34発目 今日の晩御飯は肉祭りじゃん
ザクザクと南西に進むこと1時間。
俺たち少数精鋭のパーティーは、特に難所もなくスムーズに目的地へと進んでいく。
「これ、徒歩で行ける距離なん? あーしめっちゃ疲れたんだけど」
「仕方ないだろ? 馬車を引く馬はミオン達に逃がされたんだし」
「ほっほっほ、抜け目ないのぉ。ワシらが簡単に追えないようにしたんじゃろうなぁ」
ミオン達と言ったものの、きっとこれはミオンがやったと思う。お姉様はきっとここまで徹底的にはやらないと思うからだ。
いつもやると決めたら徹底的にやるのはミオンの長所でもあり悪癖だ。
「ミオンちゃんとライラちゃん、せめてママには一報欲しかったわねぇ」
口角が上がっている師匠とママだが、目は笑っておらず、明らかにお説教する時の親そのものの風格を醸し出していた。
「おじいちゃんのガチお説教コースかなあこれ」
「怖そうだな」
「まぁじ怖いかんね」
まぁ俺たちに何も言わず勝手したんだから、それくらいのお叱りは受けて当然だな。うんうん。
「でもその前に、俺たち……囲まれてね?」
「やっぱそう? 数秒前からあーしも薄々そうかなぁとは思ってた」
地雷女と、お互いの背中を守るように周囲を警戒する様を、師匠とママは微笑ましく見守っている。
「やっと気づいたのぉ、このまま餌にでもされるのかと思ったわい」
師匠は、数分前からだんだん増えてくる敵に気づいていたらしい。
にしても相手はモンスターか? 盗賊って可能性もあるが。
「あれなんのモンスター?」
「コブタちゃん、あれはただのオオカミ。ただの飢えた野生のね」
「獰猛で危険じゃね? てかこのファンタジー世界にただの野生生物とかもいんのかよ」
ガルルとよだれを垂らしながらジリジリ詰め寄るオオカミの集団。どいつもこいつも似たナリで、やはり動物は不細工だとかデブだとかハゲだとかの差別はなさそうでいいな、なんて思ってしまう。
いじりというなのいじめ、実情犯罪が動物界にはなさそうで羨ましい。また転生するなら猫になりたい。
「何考えてるか知らないけどコブタちゃんはオークに転生してもいじめられてたんだから何になっても記憶があれば辿る運命は一緒でしょ」
「……考えてること分かってねぇと出てこないセリフだろそれ」
まるでエスパーのように俺の思考を感じとたかのように話を進める地雷女は、「今日の晩御飯は肉祭りじゃん」なんて物騒なことを不敵な笑みで吐き捨てる。
野生のオオカミも若干身震いしてた気がする。
「ざっと数えて20匹じゃ、お主らでやれるな?」
「20か。なんとかいけそうだな」
「そだね、案外大した数じゃないじゃん」
俺たちが余裕を見せると師匠とママは、道中にあった崖の上へ退避し、ただ見守るだけの存在となった。
「コブタちゃん。この中に群れを統率するボスがいると思う。数は大したことないけど、ボスを早く見つけなとあーしらが食べられるよ」
「なるほど、ボスを倒せばいいのね」
「そう簡単に言うけど、どれがボスかなんてのは実際戦わないとわかんないかんね」
今俺たちはオオカミに囲まれている状況。
こいつらがどう動くか、どのように統率されているかは未知数。
そんな中で、どいつが指令塔を担うボスオオカミかなんて見極めは、地雷女が言う通り至難の業だ。
だがなぁ……。
「俺、ボスの見分けついてるんだよなぁ……」
「は? 冗談でしょコブタちゃん、戦場は舐めプしたやつから死んでくんだよ?」
「こっちがは? だわ! どう見たってあの厳重に守られてる片目に傷あるオオカミだろうよ!」
俺が指差すのは、狙う側のオオカミのはずなのに、守りの体制を固める数匹の奥にいるオオカミ。
片目に傷を負い、1つしか開いていない目。俺たちを威嚇して見せつけるような獰猛な牙。
なのに厳重に警備される哀れなオオカミ。どう見たってあいつがボスだろ。
「……いやいやいや? あれがボス? 違うっしょ」
「いやいや、絵に描いたような部下に守らせる上司の関係値じゃん」
「それは人間の話であって、相手は野生だよ? そんな人間味あることする野生生物見たことないって」
俺もねぇよ。
「異世界だからそこは狡猾なんじゃねぇの? オオカミにも臆病な個体くらいはいるだろうし」
「うーん、まぁいいや。とりあえずコブタちゃんはあれ狙いなよ。あーしは周りで好機を狙うオオカミを狩るから」
「はいよ」
「あ、仕留めたらなるべく早めに血抜きね?」なんて付け足す地雷女。
「はぁ、副部隊長として初めての戦闘が野良オオカミ狩りって……異世界なのにぱっとしねぇなぁ」
「文句言わない! キビキビ働け副部隊長!」
「分かってるよ部隊長! やればいいんだろやれば」
俺はメリケンサックのついた拳を軽く閉じたり開いたりして手の体操を軽く済ませる。
妙に扱いやすいメリケンサックが手に馴染んだのを確認して、まず殴る1発目は、俺に飛び込んでくるボス護衛オオカミのうちの1匹。
じんわり湿る鼻先を躊躇なく叩き貫く俺は、振り切る拳の最後の最後まで力を目一杯込める。
ギャインと痛烈な雄叫びをあげて地べたに転がるオオカミを足で払いのけてボスへと近づく俺に、何匹ものオオカミが襲いかかる。
不思議なもので、1匹でも殴ってしまえば、動物愛護団体に怒られそうな行為も平然と行える。
まぁそもそもいないんだけどなこの世界に。
「さぁさぁボスオオカミ、そろそろお前も前出て戦えよ」
「……ガルゥ」
か細い威嚇をするボスオオカミに、もう護衛をしてくれる部下はいない。
なぜならボスを重点的に守ってた数匹は俺が仕留めたし、大半のオオカミは地雷女が一掃してる。
「オオカミのボスにしたらひ弱すぎねぇか? そこも人間みたいだなお前。他人の力で威張ることしかできねぇなんて」
どうこのオオカミを仕留めて血抜きするか。俺はそればかり考えていた。
みんなみたいに剣を持ち合わせておらず、俺には小さなナイフしかない。
それでわりかし大きなオオカミを捌けるのか?
そんな疑問の最中に、ボスは腹を見せ降伏を宣言していた。
ボスの背後には、毛皮に隠し持っていたのであろう、なんだかすごそうな薬草がみえる。
「クゥン……」
「どした? 仲直りの印としてくれるだって?」
俺にオオカミの言語は通用しない。
「キャン!」
「おーしおしそうか! その気持ち、ありがたく受け取るからな」
完全に屋内犬のようなオーラを放つオオカミを撫でて、奥にある薬草を取ろうとした時、明確な殺気が俺の背後を刺す。
「……っ!?」
咄嗟に身を交わしたが、元々俺の体があった場所には、オオカミが今振り下ろしていた爪で抉られる範囲内だ。
間一髪じゃん、よかったぁ。
……というか? 今あいつ、明確に俺を騙して意表を突こうとしたな。
なんて姑息で人間味が溢れてんだよ。
「仕方ない、お前とは仲良くできると思ったのに。残念だよ」
数匹分の鼻の水滴がついたメリケンサックに過去1の思いを詰めて放つ拳はきっと今までのより威力が強いと思う。
現に、オオカミは顔を歪ませて地面に伸びた。
「さ、血抜き血抜き」
「コブタちゃん、血抜きの仕方わかる?」
「全く。ただ血抜きっつうくらいだから血管引き抜けばいっか」
野生動物の解剖なんてできるわけないだろ。中学時代のカエルの解剖さえできてねぇのに。
「もういいコブタちゃんに任せてたら食料無駄になりそう。ここにテント貼って火を起こしといて。今日はここで野営しよ!
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