第12話 揺れる飛行機の中で
いよいよ飛行機が離陸する。
僕たちは、チェックインする前に、カウンターで席を隣同士に変更してもらったので、二列シートに並んで座っている。
なんだかとても良い香りがする…。
僕は、本を読むのが趣味だから、これまで多くの物語を読んできた。その中にある『女の子とはいい香りがするもの』というのは本当だったのか…と、この年になって初めて知ることになった。
でも、こんなこと言ったら、絶対に変な奴と思われるかも知れないから、黙ってこの香りを楽しもう。 って、変態じゃんか!!
荷物検査を通る時、「初めて飛行機に乗るんです」といった彼女はどこか不安げだった。
「飛行機嫌いなの?」と聞く僕に、「あの乗り物が好きって言える人っていないですよね?」とちょっと拗ねた声で反論する。そんな仕草も可愛い…、なんていうとまたまた拗ねちゃうんだろうな。いや、そんなキザなこと言えるはずもないけれど…。
離陸を知らせるチャイムが四回鳴った。
飛行機は、『グォー』と音を立て、猛スピードで滑走路を勢いよく走り出していく。背中がシートに押しつけられる。いよいよテイクオフだ!
飛行機は順調に高度を上げているようだ。
ふと、隣を見ると、彼女は肘掛けをぎゅっと握っている。緊張しているのだろうか?窓側の席を譲ったのに、全く外を見ずに、下を向いたままだ。
「あっ、富士山が綺麗に見えるよ!」
雲間から、頂上付近だけを覗かせる富士山が見えてきた。僕はスマホを取り出し、窓に近づけると何回かシャッターを押した。
だが、彼女といえば、相変わらず下を向いたままだ。
「大丈夫?」
「・・・・」
これは重症みたいだ…。しばらく、そっとしておこう。
しばらくすると、飛行機は水平になった。
幾つもの雲が近づいては消える。雲の絨毯が光を浴び、陰影がはっきりとして素晴らしい情景が目の前に広がっている。
僕は、窓から見える景色を一人で楽しんでいた。
すると、、、、
急に飛行機が大きく揺れだした…。
「低気圧の影響で、ところどころ大きく揺れております。揺れましても飛行には全く影響ありませんのでどうぞご安心ください。尚、客室乗務員も機長の指示で着席しております。お客様へのサービスが行き届かないことをお詫び申し上げます」
まじか…。
これって、これから結構揺れるということだよな!?
「宮畑君。大丈夫なんですよね!?凄く揺れているんですけど…」
「うん。大丈夫」
「宮畑君、、本当に大丈夫?私、やばいです。怖すぎます」
彼女は、どんどんか細い声になってきている。
「大丈夫。さっき、アナウンスあったでしょ!?飛行機は揺れても大丈夫なんだから、、」
実は、そういう僕もかなり動揺していたのだが、それを彼女には見せたくない。
だが、そんな僕の思いとは裏腹に、『ガタッ、ガタッ』と飛行機は、さっきより激しく上下左右に揺れ始めた。
「きゃっー」
彼女は、小さな悲鳴を上げると、僕の腕に咄嗟にしがみついた。そんな彼女をせせ笑うかの様に、飛行機は上下左右と小刻みに揺れ続ける。
その間、彼女はずっと僕の腕にしがみついたままだ。
僕は、飛行機の揺れの怖さより、彼女の腕の温もりの方に気を取られていく、、。
『あー、やっぱ可愛いなぁ』
こういう時にこんな気持ちになるのは不謹慎だとは思うけど…。しかたないよ。本当に可愛いんだから!
怖がっている彼女の頭でも撫でてやりたいところだが、流石にそれは馴れ馴れしいだろうなぁ。せめて、なにか気の良い言葉でもかけて上げたいけど生憎、僕にはそんなスキルはない。
そんなことを思っていたら、漸く厚い雲を抜け出たのか、揺れが少なくなってきた。
すると、『ポーン』という音と共に、シートベルト着用サインが消えた。
ふぅ、良かった、、、。でも、ちょっと、残念かも。
だって、もう少し彼女の温もりを感じていたかったのに…。
機内は安心感で包まれ、さっきまでの妙に緊迫した雰囲気は消えていった。前の方から客室乗務員が、ドリンクを順番に配り始める姿が見える。
「お飲み物はいかがですか!?コーヒー、お茶、リンゴジュース、スープなど取り揃えております」
僕らの席に近づいた客室乗務員が、腰をかがめて尋ねてきた。
「「えっと、リンゴジュースで!」」
もう、何度目だろう。またまた、ハモる様に一言一句違わない言葉を発する僕たち二人に、客室乗務員も「仲がいいんですね!」とウインクしながら、リンゴジュースを渡してくれる。
「まだ、揺れるかも知れませんから少なめに入れていますので、お代わりなどご遠慮なくお申し付けくださいね」
「「はい。ありがとうございます!」」
「ふっ」
日頃、冷静沈着であろう客室乗務員もついには噴き出す始末。
あー、僕らって、本当に、凄いな……。
「着陸態勢に入りました。シートベルトは、緩みのないようにしっかりとお締めください」
約二時間のフライトが終わろうとしている。
そう言えば、揺れがなくなった今も彼女の腕は僕に絡まったままだ。彼女は一体どういうつもりなのだろうか?
思わせぶりなのだろうか?でも、そんな事をするような子には到底思えない。
僕は、彼女のことで頭がいっぱいになっていく…。
『あー、、これってなんなの!!!』
To be continued…
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