21発目 稼げばいっか
大きく一歩踏みだして、ミオンの前に立ち塞がる。
どうしよう、団員のプレッシャーに負けそうだ。
だが、このままミオンやお姉様、地雷女に酷な思いをさせるのは違うだろ。
「ソロくん、危ないよ!」
「コブタちゃん、無理して戦わなくていいって危ないから」
……泣きたい。
男なのに、美少女たちにこんなに気を遣われることある!?
「ソロ、手を出すな。どうせ負ける」
「はい……」
ごもっともだが、だが……!
事実は凶器だぞ。
「ライラ、この団員と会話したことは?」
「挨拶だけならあるよ」
お姉様が言うと、ミオンは頭を抱えて言った。
「だったらオレのほうが面識あるな。下がってろライラ」
「いやいや、ここは隊長の私の役目じゃない!?」
2人の表情は真剣味が溢れ、決意の固さが感じ取れる。
どうやらミオンは、自身の手で仲間を殺すことを決めている。
団員への敬意と、汚れ役を他のみんなにやらせない気だ。
「お姉様! ここは漢の決意を尊重しませんか!?」
「……でも……うん、わかった!」
構えている剣を収めるお姉様は、ミオンに声をかける。
「辛くなったら胸貸してあげるからね」
「必要ねぇよ。でも、気遣いだけはありがとな」
お姉様に羨ましいことを言われているにも関わらずクールに応えるミオンは、自我をなくして真っ向から迫る団員の肩を蹴り込み、距離を保つ。
「無駄に傷つけたくないんだが……」
ああ見えてもミオンも人の子。すでに死んでいるとはいえど、仲間を手にかけるのは戸惑いがあるようだ。
俺やお姉様に苦しみを与えないように自分が名乗りをあげたようだが、辛いことは辛いだろ。
「……つ!」
「ミオン! 無理しないで!」
瞳を閉じ、息を大きくふくミオン。
呼吸に応じてこのあたりの大気が揺れている。この感覚、きっとミオンはあれを使う気だ。
「おいミオン! 禁忌魔法は不用意に使っちゃダメなんだろ?」
「一気に終わらせるにはこれしかない」
おいおい、危険視されてる魔法の管理ガバガバか?
「ミオン、始末書は私が書いてあげるよ」
「助かる」
お姉様甘すぎるよ……。
「天界神ヴァルキリス、8割じゃたりないぞ」
「おねーさま無茶だけはダメだかんね!」
小さく呟くミオンを心配してか、地雷女は大きく声をかける。
ミオンの耳にその声が届いたかは定かではないが、きっと届いているだろう。ミオンの目には決意が宿っている。
目の前で苦しむ団員のために真剣だ。
「辛かったよな、今すぐ楽にしてやるからな」
ミオンの右足には、神々しいオーラが集まり、周囲が明るく照らされる。
これがミオンの本気か……?
俺とタイマンした時とは圧が違う。
勝てねえな、こいつには。
「ごめんな……」
ミオンの頬から垂れ落ちる大粒の涙が地面にたどり着く時、鎧はガシャりと音をたて、鋭い蹴りが団員の首へと直撃する。
そのまま振り切るミオンの足は、どういう原理か、団員の首を綺麗に切り落とした。
血をこぼしながらゆっくりと地面へと近づいていく団員の頭部が着地する前に、これ以上団員が苦しまないようミオンが優しく受け止める。
「もっと早くここにこれてたら……なんてたらればで言い訳はしない。今ここで尽きた君の命の分まで俺たちは騎士団としてこの国の平和を守っていくよ」
もう脈がないはずの団員の瞳から、一筋。涙が伝う。
顔にこべりつく血とともにゆっくりと拭うミオンは、装備を外した手でそっと団員の瞳を閉じさせた。
「ライラ、布」
「用意してるよ、私がするよ」
「頼んだ」
団員の頭部を優しく引き取るお姉様は、丁寧に布で覆うと、手を合わせながら涙を流した。
ただ静かに冥福を祈るお姉様に並び、ミオンも地雷女も手を合わせている。
仲間の死、しかも最終は自らが手をかけた相手への罪悪感からか、ミオンは2人より長く手を合わせている。
「……ネクロマンサー。あいつだけは、絶対にこの手でケジメを付けさせる。異論は?」
「ないですおねーさま!」
「ミオンがそう決めたなら俺は応援するぜ!」
カンッ! と剣を突き立てて鳴らすミオンは、決意を表明する。
「慎重に動いてほしいし、団長たちへも報告、相談して判断を仰ぐべきだけど、異論は認めないんでしょ?」
「バレた?」
「私とミオンの仲だよ? お見通し!」
2人はお互いの顔を見合わせて至近距離で会話している。
「「…………」」
「私もミオンと一緒でネクロマンサーには怒ってる。協力するよ!」
「ライラならそう言ってくれると思ったよ」
2人の信頼関係が織りなす、蜜月な雰囲気。
呆気に取られていると、お姉様から廃墟からの撤退命令が下されていた。
「コブタちゃん」
「言いたいことはすごくわかる。あの雰囲気しんどいな」
「でしょ? あーし1人でずっとこの苦しみ味わってたけど犠牲者増えてよかったわ」
肩を寄せ合う距離で歩くミオンとおねーさまの背中を見ながら俺と地雷女は、今晩酔いつぶれることが確定した。
***
「ソロ、お前はユリリと一緒にじいさんのとこ戻っててくれ」
「おっけ、ミオンとお姉様は?」
廃墟を背に話すミオン。
「私はこの後、拠点にもどって報告書を書くよ」
「オレはこの辺りを念の為に再調査、それから野暮用だ」
ミオンはこの廃墟周辺にネクロマンサーの痕跡があると睨んでいるのだろう。友として手伝いたい。
だが騎士団という組織内では上司に当たるミオンの指示に従うのはいかがなものだろうか。今回は大人しく従おう。
「そうか、ほどほどにな」
「ああ。2人とも今日はもう休んでくれ、付き合ってくれてありがとな」
ミオンは俺と地雷女を見送った。心なしか疲弊しているように思えたが、無茶はしないだろうなあいつ。
「コブタちゃん」
「なんだよ」
「おねーさま、相当ショックだったみたい。励ませないかな」
やることの残っているミオンやお姉様と違い、帰路に着く俺と地雷女は、ゆっくりと進んでいる。
俺が運ぶ荷車に乗って楽している地雷女は、心配そうに空を仰ぐ。
「お前的には不本意だろうけど、今は見守るしかないんじゃないか?」
「なんでよ」
明らかに不服そう。
「男ってのはさ、極限まで弱みを隠したい生き物なんだよ。限界が来て、壊れそうになったらあいつの方から助けを求めてくるだろ。そん時励ませばいい」
「……そういうもん?」
「そういうもんだ。ミオンは特にな」
こうは言ったものの、きっとお姉様がミオンを心配して甘やかすんだろうな。だからきっと大丈夫。
俺もお姉様に甘やかされてぇ……。
「なんで泣いてるのコブタちゃん……」
ミオンは綺麗で優しいお姉様と一緒にいれるっていうのに、俺は……なんて考えてたらじわりと涙が浮かんできた。
「ミオンはお姉様とイチャイチャできるのに、俺の近くにいるのは地雷女なんてなぁなんて考えてたらつい」
「死にたいの?」
背後の荷車から漏れ出た殺気を警戒し振り向いたところ、張り付いた笑顔の地雷女が手の平に息を吹きかけあっためていた。
「……すんません」
ヒリヒリと痛む左頬を撫でながら、俺は軽率な発言をした自身の口を呪った。
「奢りで飲みね」
「はい……」
ミオンからもらった給料の前払い分……今日1日で消えるなこれ。
ま、稼げばいっか。
「あーし今日はいっぱい飲んで愚痴りたいから、コンビニで買い込んでおじいちゃんのところで飲もう」
「異世界でコンビニとかの現代社会に馴染む単語聞きたくなかったわぁ……」
俺たちが生活する国に溶け込む現代社会の文化。
せっかくの異世界転生なのに、いまいちそれっぽさがないんだよなぁ。
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