第40話 罰ゲーム

 僕らは予定通りの撮影地を廻り、沢山の写真を撮った。

 勿論、僕は、初日の夜に気が付いた『楽しんで撮る』ということを次の日から実践した。

 昔、僕が初めてカメラを買って最初の一枚目を撮った時の気持ち…。そんなピュアな心を思い出したような気がする。


 とにかく、楽しかった。


 木綿ゆうさんと一緒に「あそこ!ほら、あの光!」、「あっちの空に面白い雲が!」なんていいながら、撮影をする。勿論、撮影する際は、必要最低限の設定はするが、僕は、心が趣くままにシャッターを切った。だからだろうか、自分でも心に刺さるような写真が数枚撮れたのだ。


 僕は、ふと振り返る…。

 そこには、僕が予備で持って来た所謂コンデジと言われる小さなカメラを持って、あちこちと動き回っている木綿ゆうさんがいた。


「楽しい〜!これ!このカメラ、スマホよりすっごく綺麗に撮れる〜!あの〜、ごめんなさい。今、聞いてもいいかな?」

「なになに?」

「ほら、これ、このダイヤル動くんだけど、どうやって使うの?」

「あ〜、これはF値っていってね、ほら、この数値を小さくすると背面がぼけて、数値を大きくすると遠くまでピントがぴったり合うんだよ」

「へぇ〜、どんな時に使うの?」

「うん、ほら、例えば、これ。この赤い小さな花にピントを合わせて…、F値を小さくする。ほら、見て」

「え〜〜、凄い〜。後ろが綺麗にぼけてる〜!」

「でしょう。まずは、ここからやってみて。あと、遠くにピントをしっかりと合わせたい時は、F値を8くらいにしてね」

「うん。ありがとう。邪魔してごめんね」

「大丈夫!」

「ありがと!」


 小走りで湖に近付く彼女の後ろ姿を見るとこの二日間の夜のことが思い出される。


 交代で、温泉で汗を流した僕たちは部屋でまどろんでいた。福岡に帰省した際のこと、大学院のこと、そして、お互いの友達のこと…、それからは、いつの間にか恋バナになったのだが、それにしても、彼女の天然というか素直というか、そういうのに当てられ、僕はもうずっと動悸はするは顔は熱いわで大変だった。

 昨夜、彼女がいった好きな人って、絶対に僕じゃない?って確信できるくらい、ぶっちゃけていたというかなんというか…。

 逆に、僕のことなの?本当に?と勘ぐってしまうよ。木綿ゆうさん、君って本当に罪な人だ。

 僕は、彼女がカメラでトンボを撮っている姿を見ながら大きな欠伸をした。それは、彼女の寝顔と寝息、たまに布団からはみ出ている足など…、この二日間、とても眠れる状態ではなかったのだ。

だって、二十歳超えて、まだ女性経験がない僕にとって、あんなの拷問のなにものでもない!!



木綿ゆうさん、じゃあ、次の場所に行こうか。次が最後の撮影だよ」

「そうなんだ。終わっちゃうんですね〜。なんだか早かったな〜」

「ほんと、あっという間だったよな。ただ、最後に行く所は、ちょっと面白い所だよ。だけど、体力使うから覚悟しておいて!」

「ふ〜ん。私は絶対に宮畑くんよりも体力あると思いますよ。だって、ずっとジョギングしてたし」

「いやいや、僕が本気を出せば木綿ゆうさんなんて…」

「はぁ、言いましたね!じゃあ、ここから車まで競争です。競争!」


 やばい、木綿ゆうさんに火を点けてしまった。


「それでは、ヨーイ!ドン!」


 って、まだ僕は、三脚も直してないのに、絶対に負けるに決まってるよ〜!


「宮畑君、何やってるんですか?負けたらまた罰ゲーム有りますからね!」


 そういうと、自分のリュックをひょいと担ぎ、湖に注ぐ小さな川に点在している石の上を見事に飛んでいく。そして、あっという間に渡りきった。


「早く!先に行くよ〜!」


 もう、適わないな…。ほんとに…。ははっ。


「こらぁ〜!ずるいぞ!!」


 僕は、大きな声を出しながら両手に荷物を持つと、彼女に向かって走り出した。


「はい!私が一番!!」

「ず、ずるいってば。せめてスタートは同じタイミングにしようよ」

「ダメです。だって、女子なんだから、少しくらいハンデを貰ってもいいでしょう?」

「ま、まぁ、そうだけどさ」

「じゃあ、宮畑君が負けたから私の質問に答えて下さい」

「もう、しょうがないな〜」

「宮畑君は、今、


『ドサッー』僕は、ついつい大事なカメラバックを地面に落としてしまった。

何を言わせるつもりなんだろう?これって、やばすぎる。なに言ってもやばい奴じゃないか?


「それは、ちょっとここでは…」

「ここでは?」

「言えないというか、言いにくいというか…」

「負けたのに?私に」

「いや、それって、酷くない!?」

「いいえ、勝負って厳しいものなんですよ。だから私も色々と勝てるように頑張っているんですから」

「それって、なんのこと?」

「ほら、脱線しちゃったでしょう?早く早く!」


 僕は、もうどうにでもなれと思った。


「好きな人は、だよ!!!」

「へっ…」


 しばらく沈黙が続く…。


「宮畑君、ご、ご自分の事が好きって…。それって、ちょっとやばくないですか?」


ちょっと引き気味に笑う彼女に、僕は正直安堵する。


「あー、これで良かったのか、助かったのか…、超微妙だ〜」




To be continued…

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