33発目 祝福のニューアイテム

「あ、あーしが……?」

「おーすげ、大昇進じゃん」


 ただの団員がほんの一瞬のうちに第1部隊の隊長まで上り詰めた。

 この地雷女がトップの部隊なんて恐ろしい気もするが、師匠が言うなら間違いない。……か?


「それとソロ、お主は副部隊長じゃ」

「嘘だろ!?」

「あーしより大昇進じゃんコブタちゃん」


 おいおいおいおい!

 俺はただの雑用係だぞ!? そんな奴を副部隊長にしてんじゃねぇよ。


「なんで俺まで昇進なんだよ師匠! 荷が重すぎて痩せるぞ」

「痩せるなら良いじゃないか、でもまぁ案ずるでないわ。お主らはあくまでも部隊をまとめるためのお飾り。責任感あることは第2部隊部隊長がしてくれるから安心せい」


 師匠は言葉を続ける。


「お主らは第1部隊の団員をうまく使ってミオンたんとライラたんの情報を独占的に集めれるように肩書きだけそうしただけじゃ」

「よくそんなことできたな師匠」

「当然じゃわ、ワシはこう見えても騎士団内で結構有名じゃし権力あるんじゃよ」

「ママもいますからねぇ。ある程度の無茶は通してもらえますよぉ。第2部隊の部隊長さんも言い方ですねぇ」


 ニコッと笑うママの表情は少し怖く感じた。 

 脅してないよな?


「ママ……脅してないよね? あーし心配なんだけど。大丈夫? 笑顔怖いよ」

「あらぁ大丈夫よぉ? ちょっとしか圧かけてませんからぁ」

「「ちょっとはかけたんだ……」」


 まぁまぁそんなことはいいじゃないと話を誤魔化すママは、今後も第1部隊の一員として俺たちに力を貸してくれること、ミオンとお姉様を見つけ出して、無謀な判断についてお説教することを宣言した。


「さて、まず本件は第1部隊が責任をもって捜索することを他部隊に伝えてくるかのぉ」

「あーしが伝えてくるよ、肩書きだけでも部隊長だし」

「ほっほっほ、そうかい。頼もしいのぉ」

「ほらコブタちゃんもいくよー」


 強引に引っ張っていかれる。地雷女じゃなければ最高のシチュエーションだったかもしれない。


「第2部隊には伝えておるから残りの部隊によろしく頼むわい」

「はーい! 分かった? コブタちゃん」

「分かった、第2部隊以外のところに言えばいいのね」


 地雷女は俺のことバカだと思ってる?


 そんな疑問を抱えながら俺たちは各部隊に言って回った。

 中には俺たちの計画を見抜きそうな鋭いやつもいたが、地雷女が難なく誤魔化してた。すごいなこいつ、ミオンが絡んでたらいつもよりスペックが高い。


「――はい、終わり。全員に伝えたっしょ、みんな急なことで驚いてたね」

「そりゃ驚くって、肩書きだけでも公認がこんなんだもん」

「あ? あーしは妥当でしょ。ライラがいなきゃ、おねーさまが隊長であーしが副部隊長だったし! 多分」


 あながち否定できないのが癪に触るな。


「で、とりあえずどうすんこの先」

「まずはおねーさま達をふらっと探す! 騒ぎがあったと情報入ったとこを探っていけば、多分辿り着くっしょ」

「確かに、ミオンは言うまでもなく暴れるだろうし、お姉様は巻き込まれ体質出しな」


 そんな話を2人でしていると後ろから。


「ユリリたんの言うとおりじゃのぉ。早速じゃが、南西にある里で騎士団が管理する施設が破壊されたと報告があったわい」

「なにしてんだよあいつら……」


 師匠が笑いを堪えながら報告した。

 きっと暴れまくる弟子が面白いのだろう。破壊されて施設付近に住んでた人たちは絶対笑えないけどな。


「おねーさま……一体どんなお考えが……」

「ただ暴れてるだけとは思えない、とも言い切れないんだよなあ。ミオンぶっ飛んでるから」


 あいつらの真意がわからないうちは、むやみに決めつけはできないな。


 とにかく今は、南西に向かう。それしかないだろ?


「地雷女、判断は部隊長に任せる」

「もち行くっしょ、おねーさま捜索!」

「だよな」


 思い立ったらすぐ動く。それが成功の秘訣だ。

 俺たちはすぐに旅に出る準備を整える。


「ママも準備できましたよぉ」

「じゃあ行こっか、他の隊員は足手纏いだしあーしら3人で十分。団員には情報収集でもしてもらっとこ」

「うし、行くか」


 3人でも少人数編成。だが地雷女は強いし、ママがいる限り死なない。だから俺も躊躇なく体を張れる。


「ワシも準備できましたよぉ」


 3人でいざ出発って時に、裏声でママの真似をする師匠が現れた。

 いつものだらしなさを感じさせない、ぴっちりとした服を身にまとい。

 その上からローブを着てまるで歴戦の猛者のような風格を隠そうともしていない。


「あらぁダートルさんの戦闘服、久しぶりにみましたねぇ」

「え、おじいちゃん戦闘服なのそれ!」

「そうじゃ、似合っとろう?」


 さぁ行くぞなんて息巻く師匠。


「師匠も同行してくれるのか? 現役じゃねぇのに」

「騎士団を退いて数十年、いまだかつて鍛錬を怠った日はないわい。万が一の事態の時、ワシが全て解決してやるわい」


 グッとサムズアップする師匠は、いつもより数倍頼り甲斐を感じた。


「万が一の事態なんて、あーしは起こらないと思うけど、心強い!」

「地雷女、多分だけど万が一の事態は起こるぞ。相手はミオンだからな」

「……あーしも薄々そう思ってるけど誤魔化してたのに」


 ……このままここで喋ってたってどんどん最悪な想像をしてしまう。

 どんだけ鍛えたって、肩書きだけ昇進したって、根っからのネガティブは治らないようだ。


「お話はこのへんで、そろそろ行きましょうかぁ。日が暮れる前にぃ」

「そうだね。あーしは食料運ぶからコブタちゃん、野営物資運んでくれる?」


 地雷女の視線の先には、パンパンに膨れ上がる大きなリュックが2つ佇んでいる。


「さすがに2個はデカくね?」

「しゃーないじゃん? テント3つとテーブルとか椅子とかいろいろ詰め込んでるし」

「……しゃぁねぇなぁ。前後で背負うか」


 リュックの肩紐を掴むだけでずっしりと重さを感じて絶望するが、師匠の笑い声が希望を届けてくれる。


「ソロ、昇進祝いじゃ。ワシが魔法を施して収容量を気にせずに済む布袋じゃ」

「お、おおおお! すご! ありがとう!」


 見た感じ、分厚くて丈夫な布で作られたシンプルな袋。

 腰に巻けるように紐も付いていて、戦闘時にも邪魔にならないようなデザインになっている。


「それに入れれば持ち運びも楽々じゃ。運搬頼んだぞ」

「うす!」


 布袋の口をデカリュックに近づけると、まるで掃除機のようにぎゅっと中へ吸い込んでくれた。


「ユリリたんにはこの警棒を贈ろう。防御魔法を付与した警防は、いざという時にお主を守ってくれるじゃろう」

「わぁ! すっご! おじいちゃんありがとう!」

「さて、2人にお祝いを渡せたことじゃし、行くかの」


 師匠は人を鼓舞するのが上手いと感じた。

 新しいアイテムを手に入れたら、自然とやる気が出るし、お祝いなんてされれば期待に応えたくなっちまう。人間なんてそんなもの。


「おう!」

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