31発目 叛逆

「なんて圧なんだ」

「副部隊長はこの程度で臆しますの? 笑止ですわね」


 発する圧をそのまま足に乗せ、全力で蹴りかかる敵は、勝利を確信したのか、笑みをこぼしている。


「舐めやがって、そのふざけたローブひん剥いてやる」


 砕けちった鎧のせいで露出した足で、あの強敵とやり合うつもりなのかミオンは。


「おいミオン! 流石に危ないだろ!」

「コブタちゃん、おねーさまは大丈夫だから今は余計な口はさんじゃだめ」

「……確かに無粋だったか」


 まるで嵐の前の静けさ。

 そんな空気感で、ミオンは目の前の敵と対峙する。


「素足でワタクシと打ち合う気ですの? 死にますわよ?」

「足がもげる程度だろ、せいぜい」


 状況は圧倒的不利。

 なのに強気なミオンは、自身の足がなくなるかもしれないことを承知の上で真っ向から突っ込んでいく。


「せいぜい足掻くといいですわ!」


 肉体を抉るよう、鋭角に伸びる敵の蹴り。

 それに対しミオンは、ど直球で直線的な蹴りで対抗する。


「その蹴りはあたりませ――ッ!?」


 ミオンの蹴りが自身の顔に当たるのを察知した敵は、余裕の笑みで体勢を後ろへとそらす。


「当てる気ないからな」


 人間の体の構造的に無理そうな動きで伸ばした足を縮こめ、素早く敵の裏へ回る。


「予想外ですわ……っ!」


 天高く上げた踵を、躊躇なく敵の脳天へぶちあてるミオン。


 だが、敵の身体能力も常軌を逸していた。

 ふらつきながらも、ミオンの足をなんとか掴み、そのまま地面へと叩きつける。


「クソが……!」


 地面に叩きつけられても立ち上がるミオンは、次の攻撃を警戒する。


「……きょ、今日のところはこのくらいにしといてあげますわ」

「あ……? 何言ってんだよ」


 涙目敗走。

 まさしくその言葉が今の敵にピッタリだと思った。


「な、なんででもですわ!」

「お前……」


 ジリリと敵へ詰め寄るミオン。


「予想以上に頭フラフラしてんだろ」

「ぎくっ! べ、べつに!」


 ぎくって言ったよ。


「とにかくワタクシは一旦帰りますわ! 罠にはいつでも嵌めれますし!」


 言って、地面を拳で粉砕して目眩しがわりにすると敵は、俺たちの前から姿を消した。


「……なんとかなった。でいいのかこの状況」


 周囲を警戒しているものの、どうやら他の敵はいないらしい。


「でいんじゃないかなソロくん。お疲れ様!」

「ですよねお姉様! ってその前にミオンの治療!」


 優しい言葉をかけてくれるお姉様に感激してついうっかり重症のミオンが頭から消えていた。


「はぁいミオンちゃんにライラちゃん、治療するからならんでねぇ」


 酷く崩壊した地面をどうするかも考えないと、住んでる人に迷惑がかかるな。なんて考えているうちにミオンもお姉様も元気百倍になって、ミオンは鎧を着替えた。魔法便利だな。


   

 ***


   

〈ミオンサイド〉

   

 強敵との遭遇。

 なんとか退けたものの、一瞬でも攻撃のタイミングがずれていればオレが負けてただろうな。


「ミオン、ご飯だよー食べな?」


 帰宅して、目の前にライラの手料理がある。

 だがオレは数分、あることに思考回路を使っていたため手をつけていなかった。


「どうしたの? ぼーっとして。傷が痛い? 代償が怖い?」

「傷は完治してるし、代償は慣れてる」


 ゆっくりと手を合わせ、まずは汁物を飲んで胃を温める。


「……ごめん、多分私と同じこと考えてるね」

「ああ……あのローブの下。騎士団の鎧だった」


 やつとの戦闘中、何度かローブがふわりと舞い、チラチラと見えた鎧。それは騎士団規定の鎧だった。


 見間違いではない、何度も見たからだ。


「今回の件で確信した。オレたちは、騎士団のトップに命を狙われている」

「……うん。前ミオンが疑ってた時は信じれなかったけど今は違う。向こうがそう来るならこっちも対抗しないとね」


 決意を固め、ハンバーグを頬張るライラ。

 シリアスな空気感なのに不覚にも可愛いと思ってしまった。


「ユリリちゃんたちにも事情を話して対抗策を考えないとね」

「いや、この件はオレとライラの2人だけで抱えるべきだ。狙われてるのはあくまでオレたち。あいつらを危険に巻き込む必要はないだろ」


 食事中に仕事の話はしない主義だが、今回ばかりは早急な対応が望ましい。


「確かにそうかも。でも私たち2人でなんとかできる?」

「ああ、力技だけどな」


 オレが考えた筋書きでは、相当な覚悟がいる。

 だが、あいつらに危険が及ぶ可能性をなくし、オレたちに標的を絞るにはこれしかない。


「まーためちゃくちゃなことするの確定だねこれは」

「とことん付き合ってくれよライラ」

「もー、そんな口説かれかたしたら断れないじゃん」


 ライラに筋書きを話したら当然のように反対されたが、なんとかこれでいくことに決定した。


   

 ***


   

〈ソロサイド〉


   

 ミオンが強敵を退けた翌日。

 俺は夢を見ていた――。


「――おいミオン! それにお姉様! これはどういうことだ!?」


 目の前に映る景色は、崩壊した拠点と燃え上がる残骸。

 そして、ミュハさんをボコボコにするミオン。お姉様も他の団員を蹂躙している。


 一体何が起きている? 理解追いつかない。


「ソロ、悪いな。恨んでくれていい」

「ごめんねソロくん。ボコボコにするね」


 張り付いたような笑顔を浮かべる2人の目は、全然笑っていなかった。


「おねーさま! 急にどうしたんですか!? 叛逆するならあーしにも声かけてよ!」


 状況に困惑しつつ、地雷女は縋り付くようにミオンへ懇願する。


「ユリリちゃん、足手纏いはいらないんだよね」


 お姉様は冷徹にそう言うと、躊躇なく地雷女を蹴り飛ばした。


「さ、拠点は完全に壊したし行くか」

「そうだね。団員も全員ある程度痛めつけれただろうし」


 そう言って、あたりを見渡す2人は満足した様子でこの場を去ろうとする。


「待てよ2人とも! 状況を説明してくれよ!」

「……」


 2人は言葉を発することなく、まるで俺を空気扱い。そのまま姿が見えなくなった。


「いったい、何が――」

   

 ――ふと、目が覚める。


「くっそ、碌でもない夢だな。ミオンとお姉様が騎士団の拠点を壊すわけないだろ」


 気分が落ち込んでいるからか、体もなんだか動かしづらい。


「ソロくん、それ、夢じゃないのよぉ」

「……へ?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る