16発目 あーしの王子様だもん!

「てか思い出したんだけど、大原唯我って女子校にカチコミかけたやつじゃない? さっきふと思い出した」

「げ……知ってんのかよ」


 名前を聞いた瞬間の反応から若干やばいかなとは思ったが、やはり俺は認知されていたか。


 女子校に乗り込んだなんてお姉様に知れたらことだかららあの時は焦ったが、まさかこいつそれを避けてわざと今言った……? なんてことはないか、嫌いなやつは蹴落としたいだろうしな。


「澪様が、騙された友達のために女子生徒と女教師を殴りに行った時について行ったんでしょ? そこら辺は調べたよ」

「澪も知ってるのかよ」


 こいつ何者だ? もしかすると俺たちと同じ高校だった説あるぞ。

 師匠に聞いた話だが、この街はほとんどが転生者と言う共通点がある。つまり同級生でもなんらおかしくはない。


「だって澪様はあーしの王子様だもん! 今はおねーさま一筋だけどね!」

「へー」


 澪にゾッコンだったやつが、転生してミオンにゾッコンか。あいつは見た目じゃなくて内面が超優れてるタイプだな。


「なんその興味なさそうなリアクション」

「だって同一人物なんだから別にどっちが好きでも変わりないだろ」


 言ってから気付いた、これ言ってよかったやつか?


 ミオンと地雷女の関係性は仲間、ってことしか知らない。だから裏の顔なんてものを想定せず話した。だがこいつが実は澪のストーカーだったらどうしよう。


 確実に犯罪の片棒を担いでしまったことになるぞ。


「やっぱまじで澪様なんだ?」

「やっぱ?」


 確信したことの嬉しさにニヤッと微笑むその表情は、粘着系地雷女特有のそれに見えた。


「だってミオン・シドーだよ? 獅童澪をちょっとしか変えてないじゃん。それに外見と性別が変わってもあの性格は変えれないって」


 フフフと笑う地雷女は、「でも確信に変わってよかった」と年相応の女性のようなまともな笑みを浮かべ、俺はその時あいつが美形だということを再認した。


「確信してどうするつもりだよ」

「猛アタック、この世界ではあーしが堕とす。いっぱいイチャイチャする!」

「まるで転生前はできなかったみたいだな」


 俺はミオンの口からこんな地雷女がいたなんて話は聞いていない、つまりストーカーである可能性も大いにあるぞ。


「あーしより先に澪様を手に入れた女がいるもん、流石に寝取りは趣味じゃないし」

「なんだ、思いの外常識人か」


 となるとストーカーではなさそう。


「来世では澪様と一緒になれるように願って首吊った甲斐があったほんと。あーしまじ幸せ」

「やべぇやつじゃねぇか、なにしれッと自殺してんだよ。頭弱いのか? 澪よりいいやつなんて山ほどいただろ」

「は? 澪様よりいい人なんているわけねぇだろ、目付いてんのか?」


 こいつガチのやばいやつだ……。


「でもここでもおねーさまは他の女のものなんだよね……」

「あー、あの2人やっぱり出来てんの?」


 百合の波動を感じながらも、恐る恐る聞いてみる。


「あくまで仲間って言い張るけど、同棲しててただの仲間ですは信用できなくない!?」

「まじそれ! 絶対夜な夜なピーだろ」

「あーもうまじ病む!」


 ガンガンと地面を石で叩き始める地雷女を見ていたら、俺もだんだん感情がネガティブに寄ってくる。


 あの可憐なお姉様が夜な夜なミオンの手で乱れるのを想像するだけで今すぐ泣き叫びたくなってしまう。


「っは! だめだだめだ、お前のせいでまたヘラりそうになったじゃねぇか」

「やっばあーしもナチュラルにヘラってた」


 メンヘラなんて自身の輝かしい未来を壊すクソ要素でしかないのに、気付けばヘラってる。


 精神に染みついたメンヘラはおそらくニコチンとかアルコールよりも恐ろしいぞ。


「でもどうすればおねーさまに好かれるの!?」


 持ち堪えたのにすぐにヘラりそうになる地雷女。


「あいつは適度な距離感を保てる女が好きだぞ」

「まじ?」

「嘘ついてどうするんだよ」


 この女は少し俺に似てるのかもしれない。行為が爆発して、どうしようもなくなって、暴走する。


 そんな親近感のせいで、教える必要のない情報を教えてしまった。


「お姉様は適度な距離感を保ててるだろ? あいつの彼女も適度な距離感を保てる子だったんだよ」


 本人の口からも、適度な距離感で周りが見れる人が好みと聞いたことがある。つまり地雷女は真逆だ。うざい女程度にしか見られてないだろ。


「なるほど? つまり距離感の測れる女になればあーしもおねーさまの守備範囲に入れるってことね?」

「まぁ無理だろうけど頑張れよ」


 この地雷女が億が一にでもミオンを仕留めることができれば、お姉様はドフリーになるって寸法よ。賢すぎね?


「あーしがおねーさま射止めたらライラさんとワンチャンとか考えてるっしょ」

「へ? な、なんのことだが」


 見抜かれてるじゃねぇか。


「まあお互いのためにお互い利用していこ。せいぜい足引っ張らないでね、コブタちゃん」

「ほんといい性格してるよな。そっちこそ足引っ張んなよ地雷女」


 仲の悪い俺たち2人は、なぜか協力関係になってしまった。

 だがちょうどいいかもな、女って生き物は仲のいい女に男が近寄るのを嫌うが、お姉様と地雷女はさほど仲良くないらしい。


 その点は安心できる。


 だが、地雷女とミオンをいい雰囲気にするなんて至難の業すぎないか?

 ミオンはああ見えてガードが堅いからな、男にしては珍しい絶滅危惧種だな。


 どうしようかと考えながら問診を適当におこなっていく。やっぱお姉様がよかったなぁ……。

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