43発目 天上天下唯我独尊
〈ユリリサイド〉
天上天下唯我独尊。
あーしの人生はあーし以外全員雑魚。あーしが頂点にして唯一無二だと思ってた。
幼稚園の時からあーしの可愛さは他を圧倒してた。
小学校に上がる頃には芸能事務所からのスカウトなんてもはやルーティーンだった。
その頃からあーしは確信した。
あーしは特別。周りは引き立て役だって。
でも違った。
中学に上がれば秀でる人間を陥れる醜い人間があーしの前に立ちはだかった。
男子生徒にチヤホヤされるあーしが気に食わなかったのか、エセ1軍女子がクラスの不良を使っていじめを始めた。
殴られ蹴られ、でも我慢した。
だけど、ある日ついに犯されそうになった。
大人数に囲まれて、押さえつけられ、服を破られた。
怖くて声も出なかった。
奇跡的に無事助かったけど、あーしはそれが怖くて学校に行けなくなった。
その時の不良は近づいてくる誰かに怯えて逃げていってた。
あんな怖い連中を脅かす存在がいる学校なんて尚更いけないと思った――
「――おい獅子王じゃねぇかあれ! 逃げろ!」
獅子王?
身動きが取れない状態で耳にした言葉。
「ちょっとあんたらこの女犯すんじゃないの?」
「うっせぇよアバズレ! やりたきゃ自分でやれ俺は命が惜しい!」
「はぁ? 逃げんな!」
あいつらは何から必死に逃げてるの?
「ねっむ、授業出なきゃだめ?」
「当たり前だろ、高校行けなくなるぞ? いつも教師が「獅童澪は問題児で困る」って言ってるぞ」
「いやいけるだろ多分。それに問題児はお前もだ唯我」
遠くから誰かの声が聞こえる。
ここからは距離があるのにあいつらは逃げてた。そんなに怖い人なのかな?
今こんな乱れた服装を見られるわけにはいかない。今度は確実に犯される。
そう考えたあーしは、すぐに避難してそのまま早退した。
〈ミオンサイド〉
「なぁ、今ぼろぼろのシャツ着た女いなかった?」
「え、なに怖い話? やめろよ澪」
「いやちげぇって。絶対いただろ」
気のせいだったはずはない。
泣きながら逃げてく女がいたはずなんだよな。オレの勘に間違いはほぼない。
「まさかあれか? 今問題になってるいじめってやつ」
「なにそれ」
「いや知らないの澪。朝の学年集会でも言ってただろ」
「学年集会?」
「あ、こいつ今日遅刻してきてたわ」
どうやらオレの知らないところで問題が起きているらしい。
唯我は呆れるように笑った。
「まぁそれはどうでも良くて、澪が見たっていうその女の子もいじめられてたんじゃないかって話」
「大変だな」
「ずいぶん人ごとだな」
「人ごとだろ、オレは関係ないし」
「うわ冷た、風邪ひくぞ」
こいつは何を言ってるんだろう。
「なんとかしようと思わないのか?」
「オレに何ができるってんだよ」
「いじめっ子をボコすくらい? 人をいじめるってことはいじめられる覚悟があるってことだろ?」
こいつはニヤリと悪そうに企んでいる。
「俺が主犯を探す。澪は暴れるだけ。退屈してるんだろ最近」
「はぁ、口車に乗ってやるよ」
きっとこのバカはいじめの原因をオレに断たせて、自分も解決に一躍買ったなんて言いたいんだろうな。
いじめられっ子を助けたいって思いも伝わるから厄介だ。
「さすが親友! 話が早くて助かる。じゃ、早速探してくるー!」
「おう行ってこい」
さてと、オレはどうすっかな。
今はまだ中学生。少し落ち着いて見られることは多々あるが所詮はただのガキ。外に出てサボるとすぐバレるからな。
「また屋上か」
壊れた南京錠で、形式的に施錠されたドアを抜けてから、快晴が広がる景色を見上げた。
「あー、この空を見たらなにもかもどうでもよくなるな」
「こら、ダメだろ後輩くん。そんなこと言っちゃ」
「……なんださとパイか。人のこと言えないっしょあんたは」
「あたしはいいんだよ、生徒会長として活躍してるからさ」
屋上には稀に先客がいる。
それが不良生徒なら扱いは簡単だが、目の前でアッシュグリーンの短い髪をたなびかせる人物はそう簡単に扱えない。
オレのたった1個上なだけなのに堂々と振る舞うその様は見習うべき素質だと感じる。
「さとパイは生徒会長だからってやりたい放題しすぎなんだよ」
「だってみんなと楽しく過ごしたいじゃん? だから余計なルールはいらないんだよ」
ふへへと笑うさとパイ――竜胆〈りんどう〉沙都子〈さとこ〉。
「あたしが権力者になったら絶対みんなが笑える世界を作るのにな」
「一歩間違えて独裁政治になりそうだけどな」
「はは、その時は澪たちが殺してでも止めてよ。学校始まって以来の問題児2人でさ」
物騒なことを言いながら当たり前のようにカセットコンロとフライパンを持ち込んでウインナーを焼いているさとパイは問題児ではないのだろうか。
「澪も食べる?」
「食べる」
校則がどうたらより、育ち盛りのオレは食欲に負けた。
「そう言えばさとパイさ、この間教師辞めさせたって聞いたんだけどガチ?」
つい最近、嫌われまくる教師が自主退職したというちょっとした祭りがあったのだが、この件にさとパイが関わってると密かに囁かれている。
「いやいや! そんなわけないでしょ、生徒会長って言ってもたかが中学生だよ? そんな権限ないって」
「やっぱそうだよな」
噂ってのは一人歩きして大きく成長し、尾鰭がつきまくるもんだ。
「そうそう。ただちょーっとパパの名前使っただけだもん。悪行がパパの耳に入るかもねって」
「ほぼさとパイが辞めさせてるだろそれ」
確かさとパイの父親は優秀な弁護士だったか?
法に触れそうなことしてたから怯えて自主退学は当然の結果だな。
まぁそんな些細なことはいいとして、このウインナー美味しいな。
「お米いる?」
「いるけどなんで炊飯器も持参してんの? 何しに学校来てんの?」
当然のようにパカっと炊飯器のふたを開けるさとパイに、無駄だとわかっていても突っ込まざるを得なかった。
「ん、唯我から連絡来たわ。飯は捨て難いけどもう行くわ」
「えー、あたしより唯我の方が大事なんだ?」
「急用だからな、めんどくさいこと言うなよ」
「冗談だって、嫌わないでー」
お詫びにーなんて言ってオレの口へ強引にウインナーを2本強引に突っ込むさとパイは笑顔で見送ってくれた。
「――おい遅いぞ澪! 今こうしてる間にも俺の未来の彼女候補がレイプされてる可能性あるぞ!」
「……言ってることクソキモいけどずいぶん深刻そうだな」
すごい深刻な顔で今にも掴みかかる勢いの唯我。
一瞬聞いただけだが、何やら物騒なワードが飛び出した。唯我の未来の彼女候補……ではなく、レイプ? オレらまだ中学生だぞ。大人の犯罪じゃないか。
「つか何食ってるん?」
「ウインナー、お前が呼び出すから白米食い損ねた」
「おい何拗ねてんだ、ウインナー食えてるだけいいだろ。どうせまたさとパイに餌付けされたろ。毎回ずるいぞ」
スマホをぽちぽち操作する唯我は、ある男子生徒の写真をオレに見せる。
「これが主犯のツラな。んでこっちが小判鮫。んでこれは主犯の彼女」
「短時間で調べすぎだろ」
「幸いにもまだレイプされた子はいないらしいけど、ひどい暴行や全裸に剥かれた子はいるってさ」
眉間に皺を寄せる唯我はオレにスマホを渡し、被害者リストを見せる。
ざっと見たところ10人くらいはいるな。
「あとは任せとけ。クズを型にはめてくるわ」
「集団だから気をつけろよ。無駄な心配だろうけどさ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます