32話 欺け
「ど、どういう……」
「今やミオンたんとライラたんは騎士団員と拠点を襲撃した反逆者じゃ」
「ちょ、ちょっとまてよ! そんなわけないだろ!? あいつらは騎士団員としてちゃんと働いてただろ!? そんなことする理由がないんだよ!」
これはきっと何かの間違い、いやそもそもママも師匠も俺を騙してからかってるだけじゃ?
「……見た方が早いのぉ」
師匠はそう言うと、俺とママの腕を掴み、魔法を唱える。
視界が一瞬白くなったかと思えば、目の前に広がるのは膨大な瓦礫の数々。
酷く燃えたのか、瓦礫はいくつも焦げついている。
それに、瓦礫を掃除する団員は包帯を巻いていたり松葉杖のやつだっている。
「冗談、であってくれよ……」
「残念だけど、これが真実なのよぉ」
あまりにも信じ難い光景に、俺はただ膝から崩れ落ち絶望することしか出来ない。
「ママはみんなの治療してくるわねぇ。ソロくんも痛むようなら言ってねぇ」
「…………うす」
予想打にしてない裏切り。
自身のいる部隊の部隊長と副部隊長が反逆者となってしまったのに、師匠とママ。大人2人はとても落ち着いていて、自身のすべきことを完璧に理解して正しく行動できている。
だが、俺はどうだ?
ただ絶望しているだけ、現実を受け止めれていないだけ。
「ソロ、よく目に刻んでおくんじゃ。これがライラたんたちの選んだ道じゃ」
「……なんで師匠たちはそんなに冷静なんだよ」
俺に現状をよく見るように言う師匠は、息をするように倒壊した拠点を元通りに魔法で直していく。
「ワシらの知っとる彼女らを信じとるからじゃよ」
ほっほっほと笑う師匠は言葉を続ける。
「きっと今回の件で多くのものが彼女らを敵とみなして掃討に動くじゃろう」
「確かに」
「じゃがお主が友として接してきたミオンたんはそんな人物か? 慕うライラたんはそんな人物か? 大切なのは眼前に広がる事実ではなく、人の本音じゃ」
人の……本音。
ミオンとお姉様は拠点を壊して団員をボコボコに痛めつけた。これは事実だ。
だが、やりたくてやったことか?
だったらなぜ? 今までそんなそぶりを見せなかったのに急に叛逆を?
「……違うな」
あいつらは今までそんなことは考えてなかったろうし、考えてたとしても隠せるほど器用じゃない。
てことはそうせざるを得ない状況になってたってことだ。
つまり、ミオンとお姉様は闇堕ちして敵になったんじゃなくて、俺たちのためにああするしかなかったんじゃないか?
ミオンもお姉様も人のために本気になれる人間だ。きっとそうなんだろう。
「やっと分かった? 落ち込んでんなし。普通に考えて訳ありなんわかるっしょ」
事態を理解し始めた俺の頭に、ボスンと衝撃を感じる。
じわじわと頭が湿ってきている気がする。
「とりまチューハイでも飲んでからおねーさま探しに行こ」
「……さんきゅ。くっそ落ち込んでたけどお前の顔みたら平常心が戻ったわ」
頭に置かれたのは缶チューハイだった。
こいつなりに俺を心配してくれてるのだろうな。
「てか、探しにいったらミオンたちが考えて行動したこの事態の意味がなくなるんじゃないか?」
ミオンたちが何を考えているかは定かじゃない。
だが、お姉様との2人で行動し、俺たちを置いていくどころかボコボコにしたんだ。
きっと俺たちが合流すれば都合が悪くなる可能性の方が高い。
「でも一方的にボコられたの悔しくない?」
「それはそう」
ぐびっとチューハイを体内に流し込んでいく地雷女。
「ライラさん……いや、ライラ! あのバカ女に絶対に一発おもいっきりぶん殴ってやる! おねーさまを独り占めとかあり得ないっしょ!」
「あ、そっちが怒りの主要素?」
「当然じゃん! ボコられたのは悔しいけどあーしが弱かっただけだし」
……確かにな。
俺たちが強ければあの時ミオンたちを止めれたかもしれない。
そもそも、強ければミオンたちにこんな真似をさせなくて済んだんだろうか。
「ほっほ、随分と白熱しとるのぉ」
「あーしたち! おねーさま探してくる!」
「ミオンたちが何を考えてるか知らないけど、一言文句言ってやるんだ」
俺たちは立ち上がり、温かい目で和んでいる師匠に向けて宣言する。
「ダメじゃのぉ、認められん」
「「なんで!?」」
俺達の宣言は、師匠にスッパリと切られる。
団員の治療を終えて戻ってきたママも師匠の横でうんうんと頷いている。
「今やミオンたん達は騎士団の敵じゃ。そんな相手を掃討以外の理由で追っちゃ、お主等の立場すら危うくなるわい」
「でもおねーさまはそうせざるを得ない状況だったんだよ多分! そんな相手を掃討なんて出来ないって!」
師匠の見解も、地雷女の主張も理解できる。
俺はどうすればいい、ミオンたちを信じてただここで待ってるだけ? 自分の気持ちを優先してミオンたちを探しに行く?
「もちろんワシらとて、ミオンたんとライラたんを掃討する気なんてさらさらないわい」
「え? どゆこと」
掃討する気も、探す気もないってことか? それはあまりにも薄情じゃ――
「難しく考える必要ないですよぉ、彼女たちを探すのであれば周りの目を欺く必要がありますよぉってことですぅ」
「周りの目を……」
「欺く……?」
大人2人は、悪巧みをする子どものようにニヤリと口角を上げる。
「現在、第1部隊以外の皆さんは共通の敵を見据え一致団結しておる」
「そんな状況で第1部隊がミオンちゃんたちを探しに行くなんて言い出したら反感ものですよぉ。ただでさえ部隊長、副部隊長が不在なんですからぁ」
確かにそうだ。
トップがいない部隊、それもあんな事態を引き起こしていなくなったトップ。
俺たち第1部隊は、騎士団内で1番肩身が狭いと思う。
「そこでじゃお主ら」
師匠がいつになく真剣な表情を見せる。
「第1部隊を背負ってミオンたんとライラたんの捜索を受け負うんじゃ」
「いやいや、俺らはミオンたちを掃討する気も、他の団員が相当するのを手伝う気もないぞ!?」
「違うでしょコブタちゃん。よく考えな?」
師匠は俺達にミオンとお姉様を掃討しろと言っている。俺はそう捉えた。たが、地雷女は違う捉え方をしている。
「あーしらが率先しておねーさま達を捜索する、つまりあーしらが1番に見つけやすくなる」
「な、なるほど……?」
「分かってないやつっしょ」
呆れるように地雷女は俺の頭をバシバシと雑にはたいている。
「あーしらはあくまでも他の団員の味方ですよーってフリして、おねーさまたちと合流するって話! そしたらおねーさまの意思を尊重しつつあーしらのやりたいこともできる! ってことでしょおじいちゃん」
「その通りじゃユリリたん」
つまり、名目上はミオンたちを敵として扱いつつも、実際はただ単に探すだけってことね。
あれ? でも待てよ?
「隊長、副隊長がいない組織って機能するのか?」
「いや、しないのぉ」
「だめじゃん」
希望が見えたところでそれは潰える。だが。
「まぁ解決策はあるから安心せい」
まだ希望は完全には潰えてなかったみたいだ。
「ユリリたん、今からお主が第1部隊部隊長じゃ」
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