ふぅー』と深呼吸をし、チャイムを恐る恐る鳴らす。


『ピンポーン』


「はーい。どちら様でしょうか?」

「えっと、宮畑佑みやはたゆうです」

「・・・・・・・・」


 彼女の声がいきなり聞こえなくなった。

 やはり、まだ、怒っているのだろうか?


「実は、さっき宮畑さんが持って来てくれたのは、実家から送られてきた野菜だったので、それでスパゲッティを作ったんだ。で、お裾分けしたいんだけど…」


 言ってる途中で、いきなりドアが開き、彼女が顔を出した。


「えっ!!本当にいいんですか?もらっても」

「うん、きっと美味しいと思うから、熱いうちに食べて」

「うわぁ、、。美味しそうー!いいんですか?本当に?」

「本当だって、、。さあ、どうぞ」

「ありがとう!それでは、遠慮無く頂きます!」

「・・・・・」


今度は、僕が言葉を無くしてしまった。

その理由は、彼女が、さっきまで付けていた黒メガネをしてないからだった。


『むっちゃ、可愛い……』


 お皿を渡す際に、ほんの少しだけ触れた指先が熱い。

 僕の動揺を嘲笑うかのようにドキドキが強くなっていく。彼女と目を合わせる事ができない。


「食べ終わったらお皿、洗って持って行きますね」

「そ、そうだね。よろしく。あっ、そうそう、、。これもお裾分け。このメニューに合うからどうぞ」


 僕は、レトルトパックを彼女に渡す。


「冷たいコーンスープ?」

「そう。これはこのままお皿に注ぐだけだから超簡単。しかも、味はなかなかだよ」

「うわぁー、、嬉しい!ありがとうございます!!」


 彼女は、きっと分かってないと思う。

 今、まさにこの時……、その破壊力満点の笑顔が、僕を完全にノックアウトしたことを……。



To be continued…

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