第34話 占い
カフェ『ガルーダ・パートツー』でバイトを始めて早いもので三年が経った。
最近では、マスターがちょっと店を空ける際は、僕が厨房に入り、ドリップコーヒーを入れたり、フルーツパフェやバナナサンデーなんかも作ったりする。
昔から、料理は得意というか、僕と母さんの二人暮らしだったし、それに母さんはフルタイムでしかも、たまに残業もしていたので、自ずと僕が料理担当となったことも僕の料理スキルが上がった理由だと思う。
「宮畑くん〜。
マスターが常連の高木さんからオーダーされた水出しアイスコーヒーをコップに入れながら突然話しかける。
それ、今、聞くことですか?と言いたいのを堪え、僕は、マスターに一歩二歩近付き小声で話す。
「マスター。この話は、僕とマスターの二人の秘密ってことになってますよね!なのに、そんなに大きな声を出して…」
「あ〜〜!いや〜悪い悪い〜〜」
これって、絶対わざとだなと思う。
だって、常連の高木さんも
すると、白髪が銀色のように輝くオシャレな老人である高木さんが、ストローの袋を破りながら僕に向かって話し出す。
「宮畑君、彼女を逃がしたら、君は一生一人だよ」
未来はこうだみたいなことを、ぽつりと言うから怖い。
そう、この白髪の老人、高木さんは、都内ではかなり有名な占い師で、池袋の路上に気まぐれのように出没すると、自分の人生を見てもらいたい人達がすぐに長い列を作るという。そして、その人達からは、『未来を語る白髪』と呼ばれる凄い人みたいだ。
「高木さん、怖いこと言わないで下さいよ!だって、僕が彼女を好きでも、彼女は違うかもしれないじゃないですか!?」
「あー、それはそうだね。ふふふ」
いや、ふふふって…。もっとそうじゃなくて、「彼女は君に惚れてるから安心しなさい」とか言って欲しかったのに!
高木さんが、美味しそうに水出しアイスコーヒーを一口飲む。
「美味いね。いつも。流石だ」
この小さなカフェを一人で切り盛りしているマスターにとっては、最高の賛辞だと思う。
確かに、マスターがいれるこのアイスコーヒーは本当に雑味がなく、クリアでいて優しい味が特徴の銘品だ。僕がどんなに真似をしてもこんなに美味しいコーヒーは作れない。
皿を布巾で拭きながら、「高木さん、宮畑くんの手相みてやってくださいよ。もう、ほんと進展が遅すぎて、こっちの方が苛々するんですよ」なんてことを言う。
「いいですってば。占って貰わなくても、自分のことはわかってますから!」
僕は意地になってそう言ったものの、内心は見てもらいたいという気持ちは少しはある。そんな僕の表情を見透かしたように、高木さんは、「あっ、ならやめておこうか」と素っ気ない態度で、またストローに口を付けた。
くそ〜〜、ここの大人達は本当に僕に意地悪というか、僕で遊んでいるというか、揶揄ってるというか…。
「あのっ!高木さん。嘘です。是非見て下さい。よろしくお願いします」
僕は、大きくお辞儀をすると、恥ずかしさとちょっとしたワクワク感の気持ちを抑え、両手を高木さんに差し出す。
すると、高木さんは、「しょうがないな〜」なんて言いながら、さっきまでの緩い雰囲気からきゅっと眉毛を斜めに上げた。
「うん。これは…!」
「えっ?なんですか?」
僕は高木さんの声に驚き次の言葉を待つ。
「はははは。モテモテの相がが出てるよ。やっぱり、気をつけないと大事な人が逃げて行くよ。そして、趣味はちょっとしたスランプに落ち込みそうだが、まあ、これは大丈夫だろう」
えっ、終わり!?だから、占いの類はいやなんだよな〜。だって、そう言われても、どうしたらいいか、結局分からないから…。
僕が、「あー」と両手で頭をコンコンと叩いていると、
「高木さん!後で、私にだけは詳細を教えてくださいね〜!もう、心配で心配で…。
『僕じゃないんかいっ!』と心の中で突っ込みを入れる。
僕の事なんか全く心配していないマスターは、高木さんに「サービスですよ」と『あまおうチョコレート』を渡している。
「そのチョコレート、
「あー、宮畑君と一緒に帰省したらいしじゃない?マスター!何か面白いエピソードって知らないの?」
「ふふふ、沢山ありますよ〜。あとでじっくりと話をしましょう!」
それにしても、
まあ、あの容姿であの性格だから、おじさま達はコロリだよね…。なんて、思いながら、二十時になったのでタイムカードを押す。
「マスター、金曜から日曜まではすみませんが、お休みをいただきます。その代わり、来週はみっちり働くので!」
「わかってるよ。えっと、何処に行くんだい?撮影だろ?」
「はい。裏磐梯の方へ行こうかなと…。今度、合宿もそこでやるので、ロケハンも兼ねて。」
「写真展は十一月だっけ?」
「そうです。一人五枚を全倍サイズのクリスタル紙に印刷して展示するんですけど。まだ、僕は三枚しか気に入ったものがなくて。だから、あと二枚をなんとか頑張りたいと思ってるんです」
「そうか、頑張ってな。そして、気をつけて行くんだよ」
「はい!ありがとうございます!」
僕は、店のドアを開けると、振り向きざまに、「あっ、マスター!ブレンドとブルマンを間違ってお客様に出しちゃダメですよ。大赤字ですからね」
「そ、そんなことない…。いや、あったな前に。ははは。うん。気をつける」
ちょっと、やり返すことができたかな?
ふふふ。慌てたマスターって、なんとなく可愛いんだよな。
「では、マスターまた来週!高木さん、ごゆっくり〜」
そう言うと僕は、髙科アパートに向けて歩き出した。
『そういえば、市指定のゴミ袋が無くなっていたな』
僕は、髙科アパートへ帰る道中で、コンビニに立ち寄り、指定ゴミ袋をレジに持って行く。その時だった、黒のジーンズにグレーのスニーカー、そして濃紺の半袖パーカーを来たラフな出で立ちの美少女とすれ違った。
「宮畑君?」、「
ちょっと顔が赤い…。しかも、少しふらついているみたいだ。
どうしたんだろう?
To be continued…
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