28発目 トゲトゲ赤髪男
***
「くそ緊張するんだけど」
「なんでだよ」
「いやいや! 警備の数とか建物がでかいとか色々あるだろ! 緊張要素は!」
ミオンたちが拠点と呼ぶそこは、侵入者を意地でも阻止するかのように大きく分厚い門がそびえ立っている。
そしてその門の前で帯刀する数十名の騎士団員。全員が完全武装していて、顔すら見えない。
人ってやっぱり表情とか重要だな。
顔が隠れてると何を考えてるか分からないし、鎧も相まってくそこえぇ。
「いつもありがとう、おつかれ」
「いえ! 自分らはこれが仕事ですのでお気になさらず!」
俺の話を無視してミオンは、鎧をまとい威圧感を出している団員たちにフランクな挨拶を投げかける。
まるで上司のような振る舞いだな……なんて思ったけどこいつガチで上司なんだったな。
「気負いすぎないようにな」
「はい!」
「ミオンなんか偉そうな立ち振る舞い上手いな」
「実際おねーさまは偉いんだし! 弁えろコブタちゃん」
そっか、第1部隊の副部隊長ならそうか。転生前の孤高の1匹ヤンキーのイメージが強すぎていまだになれないな、偉い立場のこいつ。
「へいへい、わかりやした」
やはり地雷女はミオンのことになると治安が悪くなってしまう。
「さ、いつまでも外で時間使ってるのは勿体無いよ! 早く中入ろ!」
「はいお姉様! どこまでもお供します!」
お姉様の一挙手一投足が美しい。俺はこの人に逢うためにこの世界に来たのかと最近強く思う。
「なぁミオン、騎士団の拠点って案外きれいなんだな。もっと血みどろだと思ってた」
ミオンたちの後ろについて拠点内を回っていると視界に映るのは、小綺麗な景色。
まるで西洋をコンセプトにしたホテルを歩いているかのような感覚にすらなってしまう。
命のやり取りをしている騎士団の拠点としては少し似合っていない。
「あらぁ拠点も随分とオシャレになってますねぇ」
「ママのときとは変わってる?」
「そうねぇ、ママのときはそこら中に血がこびりついてたわよぉ」
「こわ……」
過去の拠点。
それについてママの口から語られたとき、俺たちはただ思ったことが口から出て、図らずも声がシンクロした。
切実に時代が進歩していて良かったと思う。
てかママ何歳だ?
「今はある程度は平和に近づいていて喜ばしいですねぇ、ほんとうに」
「とは言えまだまだだと思うから戻ったんでしょママ」
「そうですねぇ、今どきネクロマンサーだなんて穏やかじゃないですからぁ」
そう言い合うママとミオンの2人の目は闘志が燃え上がっており、ネクロマンサーは間違いなく凄惨な結末を迎えるのだろうと悟った。
「ふ、2人とも目が怖いよー! 他の団員さんみんな警戒するから笑顔でねー」
「あらあらぁ」
「険しい目つきのおねーさまも素敵!」
地雷女、お前はどんなミオンでも好きだろ。
「お姉様の言うとおり、笑顔でいこうぜミオンにママ! 笑う門には福来るって言うしな」
「そうだな、イケメンになれるチャンスを逃したバカを思い出すと自然と笑えてくるわ」
「おうコラミオン! それは誰のこと言ってるんですかね!」
しれっと言葉のナイフを突き刺すミオンにすごもうとしたら背後から殺気を感じる。
「コブタちゃーん? おねーさまに文句があるならまずはあーしを通しなね?」
「……どの立場で言ってんのそれ」
「あ?」
「いえ、なんでもないです。ごめんなさい」
第1部隊の部屋として用意されている一室へと向かう最中ですら、地雷女にかかれば物騒な雰囲気にできてしまう。
なんて恐ろしいんだ地雷女。
「――おいおいおいおぉい! どの面下げてここに来れたんだ! あぁん!?」
!? なにごと!?
突如背後から聞こえる不穏な叫び声。
一体何だってんだ。
「なぁ聞いてんだろミオンてめえ!」
「お、おいミオン……この人すっげぇ怒ってるぞ……なにしたんだ?」
しかめっ面でガン無視を決め込むミオンは、そのまま歩き去ろうとしている。
「おいゴラァ! 逃げんのか!? あ!?」
すごい剣幕で捲し立てるトゲトゲ赤髪男。
何があったのかは知らないが、ミオンに対する明確な悪意。
そしてその悪意がミオンに向けられたということは、地雷を踏抜いたのと同義。
「おいキモ男。毎回あーしのおねーさまに対してなんだしその態度。図に乗んなし」
「ユリリ・ワイト……お前は第1部隊のただの団員だろ。第2部隊とはいえ副部隊長様に対する態度がなってないんじゃないか?」
それはそう。
てかこの人副部隊長かよ、大丈夫か? 第2部隊。
「あ? この間の模擬戦であーしに負けたくせに吠えんなし」 「……このクソ女…………!」
あちゃあ。負けちゃってたかぁ。
「はいそこまで! ミュハ副部隊長、訳もなく因縁をつけてくるのであればそちらの部隊長を交え話し合いの機会を設けます」
「ぐ……これ以上始末書沙汰はまずい……」
今にも剣を交えそうな2人を見かねたのかお姉様は仲裁へ。
そして相手側の部隊長の介入を匂わせミュハと呼ばれた副部隊長を黙らせる。
「そうでしょ? 聞いてるよ? 事あるごとにやらかして始末書書きまくってるって」
呆れた様子の表情を浮かべるお姉様は、やれやれと手で表す。
「うちにも結構な頻度で始末書を書く問題児がいるけど、処理する側も大変なんだからね? 極力書かないといけないことはしないように! 分かった?」
お姉様は途中からミュハさんではなくミオンの目を見て話していた。
「おいライラ、なんでオレを見る」
「あ、つい」
お姉様、相当苦労してるんですね。すみません俺の親友が……。
「がはは! ミオンお前みっともねぇな!」
「おねーさま侮辱すんな」
「しゃしゃってくんなユリリ・ワイト!」
シャーッとまるで猫のように威嚇し合う地雷女とミュハさん。仲の悪さがうかがえる。
「で? お前なんのためにその不快な面見せに来たの?」
牽制し合う2人の間に割って入り、地雷女を自身の方へ引き寄せるミオンは、ギロリと睨みをきかせる。
そして地雷女は、頬を赤く染めている。
「相変わらず一言余計なんだよクソが!」
「いいから要件言えよ、時間は有限なんだ」
ミオンはミュハさんに用件を急かした。
そもそも用件あるのか? 無計画に絡んできたのとばかり思っていた。
「お前、うちの団員を殺してよく平然といれるなぁおい! 理由がどうであれ仲間を殺されたことは許せねぇ!」
「……」
「あいつのご遺族が知ったらどんな顔するか……お前は考えたか!? この人でなしが!」
仲間想いのいい人なんだろうけどなぁ。あまり深く物事を考えないタイプなんだろうなぁ。
「ご遺族がどんな顔するかだって?」
「ああそうだよ、大事な娘を殺したやつがのうのうと生きてたらどう思う! 殺したいほど憎いだろが!」
「あらぁ、それは違いますねぇ」
遺族がどんな顔をするか。それはすぐに知ることになるな。
「ご遺族はこんなお顔です」
「へ……?」
ミオンの横に立つママは、にっこりと微笑んで、団員を殺したミオンより平然と振る舞っている。
「どうもぉ、あの子の母ですぅ。今日から第1部隊でお世話になりますぅ」
「母ぁ!?」
そりゃあそんなリアクションになるわな。
騒がしいミュハさんにもう慣れてきた自分がいる。
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