13発目 オレの禁忌魔法
「――あの喧嘩さ、1撃で終わっちまったよな」
「本気で蹴ったんだから、終わらなかったら困る」
あの蹴りは、あいつなりの俺への激励だと思っている。
惚れてた女の涙で我を忘れて、親友に殴りかかって冷静さを忘れたマヌケな男を、あいつは見捨てなかった。
まじで感謝してもしたりないんだよな。
「今日も1撃で終わらせてやるよ」
「前までの俺じゃないからな!」
目の前には、騎士団で活躍する女騎士。
前世は喧嘩の強い男。
そんな人間にどう勝つか。発想力を爆発させろ。
「来ないのならオレから行くぞ」
光の速さを錯覚させるように舞う金髪、実際すでにミオンは俺の懐に侵入して、重い蹴りを繰り出していた。
「マジバケモン……!」
あれ? でも1撃では終わらなかったな。
「お前も見た目相応には耐久力付いてるんじゃないか?」
言うとミオンは、そのまま防御する隙すら与えてくれずひたすら蹴りを繰り返している。
激しく響く衝撃だが、今の俺にはオーク産の脂肪がある。
吸収した衝撃を緩和し、ある程度の攻撃なら致命傷になることはない。
「ミオン、手加減してる?」
「5割は出してるぞ」
これで5割? 普通なら鉄すら穿ちそうなこの威力で?
オークの脂肪のおかげでダメージを耐えれているこの状況で聞かされる衝撃な事実。
「ほ、本気で来い! 耐えてやる!」
「いややり返してこいよ、お前がどれだけ強くなったか気になるのに。いや、まぁいいか……」
俺は知りたくなった、ミオンの本気はどれほどのものか。俺の耐久力がどれくらいなのか。
「本気で蹴るけど、下手したら死ぬからな」
「なかなかの自信だな、オークの脂肪はそんなに甘くないぞ」
おいおいおい、下手したら死ぬってなんだよ。そんなのもう蹴りって呼べないって。
「は!? お前飛べるのか!?」
膝を曲げて、バネの要領で天高く飛び上がったミオンは、そのまま加速して俺の方へと移動している。
まるで羽でも生えているように空を自由に移動して、蹴りを繰り出すモーションに移る。俺は圧倒的なオーラに気圧されてしまう。
「空気抵抗くらい体の動かし方で操れるだろ」
「普通はそんなこと出来ねぇんだよ」
右足を空中で伸ばし、見えない速度で俺左肩を強ぶつける。
左上から加えられるミオンの強力な蹴りに思わず膝をついたことが、俺の敗北の瞬間だった。
圧倒的になパワーに押される巨体の俺の膝が地面に触れると、そのまま地面すらも砕き割った。
体勢を崩した俺は、割れた地面の上に惨めに横たわる。
「くっそまた負けた、禁忌魔法不安になってきた……」
禁忌と言われる魔法だ、チート級の強さとはいえど騎士団員の攻撃よりもヘビーなものだろう。
ミオンの攻撃に打ちのめされているうちは、不安だ。
「なに言ってんだよ、お前はオレの蹴り受けても生きてるだろ? だったら禁忌魔法も余裕だ」
「いやいや、蹴りと魔法は違うだろ」
「確かに、蹴りはただ肉体の強度によってダメージ数が違う。だが今回使う禁忌魔法は気の持ちようと発想力をどう展開するかでだいぶイージーだぞ」
まじ?
「前サキュバスが人間になって純粋な恋をしたいと言って禁忌魔法を使ってな。ずいぶん楽そうに出来てたぞ」
「あんなエロフェロモンを無くしたってことか!? もったいな!」
「話ズレてんぞ」
あ、失敬。
ただ、ここまで聞いてもまだ不安は拭えないもので。
どうしても蹴りと禁忌魔法の差を考えてしまう。
「まぁ安心して明日を迎えることだな、オレの禁忌魔法を耐えて生きてるんだから」
「……ん? え?」
こいつ、なんて言った?
「禁忌魔法……なのか? あの蹴りが?」
「まぁな。足を媒介として天界神ヴァルキリスの力を大体8割増しくらいで使う魔法だな」
「うそだぁ」
よく分からない異世界っぽい感じの設定が出てきたが、今ひとつ信じれない。俺はただの強い蹴りに見えたぞ。
「嘘じゃないよソロくん、王都魔法省に登録されてるし割と危険視されてるやつだよ」
ひょこっと不意に現れたお姉様は俺に説明してくれた。
この世界で使える人間は少なく、ここまで使いこなせる人間はミオンしかいないらしい。
ミオンはまだ足しか使えず、全身で発揮はできないからとやさぐれているが、そもそも足全体で使えるのも偉業だと聞いた。
「仕事以外で使ったし悪意のない相手に使ったから始末書ね。何回も言うけど、不用意に使っちゃだめ!」
「代わりに頼んでいい? 疲れて始末書かけなあい」
「もー、仕方ないなぁ。今回だけだよ?」
お姉様それでいいのか……?
「いろんな意味ですげぇなお前、でもそんな強大な技使って大丈夫なのか? 代償とか。そういうのあるんじゃねぇの?」
「あんな些細なこと気にするまでもない。今はお前が自信を持てればそれでいいから」
ミオン……!
友人想いな男気溢れる人格と、ドクズな面が共存するミオン。昔からそうだったな。
クズな面も惜しみなく発揮した方がモテるのか? そうなのか?
「やることもう終わったし中入ろう、動いたらおなかすいた。ライラ、肉残ってる?」
「残ってるよ、ユリリちゃんが置いてくれてる」
ビリビリと少し痛む俺の肉体に回復魔法をなげやりにかけて、ミオンはごちそうのある屋敷へと移動していった。
それに俺とお姉様もついていく。
「おねーさまー!」
「うるさい、飯」
「はぁい!!」
モラハラ亭主のようなふるまいをするミオンの口に笑顔で肉をぶち込む地雷女は、雑に頭を撫でられるようにどかされたのに嬉しそうにしている。
「じいさん、今日はここ泊ってっていいか?」
「もとよりその予定じゃわ。明日万が一禁忌魔法が失敗したときのためにものぉ」
「まぁ失敗はないだろ。それは術者であり、師匠であるじいさんが1番わかってるだろ」
肉にがっつくミオンは、師匠に圧倒的信頼を寄せている。師匠も満更でもないらしく、それに応えるかのように深くゆっくりと頷いた。
「うむ、実は結構見込みがあってのぉ」
「師匠マジで!? 俺案外できる子だったってことか!」
「じゃが怠慢はいかんの、強者は大体謙虚なものじゃ」
確かに漫画でよく見る最強キャラや剣豪なんかは寡黙で謙虚なやつが多い気がする。それに、ミオンやお姉様もそんな感じな気がする。
「俺も謙虚になるわ」
明日に備えてもう寝ることにした俺はそう言い残すと、自室へと移動した。
ついに明日か。正直絶対不安がなくなることなんてありえない。けど、ミオンたちがあそこまで俺のために動いてくれたんだ、その行動に応えれないと男じゃないよな。
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