41発目 無計画仲間
「この度は本当に申し訳なかった! 食事もしっかりと摂れていない状況にも気づけず、アンタたちに酷なことをしたわ」
豪快に頭を下げる推定2メートルのベイク。
筋肉質で巨体なやつが勢いよく頭を下げると、周囲の空気が揺らいで風がふわっと舞うんだな。
「そ、そんな! 頭をあげてください! マイサン! 辛い中でも生きてこれたのはあなたが真っ直ぐ私たちに向き合ってくれたからです!」
華やかな服を着る多くの人々は、今までの感謝をベイクに告げる。
今までの行いをベイクは悔やんでいるようだが、人々はどうやら違うらしい。
「アンタたち……最高に華やかよ!」
そう言うベイクは、パンパンに膨らんだ布袋を人々の前に置いて背を向ける。
「去るんですか……?」
「ええ、流石に暴れすぎたわね。この場所にもうアタイの居場所はないの。1人彷徨って同じような里で罪を重ねてくるわ」
なんか既視感がある行動予定だな。
「……今までありがとうございました! 華やかさを忘れず、生きていきます!」
ベイクは振り向くことなく、手をひらひらとして別れを告げる。
「おい。カッコつけてるところ悪いけど、無計画に暴れますって事実は変わらないからな」
「ミスミオン、感動の別れに水差すのは感心しないわよ」
「ごめんねベイクさん、ミオンは空気とか読まないから……でも、ほんとうにこの先どうするの? 私たちと一緒でお尋ね者だよ?」
里の出入り口付近に建てられた塀に腰掛けるオレたちに合わせて、ベイクも腰を下ろす。
「問題ないわ……って言えるほど華やかな状況ではないわね。どうしようかしら」
流石に無計画だったと反省したのだろう、悩むように眉間にシワを寄せている。
「なあ、ベイクがあの人らに意味のわからない動きとか華やかさを指導してた理由ってなんだ?」
「藪から棒にどうしたのよ」
「いいから」
オレの突然な質問に疑問をいだいたようだが、意図を聞いても答えなければ無意味とすぐに悟ったように、ベイクはゆっくりと口を開く。
「アタイは日本からここに転生したのよ。騎士団に入ってる以上、大半がそうだと思うけどね」
「ああ、オレたちもそうだ」
「転生前はね、アタイは車椅子生活で四肢が動かなかったのよ。それもあってか臆病で、貧相な身体で、華やかさとは無縁だったわ」
そう続けるベイクの過去の話。
もしかして重い上にパーソナルの話題だったんじゃ?
「悪い、無理に話さなくても」
「気にしない、ここまで聞いたんだから最後まで聞きなさいな」
言うとベイクは、気にせず話し続ける。
「屈強な肉体で、四肢も十分に動く異世界では、アタイは十分に華やかになれた。今の健康体な肉体は人のために活かしたかった。だからどんどん成長して、騎士団にも入れて、アタイはこの里へ駐屯するメンバーに選ばれたわ」
里の風景を目に焼き付けるように、天を仰ぐベイク。
「そこで見た景色は退屈そうな顔で日々を過ごす住民。アタイは憤った。こいつら、十分に動けるくせしてなんで動かないんだ。四肢が動くのになんで嬉しくないんだ、って。勝手な怒りで、事情も知らず勝手なことをしてたわ。本当に愚かね」
「……事情を詳しく知らずに突っ走ったことは褒められたことじゃない。けどベイクは、当たり前だと思って過ごす日々が当たり前とは限らない。だから楽しんで生きてほしい。そう思って行動したんだろ?」
「ええ。よく分かったわね」
「認めたくないが、オレたちどうやら思考が似てるみたいだぜ」
過去を聞いて。オレが同じ境遇だと考えたら、きっと同じようなことをしてたと思う。オレの場合は指導するとかではなく、正面から「健康体なんだから楽しめ!」なんて、過去の自分ができなかったことをしろと説教するだけになりそうだけどな。
「ふふ、そのようね。無計画仲間ね」
「だから、オレらと来いよベイク」
オレは言った。
「人のために活かしたいんだろ? このままじゃ逃亡者生活だし、どっちにしろ今の騎士団に救いはねぇ。人々は苦しめられることが増えていくだろうな」
「どうやら騎士団が腐ってるのは今の団長たちのせいとでも言いたげね」
「ああ、実際クソだ。仲間が殺された」
「それは……」
ベイクは言葉を失ったようにうまく言葉がでてこない。
「団長は、なんでも願いが叶う権利を独占するために、実力を行使している。だからオレ、団長をぶっ飛ばし、オレがトップになる。それで仲間を生き返らせる。当然駐屯してるのをいいことにやりたい放題する雑魚も一掃する」
オレはことの経緯と、転生するまでの話を全て包み隠さず話した。
それがベイクの過去を聞いたことに対する筋の通し方だと思った。
「壮絶な過去に、大きな野望。嫌いじゃないわ」
ニヒルな笑みを浮かべると、おろしていた腰を持ち上げてオレとライラの前に立つ。
「それに、アタイの恵まれた体躯を活かせそうないい機会」
「だろ?」
「ええ、その話。アタイも1枚噛ませてもらうわ」
スッとオレに手を伸ばすベイクは、「でも……」と続ける。
「アタイが手を貸すんだから、絶対立派なトップになりなさい。ちょっとでも道を踏み外すようならアタイは殺す気で元の道を走らせてあげるから」
「ああ、実に頼もしいな」
「3人なら怖いものなしだね! どんどん旅に目的ができてきたね」
ベイクの仲間入りに歓喜するライラ。
だがオレは、一抹の懸念点がある。
それは、里に対する駐屯者の配置についてだ。
オレたちが暴れ回ってカスな団員を相当するのは実に容易い。だが、そこから新しい人員を配置するのには時間がかかる。
新しい団員が来るまでに危険がある可能性もあるし、不安しかない。
現状はオレたちが暴れた後、手がかりを残してじいさんに知らせて、その後じいさんに対応してもらう。
それでは時間がかかりすぎる。
オレやライラが直接騎士団とやりとりできればいいのだが、そうも行かないからなぁ。
苦渋の決断だが規模が大きくなってきたし、全てを話すしかないか……?
「どうしたのミオン? なにか悩み事?」
「ああ、ソロたちに事情を説明する必要があるかもしれないと思ってな」
「そっか……話の規模が大きくなってるし、里に新しい人を配置する時間を短縮する目的で、だよね」
ライラも同じことを考えていたみたいで、たった一言で言いたいことを把握してくれた。
「よし、行くか2人とも」
「どこ行くのよミスミオン」
「仲間のところだ。きっとこの里に向かってるし、この里で戦闘がまずいからな」
「そうね、できればここで物騒な仲間内でのやりとりはやめてほしいものね」
どの口が言うんだか。
オレはライラとベイクを引き連れて、里を後にした。
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