45発目 米俵
〈ミオンサイド〉
「で? 規模がデカくなったからワシらの力がいると言うんじゃな?」
「……っ! その通りだ……けど! ゆっくり説明する時間くらいくれじいさん!」
見えない空気の波動がオレの頬を掠めていき、必死で避けつつ抵抗するので精一杯。
「みなまで言わずとも全て把握しとる」
「だろうな、オレの周りくどいメッセージに気づいてくれたんだな」
「まったく、魔法を織り込むなんて回りくどいことせんでも直接書けば良いものを……」
じいいさんはやれやれと呆れながらも、何度も魔法を連発してオレを狙ってくる。
柔軟な動きで交わすのも随分疲れてきた。
「最初はソロ達を巻き込まず、じいさんとママだけに手伝ってもらおうと思ってたんだよ」
「じゃがそうも言ってられなくなったんじゃな、よく考えれば想定できるじゃろうに」
まだまだ未熟。そう言いたげなじいさん。
「できる限り巻き込みたくなかったんだよ」
「ミオンたんの考えはわかったわい」
「手伝ってくれんのか?」
「ああ、もとよりそのつもりで探しとったわい」
ようやくじいさんの猛攻が止まり、粛々と正座で説教を受けるライラのしょんぼりした声が聞こえる。
「あっちもこってり絞られてるな」
「煩わしく思うかもじゃが、怒られているうちが華じゃぞ」
「昔よく親にそれ言われたわ」
***
「――と、言うわけで里に駐屯するゴミを処理しながら団長をトップから引きづり下ろすから。手伝ってくれ」
「はいおねーさま! おねーさまがトップになるなんて素敵すぎます!」
「最初から手伝えって言えよミオン」
オレは説明をざっくりと済ませ、今後の方針を共有する。
ユリリもソロも協力の意を表してくれた。
「で? 具体的に策はあるのか? 団長の場所わからなくね?」
「それに関してはなんとかなるだろ。今まで姿を見せてなくても、暴れまくって下っ端では手がつけられないなら上が出てくるしかないからな」
「うわぁお前……仮にも仲間を下っ端扱い……こわ」
別にもう仲間じゃないしな。気にしたら負けだ。
「あ、下っ端で思いだした。キモ男がとち狂ったバカの目を覚まさせるって言ってあーしらとは別行動でおねーさまのこと探しに行ってたよ」
「下っ端で思い出されるミュハさんかわいそ……」
誰がとち狂ったバカだよ。あったらボコボコにして立場をわからせてやる必要があるな。
「あのザコ1人で何するつもりなんだ?」
「さー?」
ユリリは自慢の警棒を磨きながら投げやりな返事をする。
ざっと見る感じ、じいさんがばかみたいに強化をかけてる気がするなあの警棒。
「まぁあんなキモ男がなにしたところでキモいことに変わりはないですよおねーさま」
「それもそうだな」
「ひどいなお前ら」
雑談はほどほどにして、やるべきことをやるか。
「じいさん」
「既に把握済みじゃ。近くにある里3つ、どれらも害虫共がやりたい放題してたみたいじゃのぉ」
「……まるで過去の出来事みたいに言うな」
じいさんの言い回しに少し引っかかる。
「ミオンたんをしごきあげる前に魔法で索敵した時は確認できたが、つい先程確認したら反応がなくなっておったわ」
「まじかよ、この短時間で? 3つ?」
「ワシら以外にも憤りを感じた者が動いてるんじゃろうな」
こっちとしては手間が省けるからいいけど、そいつはなんの目的でやってるんだ?
意図がつかめないうちは、未確認の敵対組織として認識しておく必要がありそうだな。
「状況を確認しに里にいく?」
「いやそれは時間の無駄だろライラ。ベイクもそうと思うよな?」
「そうねぇ……確認したい気持ちも分かるけれど、今は全ての里を潰すことに専念すべきじゃないかしら」
ソロとユリリの3人でジェンガをするベイクは、俺の意見に賛同してくれる。
「俺はお姉様に賛成、美人の言うことに間違いなし!」
「私情を挟むな、というかオレも美人だろうが」
「おっしゃる通りですおねーさま!! あーしはもちろんおねーさまに賛同!」
駄目だ、こいつらの意見は偏りすぎてる。無視だ無視。
「ミオンとベイクさんがそう言うならそうなんだね。ただ、里を潰すんじゃなくて里を独占する団員ね?」
「そうね、里自体は悪くないんだったわね。うっかり無関係の人ごと潰すところだったわ」
「おっかねぇな」
***
日は昇り、翌日。
オレたちは少し離れた里へとゾロゾロと一行で向かっている。
「割と距離あるよな」
「そうじゃな、近くの里は何者かが対処済みのようじゃからな」
間にもう1度野営をしないといけない程度には距離が離れている。
「そいつ敵じゃないといいな」
「楽観的な思考は捨てろよソロ、わずかな油断が命取りの世界だからな」
「へーい」
出会うやつ全員敵。
そのくらいの危機感で問題ない。
「ミオン、疲れたからおんぶー」
「しょうがねぇな」
「さすがミオーン!」
鎧から私服へ素早くチェンジして、オレの背中へと飛び込むライラ。
オレが鎧を着てる事を忘れているのか躊躇なく飛び込んでくるから、急いで鎧を私服に変化させた。
「硬い鎧に飛び込むとこだった」
「確認してから飛び込んでこいよライラ」
「でもミオンが気付いて着替えてくれるじゃん」
これが自分勝手な信頼というやつか。
「ライラずるい! イチャイチャすんな!」
「ミオンずるい! イチャイチャしやがって!」
「やかましいぞソロ」
「どうして俺だけ!!??」
不満を垂れるソロを無視してライラが言う。
「ユリリもミオンに運んでもらいなよ」
「いいの!?」
「いいよいいよー」
良くないが?
「2人は運べないぞ重い」
背後から凄まじい殺気を感じる。
「ダメよミスミオン、女の子にそんなこと言っちゃ」
「……分かったよ、ほら乗れよ」
「おねーしゃましゅきぃ」
ライラを右肩で担ぎ、空いた左肩へユリリを誘導する。
2人が落ちないようにそっと手を添えて固定し、そのまま足を動かす。案外人2人運べるもんだな。
「……米俵みたいな気分だねユリリ」
「幸せだからなんでもいいぃ」
横でベイクが「アタイも」なんてほざいてやがるが無視してつき進む。
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