42発目 ずっと愛してる
里から少し離れた場所。
そんなところまで歩いてきたが、周囲には見事に何もない。
少し広めの道に、周りには森林。ここなら存分に暴れることが出きるだろう。
周囲に巻き込んではいけないものが無いことを確認していると、人影が4人分近づいてくるのを察知する。
「ミスミオン。近づいてくる人たちが言っていたお仲間かしら?」
「ああ、ソロとユリリ、じいさんにママだ」
「子と保護者みたいな紹介ね……。にしても、お仲間にしては殺気だって無いかしら?」
ベイクが言うようにソロたちからは明らかにヒシヒシと殺気が飛んでいる。
「想像はしてたけど、ごめんね。協力してね、は無理そうだな」
「そりゃそうだよ!? あんなことしたもん」
だよなぁ……。無理だよなぁ。
「多分、じいさんとママは落ち着いてからお説教だろうけど、ソロとユリリはなぁ……」
「あの感じ、武力行使してきそうな雰囲気ね。どうするの? ミスミオン」
横に並ぶオレもライラ。
右手側にオレ、左手側にライラ。そんな状態でキレイにソロ達も左右に分かれてゆっくりと歩いてきている。
ライラの前にはパシパシと警棒を自身の手に軽く叩きつけて慣らしているユリリ。
オレの前にはメリケンサックをはめて手を握っては開いてを繰り返して慣らしているソロ。
どうやら2人ともオレらとタイマン張るつもりらしい。
「ベイク、オレたちは今から本気であいつらに応える。しばらく時間つぶしててくれ」
「分かったわ、それが2人の筋の通し方って訳ね」
余計な口は挟まない。そんなスタンスでベイクは「頑張んなさい」と一言浴びせた。
「……ミオン」
「ライラ……」
メキメキと顔に血管を浮かべる2人は、声を揃えて言う。
「「あの時の借りは今ここで返す!」」
「はは、ミオンどうしよう? めっちゃ怒ってるよ」
「そうか? オレには楽しんでるように思えるぞ?」
ユリリもどうやらライラに対してさん付けをやめたみたいだし、心の壁が取っ払えたみたいで結果オーライな気がする。
「来いよソロ、雑魚のままイキってる訳じゃないんだろ?」
「当たり前だろ! 師匠に荒行してもらってダンチで強いぞ今の俺は」
オレとソロが向かい合って啖呵を切る中、少し離れたところでライラたちもばちばちと火花を飛ばしている。
「あーし。あんたのことが気に食わないのライラ! おねーさまを独り占めするし! 澪様を奪った佐々木光って女と既視感あるし! とにかく1発ぶん殴る!」
大声でなにか騒いでるが、どうやらユリリはオレたちの転生前のことを知っているらしい。関わりが深かったのだろうか。
「えっと……既視感というか……本人だね。私、佐々木光だよ」
「あーし決めた、100発殴る」
ユリリ、目がガチだ。
「嘘!? 佐々木なの!? ミオン知ってた?」
「この前聞いた。こっちの世界でも会えてよかった」
「まじでよかったな! 帰ったら盛大に祝おうな!」
……。さっきまでの怒りが嘘のように満面の笑みを浮かべるソロ。
「おい、今そんなこと言ってる場合じゃないだろ」
「はっ! そうだそうだ、ごめん! 知らなかったとは言え彼女に言い寄って。マジで悪かった。許してくれ、NTRは趣味じゃないし、佐々木と知った瞬間佐々木としか思えなくなったし俺は新たな恋を探すよ」
ガバッと俺に頭を下げるソロは、何事もなかったように「さ、帰ろうぜ」なんて言う。
遠目からベイクが唖然としている様が伺えた。
「それも違うな、あの時の借りがどうちゃらとかはどうしたんだよ」
「あ、忘れてた。でも幸せそうなミオン見たら全部どうでもよくなった、どうしよ」
「……まったっく。お前ってやつはどんだけお人好しだよ」
戦う様子が全くなくなったオレたちを尻目に、ライラたちはすでに激しくお互いの意地とプライドをぶつけ合うように、砂埃を纏いながらも全力でぶつかり合っていた。
「前から強かったけど随分強くなったねユリリちゃん!」
「そっちは鈍ったんじゃない!? おねーさま独り占め生活は楽しかった!?」
「楽しかったよ、だって彼氏と再会できたもん」
あ、ライラ完全に煽ってるなこれ。
「むきーっ!! 絶対ぶっ飛ばす!」
カクンと自身の重心を下へおろしたユリリは、そのままライラへ突進していく。
「そんなに澪のこと好きだったの? 彼女としてはそこのところ詳しく聞いといたいんだけど!」
「澪様はあーしのすべてなの! おねーさまもこの世界で変わらない優しさをむけてくれたからすべてなの! 高校から知り合ったあんたと違って! あーしは中学から憧れてたの!」
なんだろう、ソロやベイクからむけられる視線が生暖かい。
「なぁ、中学からって言うと俺もしってる人物のはずなんだけど、心当たりある?」
「全くないな」
「だよな。あそこまでの熱狂的澪信者いたら忘れないよな」
中学時代にオレに好意を寄せてくれていた人物? 誰だそれは。
「随分嫌われてるなぁ私……」
「ユリリ・ワイトは今日! 前世で惨敗した白花ユリの分の想いも込めて、恋敵を倒して全部伝える!」
白花ユリ……?
「ミオン、白花ユリって」
「ああ……」
中学は比較的人数が少なかったし、大抵のやつの顔と名前は学年関係なしに覚えている。が。
「そんなやついたか? 俺知らないだけど」
「オレも知らないんだよな。忘れてるだけかもしれないけど」
全く記憶にない。
「想いを全部……か」
ユリリの攻撃に備えていたライラはそう呟くと、ガードを解いて攻撃を体に受けた。
「嘘だろ!? お姉様どうした!!??」
「なにか考えがあってのことだろうな、TSしても分からない女心ってやつじゃないか?」
どさっと地面に倒れ込むライラを見て、ユリリは驚いたような表情を一瞬浮かべたのち、ゆっくりと近づいていく。
「なんであーしの攻撃受けたの! 防げたでしょ? あーしに同情でもしたつもり?」
「ちがうよ」
「じゃあなんで!」
ゆっくりと起き上がるライラの肩を掴み、詰め寄るユリリ。
「想いを全部ぶつけるんでしょ? だったら辛そうな顔してちゃダメだよ。私と戦ってる時ずっとそんな顔してたよ」
優しくユリリの頬に触れるライラは、静かに流れる一滴の涙を指で拭った。
「他の子が、好きな人のこと口説いてたら嫌だけど、ユリリちゃんの気持ちもわかるからさ。その気持ちは尊重すべきだよね。おもいっきり想いをぶつけなよ」
「あーし、あんたのことマジで嫌い! めっちゃ好きなくせに余裕ぶって、大人な対応ですみたいな雰囲気! でも、あんたが1番……あーしの好きな人と相性いいなって思っちゃうあーしがマジでマジに嫌い!」
叫びながら泣くユリリを、抱きしめるライラ。
「隙を見せたらおねーさま寝取るから!」
「見せないよ、隙なんて」
どうやら話はついたみたいだな。
「おねーさまー!!」
ライラの抱擁から抜け出すユリリは、くるっとオレの方を見て大きな声で言う。
「ずっと愛してるー!」
満足したのか、ユリリはスッキリした顔をしている。
「ミスミオン、隅におけないわね。返事してあげないのかしら?」
「茶化すなよベイク。こう言うのは黙って受け止めるのが男ってもんなんだよ」
「くっそミオンばっかモテててずるい!」
「あらミスミオンのお友達、嫉妬かしら? 可愛いじゃない。アタイ結構好きよ? アンタみたいな子」
嘘か真か。ふふっとソロに微笑みかけるベイク。
ソロは「男にモテても嬉しくねーよ!」なんて絶望している。
「男とか女とか古いわよ。好きに性別なんて関係ないじゃない?」
「……確かに」
秒で懐柔されたぞこいつ。
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