第44話 まさか・・・!?

 大学院の必修は、回を増す毎に専門的に、そして教授からの指摘も厳しいものになってきた。そして二年後、僕は就職をすることになるのだが、以前、木綿ゆうさんに語ってしまった夢を僕は叶えることはできるだろうか?

 木綿ゆうさんはどうなんだろう?あの時は、「宮畑君について行きます」なんて言ってくれてたけど、まあ、冗談だろうな…。でも、聞きたい。もう一度確かめたい。彼女の本当の気持ちを…。


 そんな事をぼんやりと考えながら、僕は教授から出された課題を終わらす為、図書館に向かっていた。木枯らしまでとは言わないが時折冷たい風が吹いている。僕は、ポケットに両手を突っ込むと肩をすくめて早足で歩いていく。

 その時、ふと木綿ゆうさんの声が聞こえたような気がしてキャンパス内のメインストリートから一本外れた小道を見ると、丁度木綿ゆうさんが、大学の裏門に向かっているところだった。

木綿ゆうさ…ん!」僕は、声をかけようとして…、すぐに、上げた右手を下ろした。


「えっ?……」


 あとは言葉にならなかった。


 木綿ゆうさんの横に長身のイケメンがいる…?いや、たまたま横を歩いているだけだよな。僕は何を焦ってるんだ?

 ん?いや違う!その彼を見上げながら木綿ゆうさんが何か話をしているじゃないか…。

 僕は、両手で目を擦る。見間違いか?いや、あれは確かに木綿ゆうさんだ。しかも、白セータにチェックのコートといつもよりちょっと大人びた雰囲気が漂っている。そして、横に並ぶそのイケメンも、スェードの濃紺のジャケットに黒の細身のパンツをとてもスマートに着こなしている。

 だからだろうか!?木綿さん共々その二人は、半端ない異彩を放っていた。美男美女ってこういうことを言うんだな…。


「はっ…、僕って本当に馬鹿だ。大馬鹿野郎だ!」


 僕は、自分に向かって最大限の悪態をつく。長谷部が言ってた通りになってしまった。こんなに哀しいのなら何故もっと早く彼女に打ち明けなかったのだろう?なぜ、もっともっと言葉にして伝えなかったのだろう…。

 プレゼントも買ったけどもう彼女に渡せるわけがない。友達としてどうぞなんて言ったとしても、金額を知れば、高過ぎるよとひいてしまうだろう。いや、返却されてしまう可能性さえある。


 僕は大きなダメージを受けつつも無意識に彼等を目で追っていた……。

 もう、見たくないよ!あの男は木綿さんの彼に決まってる…。でも、、そう確信をしているのに、まだ心のどこかでそうじゃないと叫んでいる僕がいる…。

 だが、神様は残酷だ。僕がそうじゃないと思った時、木綿ゆうさんの小さな手がそのイケメンの腕に絡まっていったのだ。まるでスローモーションのように…。そして、とても幸せそうな表情で木綿ゆうさんが何か一言呟いたようだ。

 

 僕は、これ以上、冷静を保つことが出来なかった。そして、踵を返すと全力で走り出した。


 その日の夜、彼女は僕の部屋には来なかった…。


◇◇◇


「ねえ、宮畑君、どうしたの?さっきから上の空でさあ〜。私が今なんて言ったか言ってみて!」


 今週末迄に、写真同好会の来期活動計画を大学の総務部に提出しなければならないから一緒に考えてよと、部長の結城加奈子からいつものサイゼに呼び出されたのだが、どうやら僕は結城の話を全く聞いてなかったようだ。


「あー、ごめん。聞いてなかった…」

「もう、なんなの!?その覇気のなさって」

「う、ん。ごめん。あっ、結城が考えた計画でいいと思うよ。これまでも外したことはないからさ」

「あのね。そんな私ばっかりが自分がしたいようにして良いわけないじゃん。宮畑君も私達四人の為、そして私達の写真を見てくれる人達の為にもきちんと考えてよ!もう、しっかりして!」


『バチン!!』と僕の背中を思いっきり叩いた結城はちょっと涙目だ。


「ごめん。ほんとにごめん。ちゃんと僕も考えるよ」

「ん…。なら、いいよ」


 それから僕たちは、約三時間、ピザとドリンクバーで粘りつつ、来期の計画を練った。


「終わったね。これでいいよね!?去年より凄くいいよね!?なんか私達も進化しているな〜って思うと凄く嬉しいよ」


 パソコンを使って年間スケジュールの立案をしていたこともあり、四人掛けのテーブルに僕らは並んで座っている。いい企画が出来たと結城は少し興奮しているようで、ぐいぐい僕の方へと身体を寄せてくる。少し緩めの胸元がとてもエロくて僕はどぎまぎしてしまう…。ついさっきまで木綿ゆうさんのことで落ち込んでいたのに、本当に男ってやつは…。


 でも、それにしても結城は、僕に対しての距離感が近すぎる。


「結城…、あのさ、胸、ちょっと見えてるけど…」


 僕は、つい思っていたことを口にだしてしまう。すると、「見るなしっ」と言って、緩い胸元のシャツをズリ上げた。結城の顔が少し赤くなっているように見える。だが、一旦離れた結城は、頬を染めたままズリズリと僕の方へ寄って来ると、


「あー、見たい!?いいよ。だって、宮畑君、今弱ってるもんね。元気づけてあげなきゃね。はいどうぞ!」

「ばか〜!!お、おまえ—!」

「ふふっ、嘘っ〜!」


 あー、なんか結城に気を使ってもらっているな〜。

 ありがとう結城…。僕は、ほんのちょっとだけど失恋の痛手が和らいだような気がするよ。


「宮畑君、家まで送ってくれるでしょう?だって、もう十一時だし…」

「うん、勿論、行くよ。女の子一人は危ないだろう?」

「ふ〜ん。でも、宮畑さんはいいの?他の女の子を家に送るっていったら怒るんじゃない?」

「いや、僕と彼女はそんなんじゃないし。しかも、彼女にはすごくイケメンの彼氏いるからな」

「えっ!!!!!!!」

「いや、そこ、そんなに大声で驚くところか?」


 急に大声を発した結城は、両手で顔を隠しつつ、開いた指先から僕を鋭い眼差しで見つめている。


「そ、そうなんだ〜。ふ〜ん。じ、じゃあ、いこっ」

「うん。なんか流石にこの時間は寒さもしびれる感じだな」

「じゃあ、手でも繋ぐ?」

「ば、ばかっ。揶揄うなよ」

「ケチ—!」


 そんな感じで言い合いをしながら僕らは結城のマンションに向かって歩き出した。



 木綿さんの誕生日まで…あと二日。



To be continued…



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