17発目 戦略的撤退

 ***


   

〈ミオンサイド〉

   

「ライラ! 先行しすぎだ、退くぞ」

「でもまだ目的が……」

「どうせ今日1日じゃ終わらない、物資もって再挑戦だ。隊長しっかりしてくれよ?」

「ごめん……」


 突如現れた建造物の調査のためライラとオレの2人で、周辺の捜索の任務に出ている。


 だが強敵が多く、軽装で物資も持たずに来たオレたちは苦渋の決断で拠点へ退避することにした。


「強敵が多いってことだけでも知れてよかったな、次は対策していこう」

「団長に相談だね」


 今後の対策を1度騎士団のトップに委ねようとするライラに同意しかけたが、オレはその同意を口に出すことはなかった。


「今回はオレたち2人で行おう、団長たちには報告しない」

「え!? どうして? 報連相は団体行動の基本だよ」


 森を抜け、満身創痍のお互いの体を支えながら歩いている。


「トップが完全に信用できるならの話だな」

「信用できないの?」


 オレの考えを理解できないのか、語尾に疑問符が付属している。


「ツラ見せないやつを信用はできないだろ。それに、今回の件も引っかかる」

「いつもと同じじゃなかった? よくわからないところは私たち2人で行くことが多いし」


 確かに内容的にはいつもと大差はない。


 ただ、いつもと違う点が1つあった。


「事前情報がいつもより少なすぎるし、全部間違いだっただろ」

「それは……そうだけど。そういう時もあるんじゃない? ここは隊長の私の意見を聞いてもらうよ」


 誰が調査して団長に報告しているかはしらないが、ここまで間違った情報は初めてだ。

 今回に限っては信用できない。命の危機すらあり得る。


 トップに1番近いオレたちは、団長にとっては目の上のたんこぶ。命を狙われる可能性も考慮しておかないといけない。


 考えすぎだと思うけどな。


「頼む、本件はオレたちだけで解決させてくれ。どうしても報告するっていうなら、監禁してでも止める」

「どうしてそこまで」

「ライラ死にかけただろ。なにか嫌な予感がするんだよ、だから頼む」


 曖昧なオレの直感でしかないが、今回ばかりは譲れない。いや、いつもオレの意見が通ってるけども。


「私のためってこと?」

「オレの身も危ないからな」


 なにかを期待した様子でオレの様子をうかがってくる。


「ふーん、そっかぁ。分かった、今回だけだからね!?」

「ありがとう」


 勝った!


「そうと決まれば帰ってすぐ作戦会議だ」

「大まかな案はあるの?」

「一応な」


 いつも通り妥協してくれたライラの肩を支えながら、拠点の中へと入っていった。


「みんな集めようか」

「まずは治療してからじいさんの屋敷に行こう。トップに作戦がバレる可能性があるしな」

「さすがに大丈夫でしょ」


 隊長が副隊長よりリスクヘッジが雑って現状に少し呆れながら、丁寧に解説して要件を通した。


「……大丈夫じゃなさそうなんだね? 分かった、ほんと今回だけだから!」

「ありがとうライラ」

「お礼は今度デートしてくれたらいいよ」


 ニマッと笑うと拠点滞在時間は数分ほどで、ソロたちがいるじいさんの屋敷へと向かった。


「前行きたがってたレストラン予約しとく」

「わーい!」


 新設されたフレンチレストラン。なかなか予約が取れないことで有名らしいが、騎士団の第1部隊の副隊長ともなると、それくらいの融通は利かせてもらえる。


「今日は素直だねー」

「いつも素直だって」


 いじられながらも屋敷へ行くと、庭でなにやら大声で叫ぶ2人の声が聞こえる。なんだ喧嘩か? ったく……仲良くしろって言ったのに。


「だって不安になるじゃんかよお!!」

「わがる! あーし以外の女とすれ違うだけでもうしんどい!」

「だよなぁ!」

「「うぉぉぉおおおん!!!」」


 ……。なにしてんだ?


「あれ、仲良くなってるって認識でいいのかな?」

「どうだろうな、ライラ的にあれでいいならその認識でいいんじゃない?」


 俺は考えることを放棄した。


 地面にはスト缶が20本ほど転がっていて、2人ともかなりめんどくしあがっている。マジでなに考えてるんだ。


「リセットヒール」


 泥酔状態は、状態異常回復の魔法で癒すことが出来るのだろうか。定かではないが、物は試しということで、ひとまずかけてみた。


「酔いが覚めた……」

「あーし辛くなってきた……」


 どうやら酔いは覚めたらしい。


「おいしっかりしろメンヘラども。昼から堂々アルコールキメるな、じいさんも止めろ」

「2人を見てたら可哀想でのぉ、時には酒も必要じゃろう?」

「おじいちゃん、限度ってものも必要だからね?」


 最年長が故に酒の力を借りることを理解できてしまったんだろうか。とはいえあそこまでベロベロになるのは止めろ。


「で? なんでそこまでベロベロになってたんだよ」

「社会の厳しさに気付いたんだ」


 虚な目で天を仰ぐソロは、なにか哀愁を漂わせている。


「……まぁいいや。お前ら、緊急事態だから緊急会議だ。じいさんは第三者として客観的に聞いてくれ。いつも通り頼むぞ」

「今回の仕切りはミオンたんか、荒れる予感がするのぉ」


 特に指示がなく、オレとライラがメインで動く作戦の場合は、毎度じいさんの家で会議をしていた。


 会議をして大まかな作戦を決めてから、拠点でメンバーにそれを共有する。これが1番効率的にことが進んだし、無駄な意見も「もう決めたことだから」で弾き飛ばせる。


 上司としては部下を尊重しない最悪な手法だが、手っ取り早く行動できるし問題ないだろ。


「ユリリとライラは作戦に破綻している部分があれば指摘してくれ」

「はーい! でもおねーさまの作戦って基本物理押しだし、常に破綻してて作戦じゃないですよね?」


 おっと、根本から指摘された。


「そうだね、ミオンは回りくどい作戦考えれないからねぇ」

「オレだってたまには頭使うわ」


 屋敷内に移動して、どっかりとソファーに腰掛けてみんなを見渡す。


「なぁ、騎士団の会議に部外者の俺いていいのか?」

「部外者? いやいや、騎士団戦術指南役のじいさんに鍛えられて部外者ですは無理だぞ?」

「へ?」


 今回の作戦。


 その要はソロだ。


「オレたち2人は長期戦を避けるために退いてきた。なぜか分かるか?」

「めんどくさいから?」

「騎士団ナメてる?」


 めんどくさいで退けるほど甘い仕事じゃないぞ、騎士団ってのは。


「オレたちが退いた理由はいたって単純、物資がなくて長期戦が無理だったからだ」

「おねーさま、あーし言いたいことわかったかもしれないです」

「言ってみ」


 オレの言葉から、言いたいことを察したらしいユリリは、ビシッとソロを指差してオレの声真似をしながらキメた。


「ソロ。お前には物資の運搬を担うため、騎士団第1部隊の雑用として働いてもらう」

「はぁ!? おい地雷女、さすがにそれはないだろ」


 やれやれと呆れるソロは、「やっぱりミオンのことを理解しているのはこの俺のようだな」と誇らしげに言ってオレの声真似を披露する。


「ソロ、お前には今回ライラのサポートを任命する。死んでも守れ、いいな?」

「「ちげぇよバカ」」


 見当違いな解釈でモノマネを披露するソロへのツッコミが、奇跡的にユリリとシンクロする。


「さすがにそんなこと言わないね、私そこそこ戦えるしね」

「そんなぁ……お姉様を守りたい!」


 崩れ落ちるように凹むソロは、オレにアンサーを求めてきた。


「ユリリが正解だ、お前今日から騎士団の雑用な」

「俺って人の姿に戻っても人権ない感じですか!?」

「人権が欲しいなら実績を積め。ここに日本国憲法はないぞ、自分の生活を守れるのは自身の能力だけだ」


 異世界での生活水準格差なんてのは、当然のように蔓延っている。

 日本でも多少なりとはあった格差だ、戦々恐々とするこの異世界でないわけがない。


 今までの平和主義な思考じゃ、必ずなにもできないままに死ぬ。


 人として生きるには、たとえ人の道を外れたとしても圧倒的な実績とその他諸々を手に入れるしか方法はない。


 手っ取り早いのは騎士団に入り、好き放題やって、それを評価されることだ。


「また私初耳なことだけど、これはチャンスだよソロくん。騎士団に入れば地位も名誉も手に入るよ!」


 そのライラの一言がソロに火を付けたらしく、その目に闘志がメラメラと宿った。

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