48発目 メンヘラ男子がオークに転生したって英雄譚。
〈ミオンサイド〉
理解が追いつかない、とは今の状態のことだと思う。
「ミオン、ソロくん、2人とも知り合い!?」
「中学時代に世話んなった人だ、どうしてここに……」
まじでなんでここにいんだよ。それに姿形も俺が知ってるときのままだ。
「さとパイ! 中学出てから何があった!? なんでここにいる! なんで死んでんだ!」
「さとパイ……あたしの事をそう呼ぶ人物はこの世に2人しかいないはず……」
動揺が隠せないのはオレたちだけじゃなくて、さとパイもらしい。
死んで転生してきたと考えるのが妥当だが、姿かたちが中学時代のままってのはどういうことだよ。オレやソロは種族や性別が変わってたぞ。
「考えられる可能性は、団長特権で願いを叶えたか」
「もしかして澪なの? よく見たら隣にいるの唯我だよね」
「今はミオンって名乗ってる。こっちはソロだ。聞かせてくれ、どういう状況だこれ」
オレとソロは顔を見合わせ、事態の解明を求める。
「実は高校上がった瞬間に死んじゃってさ、なぜかこの世界に来て、自分の望み通りの世界に出来ることを知ったんだ」
さとパイは続けてこうも言う。
「澪に会えたのもあたしが、楽しかった中学時代に戻りたいって願ったからかも!素敵だね!」
「素敵じゃねぇよ、死んでトチ狂ったかさとパイ! この世界は理不尽な死に溢れてる! なんでも願いを叶えれる立場のあんたが何とかすべきだ!」
「そうっすよさとパイ! 騎士団は腐ってるし、それはさとパイの統率不足じゃないっすか!? トップなんだからしっかりしてくれよ!」
オレとソロの言葉はさとパイには届いていないように、さとパイはただうつむいているだけだ。
「しょうがないじゃん! 平和な世界にしようって最初は思ってたよ! でもどこかで綻びるんだよ! だからもう強者が弱者を管理下に置く体制じゃないと成立しないの!」
「バカが! 自分で統率できないならなぜ他にトップを譲らない!」
「誰がやってもこうなるよ! だからこれ以上酷くなるよりはあたしがやる方が理にかなってるの!」
懐かしいなこの感覚、なんて言ってる余裕はないな。オレは今からこの人を殺してでも止めないといけない。
「さとパイ、覚えてるか? あんたが権力者になって望む世界のあり方」
「……みんなが笑える世界だよ。実現してるじゃん、多くの人が笑えてる!」
心の何処かで理解しているはずだ、笑えているのが"みんな"ではないことに。
その証拠として、さとパイの瞳は潤んでいる。
「みんな! だろ。あんたが望むのは。みんなが笑える世界だ! 表面上、力あるやつだけが笑えるこの世界はは望まない世界だろうが! 目を覚ませ!」
「もう……無理だよ! 何したって……もう……!」
絶望に苛まれる、この世の終わり感。その感覚はよく知ってる。辛いよな。
「これも覚えてるか? あんたが権力者になったら一歩間違えて独裁政治になりそうって話したよな」
「現実になっちゃったね……澪はあの頃から正しかった」
「悲しいがそうだな。でも頼まれたんだよ、その時は殺してでも止めろってな」
殺してでも止める。絶対に。
「はは……覚えててくれたんだ」
「おいミオンまじか、そんな物騒な会話してたのか!?でも……なんとかなりそうだな、ミオンがさとパイ倒して、トップ交代で世界平和!」
横で呑気にそんな事を言ってるソロだが、さとパイの表情はまだ暗い。これはまだなにか問題があるときの顔だな。
「唯我、無理なんだよ。レイグレットに転生してきた人間、レイグレットで生まれた人間はあたしにダメージを与えれない」
そうきたか。
「トップを狙ってる君たちを警戒して叶えた願いだけど、澪たちならそんな願いするんじゃなかったよ」
「おいまじかよ! ミオンどうする! 絶望的すぎる!!」
「おねーさま! どうしよ!?」
ソロに加えて、ユリリも焦っている。
ライラも態度には見せないが表情な焦りがにじむ。
「落ち着けお前ら」
「いやお前が落ち着きすぎなだけだろミオン! やばいって、ダメージ通らんのが許されるのはゲームのバグくらいだぞ」
ゲームのバグでも許せねぇよ。
「実際どうすんだよミオン、俺様が捨て身で凸ってもいい。決断はお前に任せる」
「死に急ぐなバカが。落ち着けって、まぁミュハは知らないから焦るのも当然か」
この状況焦る必要はまったくない。
「どうして落ち着いていれるの澪。あたしはこのペンダントで願いを叶えたの。澪たちには倒されないって願いを」
そう言ってみせるペンダントには騎士団のマークが掘られている。なるほど、あれが騎士団長を騎士団長たらしめるアイテムか。
つまりあれを奪えば殺さずに解決できそうだな。それにはまずあのバカに事実を思い出させないとか。
「そのペンダント、見たところ奪うだけでトップの権利も奪えそうだよな」
「無理だよ、ペンダントに認められないとただの飾りだよ」
あぁ……そういう感じね。どうやったら認められるんだよ。でもとにかく、さとパイとペンダントを引き離せばこれ以上厄介な状況にはならないだろ。
「おいソロ、お前がさとパイとタイマン張れ。隙を見てオレがペンダントを奪う」
「は? 俺のダメージ通らんのにタイマン張るとか死にに行くようなもんですが!?」
はぁ……このバカ。
「いいか? お前は人間じゃない」
「は!? 急なディス……っん? 人間じゃない、な?」
やっとわかったか。
「お前はレイグレットの人間どころか、よく分からん荒野のオークだろ」
「そうだそうだ、俺人間の姿してるだけでオークだわ」
「メンヘラでくそだるい男がオークに転生した笑い話が、世界を救う男の英雄譚に変えれるんだ。命くらい賭けろよ」
ソロはニヤリと口角を上げる。
「言い方は相変わらず酷いけど英雄譚、ね。主人公じゃんもう! ったくしゃーないなぁ、決めるとこで決める、それが主人公の定めだもんな。やったる!」
俺が掲げた拳に、ソロは自分の拳をぶつけた。
「なにを言ってるか知らないけど、無理なものは無理だよ!」
「俺がなんとかする! ミオン! 隙見てちゃんと奪えよ」
「おう」
駆け出すソロに、さとパイはダメージを受けないと思い込んでいるため無抵抗だ。
「女を殴る趣味はないけど、さとパイなら例外だろ。許してくださいっす!」
さとパイの懐に入り込んだ瞬間姿勢を低くして、右の拳を溜めるように体で覆い、大きく昇らせアッパーをお見舞いする。
「えっ……うそ……なんで、ダメージが」
「オークに転生したことを恨んでたけど、今は感謝しかねぇ」
よろめくさとパイ。
「畳み掛けろソロ! トチ狂ったバカの目を覚ますためだ、殺してもいい。俺がトップになってまるっと解決してやる!」
「お前……この人仮にも先輩だぞ……」
「お前が言うな」
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