47発目 昂ぶる感情

〈ソロサイド〉


「なんかさ、ビリビリしない?」


 里を巡ってもう何人も悪質な駐屯団員をボコボコにした。そろそろ掃討できたと思う。


 だが念には念を。

 俺たちは隠れ里的なものがないかを探している。


 そんな中で、鍛え上げられた俺のシックスセンスが異変を感じ取った。


「ビリビリって表現は分からないけど、なんかヤバいのが近くにいるな」


 ミュハさんも警戒を強める中、ミオンはお姉様と談笑してやがる。


「おいミオン、なんかやべぇかもしれないぞ」

「知ってる、あいつが近付いてるだけだろ。今回は確実に仕留める」


 全てを理解しました。みたいな面で冷静にそう言うミオンは、歩みを止めて来た道を振り返ると堂々と構える。


「困りますのよね、好き勝手されると。理想の世界が遠のいてしまいますわ」

「な、こいつ!」

「なんだソロ知り合いか? 俺様は知らないやつだ」


 この場で知らないのはミュハさんだけか。

 こいつは以前ミオンと互角でやり合い、逃亡でなんとか難を逃れた敵じゃないか。


「そろそろ来る頃だと思ったぞワタクシさん。いや、副団長」

「へ? な、ななな、ななななんのことですの?」


 分かりやすっ! つか今なんて言った? こいつがアンビジョン騎士団の騎士団副団長だって言うのか?


「おいミオン、こいつがなんで副団長だって言うんだよ、確証は――」


 言いかけて俺は気付いた。


「恐らくこいつらがあえて放置してる里の駐屯団員を全員駆逐したんだ。きっと理由があったこいつらは、妨害したオレ達を始末せざるを得ない」


 これは報復だ。

 計画をグチャグチャに壊した俺たちへの。


「1つ言っとくが、オレたちを倒したいならボス連れてこいよ、お前じゃ相手にならないから」

「は、はあ!? ですわ! この間は互角だったじゃないですの! 鍛えて強くなったワタクシに勝てるわけないですわ!」


 ワタクシさん、ついに互角だったと認める。


「強くなったのが自分だけだと思うなよ、今のお前相手じゃ実力の5割以下でつぶせるぞ」

「ひっ……べ、べつにおびえてませんわ」


 怯えながらもフードを取った副団長は、褐色の肌と角が目立つ。なんだろう。性格も相まって俺は結構好きだな。敵じゃなかったら口説いてた。


「戦うなら早く済ませよう。オレたちは暇じゃないからな」

「そ、その生意気な態度。改めさせてあげますわ!」


 おいおいミオン、そんなに煽って大丈夫かよ。この前は本気出してやっと互角程度だったろ。


 当然ミオンも強くなってるだろうけど、不安が勝つぞ。


「構えないですの? このまま蹴り飛ばしてあげますわ!」

「……」


 蹴ろうとしてる相手を前にミオンは脱力状態で仁王立ちしている。


「おいミオ――」

「やめとけソロ、俺様には分かる。あいつは確実にあの敵を潰せる」


 俺が声を発し切る前にミュハさんの制止が入り、その数秒後には副団長が地面に叩きつけられマウンティングされている。


「なっ……ワタクシが倒された――ひっ! 顔だけは殴らないでくださいまし!」

「お前実はか弱だろ。力も自分のものに出来てない感がある、もしかしてなんでも願いが叶う特権か?」

「違いますわ! 団長に強くしてもらいましたの! か弱なんかじゃないですわ!」


 マウンティングされながらもそう威張る副団長。


「というかお前人間じゃねぇな、何者だ?」

「ふふ、人間とは格の違う魔人ですわ!」

「あっそ」

「反応薄いですわね!?」


 やはり角が生えてたら人間ではないか。にしても魔人って……なんで騎士団のトップ層にいるんだよ。


 魔人って普通騎士団とか勇者に倒される存在じゃねぇのかよ。


「どうでもいいけど、俺は団長に用があるから消えてくれ」

「うわぁ……」


 ミオンのやつ、敵とはいえど何か言いたげだったやつに容赦なくトドメさしやがった。


「さ、行くぞ」

「お、おう」


 何事もなかったように進んでいくミオン。そしてそれを当然のように受け入れるお姉様や地雷女たち。どうかしてるぜ。


「なぁミオン、俺様は疑問に感じたんだが、魔人が騎士団にいるのおかしくね?普通敵じゃないか?」

「やっぱそうだよな、オレも引っかかってたけど、団長ボコったらすべて吐かせれば真実は分かるだろ」

「それもそうか、ならいいな」


 良くはねぇだろ。こいつら脳筋か?


「――はぁ、君たちは本当に迷惑な存在だね」


 空気が一瞬で淀む。

 晴れていた空も、影を活かすように陰り、太陽はすっかり怯えたように身を隠した。


「この声、どこから聞こえてる?」

「空からじゃのぉ」

「そうねぇ、空から聞こえてるわねぇ。神様かしらぁ」


 呑気か。大人組はのほほんとした予想をしているが、体は臨戦態勢に入っている。本能で未知の脅威を悟ったのだろうか。


「見せしめは誰がいいかな……んー君でいいか」


 そう聞こえた瞬間。

 赤い閃光が俺の横を通り過ぎ、その瞬間横目に鮮血が飛び散るのを感じた。


「は……?」


 ドサリと鈍い音が聞こえた方向へ視線を送れば、状況が理解できず混乱の表情を浮かべながら倒れる地雷女がいた。


「あーし。今……何された? 攻撃? でも……なにも見えなかった……」

「ママ、急いで治療。じいいさん、ミュハ、ソロはその間、周辺警戒だ」


 俺はまだ状況がうまく呑み込めないが、ミオンはすでに状況判断が出来ているようで、的確に素早く指示を出している。


 お姉様は指示より先に周囲を索敵している。

 さすがといったところか。この2人の行動力と判断力は真似できない。


「ミオン! どうしよう、気配が大きすぎて場所を絞りこめない!」

「……っ! オレもしてみたがこいつは段違いみたいだな」


 まじ……? この2人で何とかできない事態って解決できるのか?


「あたしを探してるんだってね。やめときなよ。君たちじゃ勝てないよ。副団長を倒して自信ついちゃったかもだけどね」


 また声が聞こえる。


「その口ぶり、団長だって自供してるようなものだがいいのか? のこのこ姿を現して」

「平気だよ、だってあたしがいる詳しい位置は君たちにはわからないんだから」


 これがいわゆる高みの見物ってやつか。


「それが分っちゃうんだよな」


 ミオンは剣を軽く回すと、振り返って後ろ方向に投げ飛ばした。


「……なっ!? 声で場所を特定されないように各方向から広げてたのになぜ!?」

「まじでほんの少し程度、声の波が大きいところに剣を投げた、それだけだ」


 声が拡散されず1か所から聞こえる。そして空から血が地面へ落ちてくる。


「あらあらぁミオンちゃんが投げた剣、見事に刺さってるわねぇ」


 苛立ちを感じさせる表情でゆっくりと空から降りて来る人影。どういう原理で、とかのツッコミはこの世界では無意味だな。どうせ魔法だ。


「君たち、本当に本当に迷惑だよ」


 肩に突き刺さった剣を引き抜いた瞬間に傷が癒えていくのを確認。そして、団長の素顔を確認できる。


「おい……おいおいまじかよ!ミオンあれって!」

「ああ、信じたくはないが……」


 凶悪な表情で、素手で人を殺すような巨漢であれば幾分かマシだった。


 でも、そうはいかないらしい。


「まずは根掘り葉掘り聞かせてくれよ」

「そうっすよ! こんなことしてる理由を聞かせて欲しいっすよ!」


 自然と感情が昂ぶるのが分かる。ミオンもきっとそうだ。


「「さとパイ!!」」

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