30発目 蹴りから金属音
「で、任務って何すればいいわけ?」
俺の武器を買い、そのまま行き先も知らされずただ歩いていた。
道中、地雷女がミオンにデレたり、ママが母性を発揮したりと色々あったが、ついにミオンがお姉様に尋ねる。
「ずっと目的地言わないまま歩いてるけどどこ行くんだ?」
「あれ? 言ってなかったっけ。町外れの村に行くよ! 変な人が暴れてるんだってさ!」
あ、シンプルにいい忘れてただけなのね。
俺はてっきりサプライズ的なあれかと思ってた。
「なんだそのいい加減な説明」
「だって任務内容がそんな書き方だったもん」
お姉様は任務の書かれた手紙をミオンに渡す。
「ここのトップ終わってんな……反逆でもするか?」
どうやらまじでゆるふわな指令だったらしい。
呆れるミオンは隣を歩くママに手紙を回す。
「あらあらぁずいぶんとフワフワした指示ねぇ」
ママがふわふわした口調でそう言った。
「要するにあーしらはその変な奴しばけばいいってことっしょ。ちょーらくしょーじゃん!」
「いやいや、わざわざ第1部隊指名だろ? 強いんじゃねぇーの?」
いとも簡単と言わんばかりにヘラヘラしている地雷女だが、そう簡単な任務ならどの部隊でもいいだろう。
強いお姉様やミオンがいる第1部隊が指名されたのにはきっと理由がある。
2人と同等、あるいはそれ以上の強さなんだろう。
「強さはわからないけど、面倒ごとだとは思うよ。そして多分どっかの誰かさんがまた始末書を書くはめになる可能性もあるね」
「だってよ、気をつけろよソロ」
「いや明らかにミオンだろ」
なんであいつ自分じゃ無いって思えるんだよ。
「おねーさま! 始末書沙汰になったらあーしが代わりに書きます!」
「自分自身が始末書書かないといけないようなことしないようにしろよユリリ」
地雷女が始末書を書いたことあるなんて聞いたことないが、実際どうなんだろう。
見た目とか普段の俺にたいする素行はくそだから書き慣れてそうだな。
「部隊長の前でよく代筆の話できるね? きつーくお仕置きが必要?」
「いらね」
「あーしもいらなーい」
お姉様……完全に舐められてますよ。
「あらあらぁ、ライラちゃん部隊長としてはもっと厳しくしないとだめよぉ。信頼関係は構築されてるように感じるけれど」
「やっぱりママも厳しくしないといけないと思う? 私も前々からそう思ってたんだよね」
お姉様はきっと無理だろうな。
「ライラ、前は今のままで十分魅力的だろ? 変わらなくていいって」
「ミオン……そう言ってもらえると嬉しいよ! 変に厳しくしなくてもいっか!」
うまくミオンの口車に乗せられるお姉様。
2人の甘い空気に、当然俺たちはジェラシーがすごいことになる。
「あーし! おねーさまに! 魅力的って! 言われたい!」
「俺もだよちくしょう」
「あらあら、青春ねぇ」
そうこうしてる間に、目に映る景色は、発展した街から閑散とした田舎へと変わっていく。
「ついた! このあたり!」
「ここか、至って平和そうなのどかな空気が流れてるが」
任務は暴れる変なやつを退治しろ。だったよな。
だがこの場に、暴れているような奴なんていそうにないぞ。
「見る感じ穏やかな村よねぇ」
「そうだよね。暴れてる人がいたら呑気に米俵なんて運ばないよね」
俺たちの前には、米俵を必死に運ぶ村民が見える。
「こんにちは。精が出ますね」
「どうも、街から来たのかな? なにもない村だけどゆっくりしていってね」
お姉様は、天使のような笑顔で村民へ声をかける。
村民の返事も穏やかなものだった。
「つかぬことを伺いますが、この辺りで暴れる者がいると聞いたのですが、どこにいますか?」
「……? えっと、この村は至って平和そのもの。そのような者は1人たりともいませんが……」
こいつ何言ってんだ。そう思わせる表情の村民は、「では失礼します」と丁寧に頭を下げて去って行った。
「おいおい、来る場所間違えてないか?」
「あれ? おかしいな。この村って書いてあるのに」
お姉様から、任務の書かれた手紙を受け取り、目を通す。
そこには、確かにこの場所が明記されていた。
「お姉様、場所に間違いはなさそうですよ」
「だよね、でもそんな様子なさそうなんだよね」
状況が飲み込めない中、ミオンとママはふらっと民家の戸をノックして回る。
「なるほど、そうですか突然すみません」
「そうですかぁ、ありがとうございますぅ」
情報収集にいそしむ2人。
だが、みな口を揃えてそんな者はいないし至って平和だと言う。
「嵌められたな、やっぱ団長は信用ならない」
「いやいや、そうとは限らないでしょ! ミオンはほんと団長が嫌いだね」
「嫌いとかじゃなくて、シンプルに顔も見せないやつを信頼できないだけ」
ミオンはそう言うと、踵を返すように来た道を戻ろうとする。
「ミオンちゃんは決断が早いわねぇ」
ママがほのぼのとしてる。
「多分めんどくさいから帰りたいだけだなあれ」
「そうだね、ミオン絶対めんどくさいから帰りたいだけだよ」
顔にラッキーと書いているも同然の笑顔だからな。よかったな、帰れそうで。
「待った! おねーさま!」
「ああ、どうやら思い通りには行かないみたいだな」
帰路へ足を進めるミオンだったが、地雷女が声を発すると同時に歩みを止めた。
次第にミオンと地雷女、お姉様は警戒するように剣を構える。
「ソロ、ママの前方に立て。この中で非戦闘員はママだけだ、オレらで敵ボコすぞ」
「よく分かんないけど分かった! 敵がいるんだなミオン!」
「相当やばいよ、みんな気を抜かないようにね」
身構えるお姉様は、誰よりも早く剣を抜いてはるか先から迫る人影を見据える。
「――ふふ。殺気を隠してたつもりだったんですけれど」
「ッ!? 何この威力!」
突如現れる人物は、大きなローブで姿を隠してるものの、その蹴りからは何故か金属音のような音が聞こえる。
お姉様の剣とぶつかるごとに、けたたましい金属音と派手な火花が散る。
「ワタクシの蹴りを見切れるとは、さすがですわね」
「なにこの人! 蹴りから金属音する!?」
素早い蹴りの連続で、お姉様は防戦一方。
加勢したいが、敵は1体とは限らない。今は下手に動かないほうがいいか?
「ワタクシたちの平穏を脅かす第1部隊の隊長と副隊長。ここで息絶えてもらいますわ」
「……そう簡単に死ぬわけにいかないんで。断る」
ユリリに周囲警戒を継続するように指示してから、ミオンは敵に飛び込むように蹴り込み、お姉様が体勢を整える時間を強引に作る。
「やはり邪魔ですわね」
「そっちが一方的にオレらを知ってるのはアンフェアじゃないか? のっとれよ、スポーツマンシップ」
軌道が読めない敵の蹴りを、自身の足で難なくいなすミオンは、お姉様が攻撃に参加できるよう、絶妙な距離感をキープする。
「結局! 君はだれかな?」
「さっさと名乗ってくたばれよ」
「嫌ですわ」
ミオンとお姉様が2人がかりでも戦況は有利にならない状況。
まじで何者だあいつ。
「ったく埒がねぇ。ライラ、使うぞ」
「言うと思ったよ。でもそうだね、使っていいよ」
大きな動作でバックステップをして後ろへ下がるミオンは、口角を上げて言う。
「天界神ヴァルキリス! いくぞ!」
周囲の空気が揺れる。
これは、ミオンの禁忌魔法。
「ほうほう、ワタクシをその程度で退けられると考えますの? 誠に遺憾ですわ」
表情は見えないものの、むすっと機嫌を損ねたのはなんとなく分かった。
「まじかよ……!」
天界神ヴァルキリスの力を借りた禁忌魔法を使ったミオンの蹴りが、糸も容易く敵に受け止められてしまう。
「ッ! バケモンが……!」
俺たちがいる方まで景気よく吹き飛ばされるミオンは、足をおさえ苦痛の表情を浮かべる。
「ミオンちゃん、こっちに」
「……さすがママ、ハイレベルな魔法を無口頭で」
周囲を温かい空気で包み込むママの魔法は、痛々しいミオンの足を綺麗な状態に戻していく。
たった数撃、蹴りの撃ち合いをしただけで砕けた鎧の脚部分が修繕されることはないが、足は完全に元通りになっている。
「本気の蹴りでもダメージを与えれないのショックだわ」
「ミオン! 無茶はだめだよ」
「そっちこそ、無茶するなよ」
ミオンが治療を受けている最中、地雷女がサポートに入っていたものの、ほぼお姉様が戦況を維持していた。
やはり強さの次元がちがう。
「わざわざ罠にまで嵌めて殺しやすくしたのに随分と粘りますわね」
言うと敵は、身に纏うローブが揺れるほどの魔力の圧を放つ。
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