49発目 続きは幸せの向こう側

「まさか唯我が人じゃないなんて」

「人じゃなくても結構楽しいっすよ、ミオンたちがいれば。だからさとパイ、俺らとまたバカしましょうよ」


 ソロのやつ、相当じいさんに鍛え上げられたな。

 さとパイが防戦一方になっている。


「ソロ早くしてくれよ、集中力切れてきたぞ」

「おいこら! 俺頑張ってるんだからお前も頑張れよ!」


 バカ言え、こっちは全神経を研ぎ澄ませて周囲の魔力と自分の魔力を同化させてるんだぞ。

 周囲の魔力全てがオレのものだと錯覚させれば、やれることは広がる。


「澪……なにか企んでる顔してる」

「あいつはいつもなにか企んでるっすよ」


 ソロはさとパイに余裕を与えるつもりはないらしく、拳と蹴りの波状攻撃で体勢を崩していく。


「さとパイ、大事なもんはちゃんと守らないと壊されるっすよ、こんなふうに。ね!」


 右手でさとパイの動きを牽制して、左手で器用にさとパイが首から下げるペンダントを引きちぎって天高く放り投げる。


「今のうちだぞミオン、さとパイが拾いに動く前に」

「でかした、1秒でいい。そのまま牽制してさとパイの動き止めといて」


 ギリギリ移動範囲内ってとこか。

 ペンダントが舞っている範囲はつい先程俺の魔力と同化させたばかりだ。つまり、無茶ができる。


「成功してくれよ……!」


 体の細胞1つずつ、壊す、溶かす、消すイメージで魔力に練り混ぜていく。


 そして思い描くのはペンダント付近にオレが移動していること。そして手にはペンダントがあることだ。


「まさか……ほっほっ。まったくミオンたんは無茶しおるのぉ」

「ミオン、それ禁忌でしょ!」

「もうオレがトップだから関係ねぇよ」


 禁忌にして超必。

 ――魔力依存式移動魔法!


「っし! 成功だ!」

「嘘でしょ!? なにしたの澪!」

「簡単な話だよ、細胞レベルで肉体を殺して魔力を介しながら肉体の微粒子を移動させて再構築する瞬間移動だ」

「ミオン人間離れしすぎだろ、何言ってるか分かんねぇ」


 手に握るペンダントは、不気味な雰囲気を纏っている。


『――ほう、我を力尽くで奪うか。長年ペンダントの中で生きてきたがお主が初だ』

「なんだてめぇ……」


 瞬時に視界が遮られ、宙を舞っていたはずが、気づけば真っ白な空間にいる。


「察するに精神世界とかか? ここでの時間の流れは現実世界に影響ない的な」

『鋭いなお主。であれば我の正体も分かるだろう』

「ペンダントに宿る力の根源、とでも言うつもりか?」

『まさにそれだ』


 なるほどね、ペンダントの力を使うにはこいつに認められるしかないんだな。


『我の力を使って何を成したい』

「腐った世界を変える、これは前提だ。理不尽に殺された仲間を生き返らせる」

『そうか、大義だな。して、その仲間を殺したお主の先輩とやらはどうするつもりだ。無かったことにして赦すか? 我の力で苦しめるか?』


 リュカを殺したのはネクロマンサーだ。だが今こいつはさとパイが殺したと言った。


 繋がった、さとパイはネクロマンサーだったってことだな。


「忘れないし忘れさせない。罪は償わせる。復讐なんて馬鹿な真似、オレもママもリュカも望まねぇよ」

『ふっ、前の所有者より温い人間だな。今回の持ち主は』


 言うとオレの前には小さな少女が現れる。

 これが人間体ってやつか?


「その言い方、オレをトップとして認めたってことでいいんだな?」

『ああ、我の手を握れ。世界が望むままに変わる――』


「――おいミオン! 大丈夫か!?」


 ……精神世界から、戻った認識でいいのか?

 青い空が見えたと同時に、ソロのアホ面が視界に映る。


「ミオン団長って呼べよ、アホ」

「けっ! 誰が呼ぶかよ」


 気分的には今までと何も変わらない。

 だが、俺の手元にはペンダントがあり、さとパイの手には何もなく、つきものが取れたような表情をしている。


「さとパイ、こっからは全部背負ってやるから。安心して罪を償えよ」

「うん……!」


 さてさて、ここからどうすっかなぁ。リュカを蘇らせろって願えば蘇るのか?


 力を手にしたようだが、正直なところ使い方が分からない。

 どうすべきか迷っていたら、ペンダントに宿る力の根源が俺たちの前に顕現する。


「力は祈れば応える。手本としてリュカは我がよ蘇らせてやろう、特別だぞ?」

「誰この子!?」

「ペンダントだ落ち着け」


 急な登場に動揺する一同だが、俺が冷静にいさめるとペンダントは手をかざす。

 直後、空に魔法陣が浮かびリュカがゆっくりと降ってくる。


「リュカ!! ああ、まさかこんなことが起こるなんてねぇ。ママ、感激だわぁ」


 オレが受け止めようと動く前にママが瞬時にリュカの元に移動して強く抱きしめる。

 さすが母親といったところか?ママは平気な様子だったけどきっとすごく心配してたし悲しかったんだろうな。


「先帰るわ、ライラたちはママとリュカの安全確保してしばらくしたら帰ってきて」

「ミオン先帰って何するの? 嫌な予感するんだけど」

「安心しろってライラ、ごみ掃除と新政権の定着だ。まぁ過程で暴力沙汰は生まれるかもだけど丸く収める。任せとけって」


 心配するライラをよそにオレはソロの首根っこを掴んで帰路へ。


「ちょっと!? 俺も強制帰宅!? どゆこと!」

「バカな先輩の尻拭いだ、お前も当然付き合えよ」

「はぁ、まったく。世話のやける先輩と団長だわ、英雄の俺がいないとダメなんだからホント」


 ***


〈ソロサイド〉


 ミオンが団長になって早いことでもう半年が経っている。


「ちょっとミオン!? また始末書!」

「なんでだよ! 俺トップなんだから始末書いらないだろ!」

「組織なんだからいるってば! トップって言うならしっかりして!」


 毎日拠点は騒がしい。


 ミオンが団長でお姉様が副団長。

 でも事実上はお姉様が団長みたいなもんだ。ミオンは相変わらずやるときはやる性格でトップとしては失格だろうな。


 地雷女は第1部隊の隊長として頑張ってるし、ミュハさんは第2部隊の副団長として相変わらず頑張ってるってのにあいつったら。


「あ、そうだ。今日ママとリュカの研究室に遊び――じゃなくて視察に行く日だろ。ほら行くぞライラ」

「仕事だからね!? そこちゃんと自覚してよ!?」


 ママは、無事蘇ったリュカさんと一緒に部隊員たちの健康管理に一役買ってくれている。


 治療や薬の調合をママが行って、細かい雑務や素材の調達をリュカさんが行っている。


 2人して医療の知識をさらに深めて新薬なんかも生み出して、権威はきっとミオンよりある。


「ソロ、お前もママたちのとこ行くか?」

「いいや。今日も今日とて仕事だわ。北西の方で残党が確認されてるってよ」

「あー、なんかそんな話あったな」


 おい、お前の指示で今から遠方まで腐った騎士団員の残党を粛清しにいくんだが?


「任せたぞ、特殊殲滅部隊隊長」

「任された。けどその肩書やめない? 部隊って言っても俺1人じゃん!」


 俺も今や部隊長。なんだが、部隊員がいねぇ……。


「お前が俺も隊長になりたいってゴネるから与えたのに文句言うなよな」

「ばっかお前! 隊員がいなきゃ意味ないだろ、結局ボッチじゃねぇか!」

「そのほうがいい、ソロらしくて」


 くっそ、どこまでも俺は人と扱いが違いすぎないか?

 でもまぁ、その違いがこの世界を変えた。って事実があるもんな。誇りに思うよ。


「あ、でも来月から隊員増えるわ」

「え! まじ?」

「まじ。さとパイに社会貢献させるためにお前の隊に入れることにした」


 ……。


「それってさ、もしかして俺が監督役的な感じで厄介事押し付けられてない?」

「あ、バレた? 一応体裁的にはさとパイは危険分子だし監視役がいるんだよ。てことで頼んだ」


 くっそしょうがねぇなぁ! この英雄様が平和のために身を粉にしてやるよ!


 ここからまた英雄譚のページを増やしてやる! もちろんハッピーエンドのな。


 じゃ、そゆことでここは一旦閉幕。


 みんなが幸せになった時、この英雄譚はまた動き出す。その時まで。

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メンヘラ男子がオークに転生したってお話。 真白よぞら @siro44

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