37発目 旅の目的
「あ、あなたは……?」
オレの足元に寝る団員に痛みつけられていたであろう住民が、怯えた態度で名を聞いてくる。
「自己紹介はあとだ。みんなを里の入口まで誘導してくれ。オレの仲間がいる」
「は、はい……!」
さて、駐屯所にはどれほどの人員がいるのだろう。
分からないが、こんな下衆なことしか出来ない連中だ。大したことは無さそうだし、さっさと片付けるか。
「……だ、誰だ! 労働もせず、許可もなしに入るとはいい度胸だな!」
小太りの団員。
そいつがオレの顔を見るなり槍を構える。
「里の人間じゃないし労働の義務はない」
オレは小太り団員へ真っ向から詰め寄り、手刀を喉仏へめり込ませる。
「それに、今から壊す施設に入る許可なんていらねぇだろ?」
「……が、はぁ……っ!?」
手刀を叩き込まれた喉を押さえ、苦しそうにもごく団員を尻目に、オレは施設内を探索しつつ進んでいく。
色々と聞き出したいことがあったのに、さっきはやり過ぎたか? とても聞き出せる状態じゃなかった。
「おいそこのお前! なぜここに入っている! 持ち場にもどれ!」
前方からおあつらえ向きに情報聞き出し要員がやってくる。
「部外者だから持ち場ねぇよ」
「部外者!? 何が目的だ!?」
「質問があるのはこっちだよ」
相手の団員は剣を抜き、荒い太刀筋で無謀にもオレへ挑む。
「拠点から送られてくる物資の保管場所は?」
身を低く懐に入り込み、オレは素早く相手の剣をはじき飛ばす。
そのまま胴体に軽く拳をぶつける。
「だ、誰が言うか……」
「死にたくなければ言えって」
もう2発、今度は強く拳をぶつける。
「ほら、早く早く」
距離を取り、勢いをつけて蹴りを繰り出す。
飛ばされた団員は、壁に身を打ち付けた。
「ぐ……ぅ……つ!」
「まじで仕留めちまうぞ」
雑魚のくせになかなか口を割らないな。
仕留めないよう、肩を足裏で蹴り飛ばし、なんとか気絶しない程度で痛めつけたい。
「おい、もう吐いて楽になれよ、物資の保管場所は? あと隊長は奥にいるのか?」
「う、うう……地下……地下に保管庫があります……隊長は奥ですぅもう許してくださいぃ」
「よし、ご苦労」
もう吐ける情報はなさそうだし用無しになった団員を、優しいオレは1発の蹴りで気絶させる。
「地下にあるってことは量は結構蓄えてんのか? とにかく今はここのトップとケリつけることが優先だな。
奥へと走り抜けるイメージで、ただ加速を続けるオレに、どんどん侵入に気づいた団員たちが静止に入る。
だが、どんなに雑魚が集まろうとオレが止まることはない。
走り抜ける勢いのまま、何人もの団員の頭部を蹴り抜いていく。
「邪魔すんぞ」
最奥に備わる部屋への扉。
そこをぶち抜いて、オレはアホ面の駐屯部隊長へ最低限の礼をする。
「……随分、僕のテリトリーで暴れてくれたみたいだね」
「何がテリトリーだよ、駐屯してるだけのくせしやがって。てめぇはここのボスじゃねぇぞ」
剣を抜く隊長は、どうやらオレと戦う気満々らしい。
「僕はね。騎士団のトップになるより、駐屯先の小さな里を支配する方が効率よく贅沢できると思うんだよね」
「顔にピッタリのゲスだな。要はトップになる実力がないから効率とかのたまって自分を誤魔化してるだけだろ?」
……ここまでにいた団員よりは動けるみたいだが、所詮雑魚だな。
「バカが! 駐屯任務に行く団員は全て僕と同じ考えだ! 大勢の意見こそ正義なんだよ!」
続けて隊長は言う。
「優秀な成績を保ちながら密かにトップを狙うしかできない低脳なライラくんとミオンくんには分からないだろうね!」
「なんだ、オレのこと知ってんのかよ」
「当然でしょう。君らが優秀なおかげで、僕らは各駐屯先で悠々自適に独占政治を楽しめたよ。ほとんどの任務が君たちに行くからね」
口ぶりからすると、他の里に駐屯してる団員も似たようなことしてるんだろうな。
「礼を言うわアホヅラ隊長。お前のおかげで、無意味な叛逆旅に意味ができた」
「ほう? あの叛逆は無意味だったんですか」
「それも知ってんのか」
「ええ、衝撃的な事件ですからね。駐屯先にも通信ですぐに知らされましたよ」
嘲笑うように剣を振る隊長。
「ここにいる団員は大半が半グレのような無能集団で、あなたの存在を知らないものもいたみたいですけどね」
自分がいかに高尚かをアピールしたいような口調が気に食わない。
「もうお前から聞き出せることはなさそうだな」
「はい……?」
オレがポツリと呟く言葉を聞き返す。
それは単純に聞き取れなかったのか、言葉の意味を確認したかったのか。
そんな疑問を聞くより先に、オレの拳が隊長の眉間にめり込む。
「もう用は無いからくたばれってこった」
周囲にもう立てる団員はいない。となればひと段落だな。
「物資を地下から回収しないと」
コンコンと地面を叩いた感じ、禁忌魔法を使わなくても砕けるな。
「――っしょ!」
大きく足を振り下ろし、床をぶち抜く。
あ、思ったより広く床が壊れた。
***
「――ライラ、状況は?」
地下から物資を全て持ち出し、里の入り口付近に集まる人を押しのけて進めば、小さな子どもたちをあやすライラが見える。
「おかえり、みんな健康状態が悪いから、可能な範囲で回復魔法かけといたよ。ママほどの精度はないけどね」
「そうか、ありがとう」
「いいよ、それよりすごい音したけど暴れた?」
……結果論だが暴れたのには違いないな。
「流れでな。クソどもは全員しばっって瓦礫の下敷きにして動けなくしといた」
「え、殺しちゃったの!? 流石にまずいよ」
「違う、身動き取れないようにしただけだ。息できるように顔は埋めてないし空気が通るように瓦礫も工夫してきた」
慌てるライラは「おねーちゃんだいじょうぶ?」なんて子供達に心配されてる。
「あの、ありがとうございますミオン様! ライラ様!」
「様……?」
少しは顔色が良くなってる住民たちは、口々にオレたちの名を崇めるように言う。きっと名前はライラが勝手に教えたな? こう言うのは伏せとくのが粋だろうに。
「……まぁいいや。お前ら、腹減ってるか?」
子供達に目線を合わせて聞くと、恥ずかしそうに頷いた。
「っしゃ、なら今夜は祭りだな。今まで苦しんだ分、今日はおもいっきり楽しんでくれ」
幸い物資はたくさんあった。高級食材なんかもあったから、おそらく団員が買い込んでいた分も含まれている。
「ライラ」
「手伝って? でしょ。もちろん手伝うよ」
オレたちは一旦住民をそれぞれの家に帰し、爆速で準備を進めた――
「――すごぉい! おねーちゃん! これほんとにたべていいの!?」
「おうもちろんだ、じゃんじゃん食いな」
里の入り口あたりでボロボロになりながらも我慢してた少女とは想像がつかないほど満面の笑みで、オレは嬉しくなってつい抱き抱えたまま祭りを回ってしまっている。
どこかシズクを重ねてしまってるのかもな。
「なぁ、おねーちゃんから1つお願いあるんだけどいい?」
「うん! なんでも言って!」
「ありがと。この手紙をさ、おそらく後から来るダートルっていうおじいちゃんに渡してくれる? 多分オレとライラのことを尋ねてくるからすぐわかるよ」
「りょーかい! お届けするね!」
ニコリと笑う少女にお礼を言って、オレは少女と祭りを回った。
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