第3話 宮畑木綿(ゆう)という女子
私、
この大学院にしかない講座をどうしても学びたい一心で、寝る間も惜しまず猛勉強した結果、今、私はここの生徒になっています!
四年前、大学に入学した際、新しい生活を夢見て、わくわくしながら探したアパート。値段の割にはとても綺麗で気にいってたのに、道の拡張工事に運悪くあたってしまい、急に取り壊す事になったそうです。
大家さんから初めて聞いた時は、本当に哀しかったけど、いつまでもくよくよしてもいられません。だから、次の日から私は、必死で何件もの不動産を回って、ついに『髙科アパート』の一階の部屋を見つけたのです。
改めて考えると、髙科アパートは不思議なところだと思います。
不動産会社のスタッフに連れられて、初めて訪れた私は、外観を見ただけで、心の底からがっかりしていたのです。だけど、部屋に入った瞬間、今度は一刻も早く契約をしなければと百八十度態度が変わってしまったのはちょっと極端ですかね…!?
確かに外観だけを見ると、コンクリートのヒビに白い補修材が埋め込まれているなど、かなりの年季を感じさせますが、一旦部屋に入れば、白を基調とした作りで、とにかくとてもセンスがいいのです。
しかも、ガスコンロ、エアコン、照明などがほぼ新品というのも大きなプラスポイントです。もう、言うことありません。まさにパーフェクトです!
そういうことで、今、私はこの髙科アパートの一の三号室に住んでいる訳です。
実は、今だから言いますが、この髙科アパートに住み始めてすぐ、私は、このアパートに、私以外の宮畑さんが居ることに気がづきました。
何故って?それは簡単なことですよ。だって、このアパートの郵便ポストは一階部分に集合で設置してあります。その二の三号室の郵便受けの部分には、太めのゴシック体の文字で『宮畑』と書かれているのですから。
その宮畑さんが、まさか同じゼミの宮畑さんとは露程も知りませんでしたが…。
少し話を変えましょうか。
実は、私、、、過去を振り返って反省したり、今後はこうしようと考える時間がとても好きなのです。所謂、シミュレーションってやつです。友達には『あり得ない』などと良く言われますが、好きなものは好きなんだからしょうがないです。
ただ、今だけは、さっき起きた出来事を振り返るのはよそうと思います。というか、とても出来ません。
きっと、いつもの冷静な判断で考えることは絶対に出来ないと思いますし……。
ということで、もっと昔まで遡ってみましょう。
実は、私の過ごした高校三年間は、正直、とてもきつい時間でした。
自分で言うのもなんですが、私は、ちょっとだけ、そう、ほんのちょっとだけ、クラスで注目を受けるくらい容姿が良かった(言っておきますが、これは他人が言っていたことで自分ではそう思ってないから)みたいです。
だからでしょうか!?とにかく毎日毎日、色んな人が私に話しかけてくるのです。
例えば、授業の合間の休憩時間、私は机に突っ伏して、ぐだーとしてしまう性格なのに、あれだけひっきりなしに人がやって来たら、そりゃ、そういうそぶりは出来ません。そして、さらに最悪なのは、周りではやし立てる人達によって、『私』という人格が勝手に形成されていったこと…。
もう、これは、悪夢を通り越して悲劇です。
私は、この人達が作ったイメージによって、動かねばならない形に徐々に追い込まれていったのです。
例えば、私は、お腹が空いていてもおにぎり三個は食べれないし、成績も常に一桁以内でないと駄目だし、髪の毛はいつも綺麗でなければならないし、スタイルはスレンダーを維持しなければならないし、言葉使いも丁寧でなければならないし、学級委員や生徒会役員にも立候補しなければならないし……。
あー、思い出してもムカついてきます。
そういう嫌な時間を過ごしてきた私は、大学に入学したら『大学デビュー』の反対である『大学ひっそり』をしたいと願っていたのです。
だから、意識的に目立たないようにしましたし、とにかく男性を避けていました。
そして、念には念を入れて、、、、。
皆さんが可愛いと無駄にはやし立てる自分の顔を出来る限り隠すように、度が入ってないレンズのメガネを付けている事は、友人にも内緒にしています。
ただ、流石にやばいという事もあるのです。
もう、スタイルを気にしなくてもいいんだという喜びで、本来大好物のスィーツを思うがままに食べていたら、今までは余裕があった下着がどんどんきつくなっていくではありませんか。
しかも、私は、太るとその大半が胸に来るようで、ウエストや二の腕などは、以前のサイズのままで、胸だけ大きくなったのです。
この悩みを、大学入学から仲良くしている
「それにしても、まさか、同姓同名って、、本当にあるんだなぁ〜」
私はふと呟く…。
正直、宮畑という名字を持つ人は、過去に何度も会ったことはあるし、今までは、そんなに気にしたことはなかったです。
だけど、漢字が違うとはいえ、名前の読み方まで同じという人がすぐ近くに実在している、しかもそれが男性だと思うと私の心は少しだけ乱れるのです。
果たして、もう一人の
そうですね、、同姓同名の彼への第一印象は、なんだか落ち着く雰囲気がある人だな、そして、きっといい人なのだろうという感じでした。
だけど!!!前言撤回です!!!
女性の下着メーカーのロゴがあれだけ大きく印刷された箱をなぜ開けるのでしょう!?で、その中身をなぜ見るのですか!?絶対におかしいです!!!!
「大丈夫だって。淡いピンク色で可愛い感じのものしか見てない」
あー、、また思い出してしまいました。
振り返りたくなかったのに、どうしても彼の言葉をまた思い出してしまいました。なんか、済ました顔でこの発言って一体何を考えているのでしょうか?
今日は、余りの恥ずかしさに私の方から逃げて来ちゃいましたが、今度会ったらしっかりと私の意見を述べさせて貰いましょう。
私は、そう考えながら、ついさっき、もう一人の『みやはたゆう』から奪還した箱を開け、中身を取り出し、そして、軽く胸にあててみる。
「このピンク、、淡い感じで超可愛いー!!!」
ん?もしかして、私、彼と同じ事を言っている??
To be continued…
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