46発目 加入

「なぁ、そろそろ着くか?」

「おそらくこのあたりじゃのぉ」

「やっとか! 途中に野営を挟んでもしんどいな、長距離の移動は」


 弱音を吐くソロは、少し遠目だが視界に入る建造物に安堵の表情を浮かべる。


「根性ないのかなコブタちゃんは」

「ミオンに担がれてたくせに何いってんだ地雷女が」

「はぁ? コブタちゃんも担いでもらえばよかったのに断ってたじゃん。ベイクの誘いを」


 いつもこの2人は楽しそうに言い合うな。


「俺は重いんだよ! 迷惑だろ!?」

「なに気にしてるのよ、華やかじゃないわよ? 堂々としときなさいな」


 ライラと並んで歩くオレの後ろでソロたちがワチャワチャとしていて、それを和やかに見守るじいさんとママ。


 この調子で騎士団の問題を解決できるのか不安しかないぞ。


 砂利を踏みしめて前へと進む中、痛みに苦しむ声がオレたち全員の鼓膜へ振動する。


「おねーさま! 悲鳴聞こえなかった!?」

「ミオン、これ急いだほうがいいやつじゃないか?」

「ミスミオン。指示を」


 騒いでた3人が声を合わせてオレへと指示を仰ぐ。


「急行、ただちに原因を駆逐。以上、行くぞ!」

「みんなミオンに聞いたらそれしか言わないんだからダメだって! もぉ、慎重に動くってことを知ってよ全く!」


 悲鳴が聞こえたんじゃ、慎重に。なんて言ってられねぇだろ。


 聞こえたのは里がある方からだ。

 状況的に里に住む人が駐屯団員に蹂躙されてるってとこか?


 何にせよ急ぐに越したことはないな。


「ミオンたん、爆発音も聞こえるのぉ」

「大事じゃねぇか」

「ママは回復魔法をいつでも使えるように備えておくわねぇ」

「頼んだ」


 急ごしらえでオレたちは二手に分かれることする。

 オレが率いる先行偵察部隊は、ソロとユリリ、そしてベイクの4人で向う。

 ライラ、じいさん、ママは後から合流して、万が一オレたちが敵の罠にはまっても助けれるように備える。


 オレは全員で行けばいいと考えていたが、リスク分散は必要だとライラに注意されてしまった。


「ミオン、分かってるとは思うけど無茶はしないでね」

「へい」

「あれは分かってない感じの返事じゃのぉ」


 分かってるってじいさん。

 突っ込む時間すら惜しいため、オレはソロたちを引き連れて里へと走っていく。


「――おいこら逃げんな! ぶっ殺すぞくそが!」


 里の入り口に入ると、何やら聞きなれた声が聞こえる。


「俺この声知ってるんだけど気のせいかミオン」

「気のせいだといいんだけどな」

「あーしこの後、見たくもないキモイ顔を見ることになると思う」


 赤髪のトゲトゲ頭を想像しながら声の元へ行くと、案の定。


「げ……やっぱキモ男じゃん」

「想定通りザコだったな」

「お前ら……ミュハさんの扱い雑すぎだろ」

「あら、結構いい男じゃない」


 視界の先には第2部隊の副部隊長がいやがった。

 なにしてんだよこいつ。


「ミオンてめぇ!」


 オレの顔を見るなり、先程までボコっていたと思われる駐屯団員を放り投げてズカズカとこちらへ向かってくる。


 その表情は怒りのような、悲しみのような、複雑さが混じっている。


 拳を構えるミュハは、「歯くいしばれ」そう呟いた。


「は? おねーさまに危害加えたらあーしがぶっころ――」


 オレの前に立ってミュハを返り討ちにしようと警棒を構えるユリリだが、オレはミュハの拳を受ける義務がある。


「やめとけユリリ。下がってろ」


 ミュハの一撃を避けることなく顔で受け止めるオレを、ユリリは慌てながら見ている。


「これでチャラだ」

「随分安く済ませてくれたんだな、蚊でも止まったのかと思ったぞ」

「あぁん? ぐちゃぐちゃに血で染めんぞクソが! ……ったく、お前はほんと一言余計なんだよ」


 どうやらミュハは、オレが騎士団を襲撃した件はさっきの一撃でチャラにしたようだ。


「お前が意味もなくあんな事するやつじゃない。そう思って調べまくった」

「暇人か?」

「殺すぞ」


 ミュハはオレの煽りを軽くいなすと話を続ける。


「まさか騎士団の一部がこんな腐ってるとはな。片っ端から潰して回ってたけど、お前もこれをするためにわざわざ反逆者になったんだろ?」

「半分正解、半分違う」


 ミュハはオレを追うなかで騎士団の真相に辿り着きつつあるようだ。


「全部話してやる、ありがたく傾聴しろよ」

「だから一言多いんだっての」


 オレは包み隠さず全てを話す。

 リュカがどんな目にあったか、ママがオレたちに同行する経緯。

 騎士団の真意、オレたちの目的。

 話せることは全て話す。


「――なるほどな。予想以上に腐ってやがる」


 話を聞いたミュハは深刻な表情を見せる。

 こいつこんな顔できるんだ。


「お前に謝らなきゃなミオン。この間は理由も知らないくせに突っかかって悪かった。うちの隊のメンバーを助けてくれてありがとう」

「ザコがらしくないことすんなよ、気持ち悪い」

「てめ! よぉし分かったぶっ殺す!」


 ピキピキとコメカミを動かすミュハは、問答無用でオレに殴りかかる。


「ミュハさんキレッキレだなぁ」

「だからキモいんだよあのキモ男」

「いつもああなのかしら」


 外野が何やら騒いでいる中、ライラたちも合流する。


「あれ? ミュハ副部隊長? なんでいるの」

「自分なりに真実突き止めて暴れてきた結果ここにたどり着いたらしいぞ」

「なるほどね、そんなことより悲鳴はなんだったの?」


 そんなことよりと言われたミュハは眉間にシワを寄せる。


「ミュハが団員をボコボコにしてただけ。また俺らのやることなくなったぞ」

「今までのもミュハ副部隊長?」

「そうだ、俺様がクズを駆逐した!」

「黙れよキモ男」

「んだてめぇ! たかが隊員ごときがよぉ!」


 すぐ喧嘩するこいつら、ほんと嫌。


「はぁい、喧嘩はだめですよぉ」

「でもママこいつキモいよ!?」

「キモくても喧嘩しちゃだめですぅ」


 おっとりとした口調で諭すママだが、「キモい」は否定しないんだな。


「……なぁミオン」

「いいぞ。来いよ、目的は一緒だしな」

「は……? まだなにも」

「顔に書いてあんだよ。一緒に連れてけってな」


 こいつは馬鹿だが、正義感は多分ライラと一緒かそれ以上だな。


「いいだろ? みんな」

「まぁおねーさまが言うなら……」


 不服気なユリリを筆頭に、この場にいる全員がミュハの参加を承認した。


「足引っ張るなよ?」

「引っ張んねぇよ!?」


 ずいぶん威勢がいい。


「そう言えばそっちの団長は?」

「鍛えなおすって言って山籠もりしに行ったぞ?」

「へぇ、そっちの団長も結構ぶっ飛んでるな」


 何かに反応したのか、背後からライラの圧を感じる。


「第1部隊でぶっ飛んでるのは隊長じゃなくて副隊長だから。忘れちゃだめだよね」

「まぁ言葉の綾だろ、許せライラ」

「今日添い寝してくれたら許す」


 挑発するような表情で笑うライラ。


「なぁユリリ、あいつらあんなに独自の世界展開するやつらだっけ?」

「違うし! あの2人転生前はラブラブカップルだったの! しかもあーしの王子様だったし!」

「……よくわからんがお前が敗北したことが分った」


 こいつら仲いいなぁ……。

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