第33話 好きなんだ…

 僕は、今、サイゼで写真同好会の部長である結城加奈子から詰問されている。


「あの子と付き合ってるの?」


 結城らしいシンプルでいてとてもストレートな質問。

 何故か、それを受けた僕も気持ちがいいと思えた。


「ううん。まだだよ。彼女、あんなに可愛いし。僕なんかじゃ…ね…」


 僕も結城に釣られたのか、今思っている正直な気持ちを話す。


「ふ〜ん。じゃあ、好きなんだ?」


 えっ?なんで泣きそうな顔をしてるんだよ。


「好きかって?うん、そうだね。僕はきっと木綿ゆうさんが好きなんだ」


 僕は、思いの丈をぶつける。


「ふ、ふーん。そ、そうなんだ。で、いつからなの?それって」


 アイスティーのストローを意味も無くぐるぐるとかき混ぜる仕草…。これって、結城が何か悩んでいるときの癖だ。


「実はさ、この前、僕が帰省した時、彼女が付いて来たんだよ」

「はっ?嘘でしょう?なんでそうなるのよ?」

「それはわからないよ。彼女も何か自分の気持ちが分からないということで、とにかく僕についていけば答えが見つかるからって…」

「はぁー!ありえないよ!何、それ!」


 結城はテーブルを乗り出すように僕に近づく。


「つーか、よく宮畑君、その子を自宅に連れて帰ったわね。それ、私が頼んでもそうしてくれたの?」

「うん。わからないけど…。でも、たぶん、そうしただろうね」

「えっ。嘘…。酷いよ。私も行きたかったよ…。本当にもうっ!!あっ、そうだ、次、次は年末に帰るんでしょう?じゃあ、年末は私が付いていくから!」

「い、いや、それって、無理だってば。帰省毎に違う女の子を連れて帰れる訳ないだろう?」

「何言ってるのよ。そんなの知らないから。宮畑君が悪いのよ」

「いや、それって…」

「いいえ!!!私は、付いていきますからっ!」


 やばい。やばすぎる。こんなの木綿ゆうさんに言ったら、大変なことになる…。でも、それは僕が勝手にそう思っているだけで、本当に大変なことになるのだろうか?

 いやいや、それよりも…、そんな事したら、母さんに完璧に軽蔑されるよ…。


 ちょっと、この展開は想像してなかった、というか、ヤバすぎる!!

 あー、一体どうしたらいいんだろう。


 あっ、女の子慣れしている長谷部に相談してみよう。あと、木綿ゆうさんの友達の彩湖さいこさんにもコンタクトを取って見たほうがいいかもしれない。


 僕が頭の中でそんなことを考えていたら、


「嘘よ。そんなこと私に出来る訳ないでしょっ」


 ふっと寂しそうに笑う結城が呟く…。でも、その姿を可愛いと感じる僕はどうかしてるのだろうか?


「今日ね…、私が宮畑君を呼んだ理由はね、宮畑君がその子に腑抜けて、写真に対して手を抜くかもしれないと思ったから。それを確かめたかった訳。まぁ、そうじゃないみたいだから、いいんだけど。でも、もし、本当にそうなったら私は容赦しないからね」


 そう言うと、さっきの笑顔から一転、今日一番の鋭い眼差しで言い放たれた。

 僕は、黙って、ただただうなづいていた。


 『宮畑君が悪いんだからね』とその後も何度も言われ、謝ってばかりの僕だったが、結城とこうして話をすることで自分の気持ちを整理出来た面もあったと思う。そして、結城もやっといつもの感じになってくれたし、今日は、僕がご馳走するとしよう…。


「宮畑君は右だっけ?」


 店を出た場所で、結城がまだ何か言いたそうな表情をしながら僕に言った。


「うん。そうだけど、まず結城のマンションまで送っていくよ。やっぱり女の子一人は危ないし」


 すると、パッと笑顔になった結城は、「ふーん、好きな子がいるのに私にも優しくするんだ」とちょっと拗ねた声で呟いた。

「ばか、これって友達として当たり前の行為だろう?しかも、結城は僕が尊敬している写真家だし」


 すると、結城は僕を見上げて嬉しそうに笑った。


「ありがと。今は、それで十分だよ。さっ、行こっ」


 彼女は僕の腕を持つと、いつものようにぐいぐいと引っ張っていく。


 何がそれで十分なんだろう?

 僕はちょっとご機嫌の結城の横で、そう考えていた。




To be continued…

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