20発目 エンカウント
「確かに、ミオンたちと同じ鎧だな。面識あるのか?」
ぐったりとする団員の亡骸のすぐそばで手をあわせるミオンとお姉様。その少し後ろで地雷女も手を合わせている。
「がっつり面識あるってほどでもないけど、顔と名前くらいは知ってる。拠点ですれ違った時は挨拶してくれてたし、天気の話くらいはしてた」
「そっか……ま、まぁあれだ。状況はわかんねぇけど、この人を連れて帰ってやろうぜ。俺が責任持って運ぶし」
仲間の死。
騎士なんてのをやっていれば、何度も目の当たりにする光景だなんて、言っているミオンだが、その顔には明らかに怒りが浮かんでいる。
謎の死因だし、亡骸がなぜこの場所に無造作に置かれているのかも不明。
ただ言えるのは、誰かが悪意を持ってこの団員を痛めつけて殺したということだ。
酷く凹む鎧からは何度も攻撃をうけたことがうかがえるし、ところどころ破損し、肌が露出している箇所からは流血も確認できる。
「とりあえずこんなとこ早くおさらばしようぜ? この人も長くここにいたくないだろうしさ」
「……ああ、そうだな」
意外だ。団員を殺した原因を突き止める、ミオンならそう言ってもおかしくないと思っていた。
なんならそう言うだろうと思っていた。
「ご冥福をお祈りします、すぐ連れ出す。辛かったよな」
ミオンは自分の怒りより、団員を早く弔ってやりたい気持ちの方が強いんだろう。
そんなミオンの気持ちを汲んで、俺は団員をこの廃墟から運び出そうと近付き、肩へ手をかけようとした時――
「――ソロくん! 離れて!」
お姉様が、俺に向けて危機を知らせる。
「え、どうしたんです――っ!?」
危機はすぐにわかった。
「…………ぁあ」
俺が運ぼうとしていた団員が今、俺に殺意を向けている。
死んで亡骸となっていたこの団員がだ。
朧げな表情にもちろん精気はなく、光の宿らない瞳は薄紫に染まっている。
「なんだかヤバイ状況!?」
「コブタちゃん退避! 今すぐあーしの後ろに!」
咄嗟に声を上げた地雷女から、ことの重大さを知る。
この女が俺を揶揄う余裕すらなく、ただ庇うなんて。
「ミオン、どうする?」
立っているだけだが元は亡骸、ふらふらと足元がおぼつかない様子の団員を見てお姉様は、ミオンに行動指針の提示を求める。
「……ざけんなよ」
小さくそうこぼしたミオンは、怒りを抑えようと拳を強く握っているが、ポタポタと垂れる血が、我慢の限界を物語っている。
「死者の蘇生、それは禁忌の中でも最もタブーだろ……」
「おいおい、死者蘇生っていうかあれはゾンビみたいじゃないか? 本当に蘇生できてるか?」
目の前で息を吹き返したのは事実だが、死者蘇生ってのは完全に蘇ることを指すんじゃないのか? 漫画ではそうだった。
「コブタちゃん、この世界で死者蘇生の魔法は止まった命を強引に動かし、術者の操り人形にすることを指すの」
「なにその道徳フル無視魔法」
あ。
「そう、だから禁忌の中でも最もタブーなんだよソロくん」
「散々痛めつけられ、挙句に死者蘇生。どこのネクロマンサーかは知らないが、舐めるのも大概にしろよ」
ネクロマンサー、それは知ってるな。死者や霊に関することをする人物の総称だっけか?
「ライラ、今現在確認されているネクロマンサーはいない認識だが、間違いないか?」
「うん、間違いないよ。最近問題を起こしたネクロマンサー集団は全員捕えたし」
物騒な集団もいるんだなぁ。
「なぁミオン、死者蘇生を無効化する方法とかはないのか?」
「ある」
よかった。あるなら早く無効化してやらないと。
「頭を潰すか首をへし折る、あるいは斬り落とす。なんしか、魔法が作用している脳を対処するしかない」
「嘘だろ……それじゃあまるでこの団員さんは2回死ぬみたいじゃん」
「2回死ぬんだよ、最大限の命への冒涜魔法だこんなもん」
ミオンはまっすぐと団員を見据える。
「ははは、君たちは仲間を殺せるのかなあ」
……!?
突如、何もない空間から現れた人物。
「ネクロマンサー、って解釈でいいんだよな?」
その人物を警戒するようにミオンとお姉様は剣を構えて、地雷女も俺を庇うように警棒を構える。
「いかにも。ボクは稀代の天才ネクロマンサーさ」
「目的はなんだネクロマンサー」
深くフードをかぶっているせいで顔は見えないが、不敵に笑っていることは分かる。
「ボクの目的はこの世界を手中に収めること。ただそれを果たすには君たちが邪魔でね」
「なるほど、私たちを誘き出したってことね」
お姉様がいつでもネクロマンサーに斬りかかれる体勢の中、ミオンは明らかに何かのリミッターが外れている。
「世界を手中に収めるのに、百歩譲って平和を守るために動くオレたち騎士団が邪魔なのはよく分かる」
ミオンの手から滴り落ちる血は、怒りの深度を表すかの如く、地面へ広がっていく。
「だが、建物を用意した理由も、団員をなぶり殺した挙句、禁忌魔法を使う意味はあったのか? 見たところお前、肉弾戦もできるタイプだろ? 正面から来いよ」
「変なこと言うね。建物は君たちを誘き寄せる罠、なぶり殺して蘇らせたのは君たちの怒りに狂う表情が見たかったからだよ。ちょっと考えればわかるでしょ?」
挑発するような言動。
ネクロマンサーは横でふらふらとする団員の肩に手を回し、フランクに接している。自らが手を下し、尊厳を踏み躙るような魔法で蘇らせ、あの態度。
ミオンが嫌いなタイプだ。
「オレ、お前嫌いだな」
「はは! ボクも君きらーい」
数秒の沈黙が流れる。
そして、廃墟の床から砂埃が舞うくらいの脚力でミオンはネクロマンサーに殴りかかる。
「……クソが!」
「ひどいね君。仲間を容赦なく殴るんだからさ」
ミオンの重い拳は、足元のおぼつかない団員の頬にめり込む。
ネクロマンサーは、ミオンの攻撃を予測し、団員を盾にした。
「お前! 命を踏み躙るのも大概にしろよ!」
「仕方ないよ、目的のためなんだから」
手を離すミオンは、一度体勢を立て直すようにバックステップで距離をとる。
「ボクは忙しいから帰るよ」
ポン。と団員の背中を押して一歩手前へ押し出したネクロマンサーは、こう言い残す。
「ここにいる全員を始末しろ」
そしてネクロマンサーは姿を消した。理屈はわからないが、どうせ魔法だな。
「……どこまで! どこまで命を弄べば気が済むんだあいつはぁ!」
「ミオン、冷静に!」
怒りにまかせるように、ミオンは手に持つ剣を床に突き刺す。
「おいミオン、廃墟なんだから崩れるぞ!?」
ぐらりとかすかに揺れる廃墟にビビりながらも、俺は団員の方を注視する。
ネクロマンサーは団員に俺たちの始末を命じていた。
と言うことは、今からきっと団員は俺たちに襲いかかるだろう。
「ミオン、どうする?」
「どうするも何も、やるしかないだろ」
思った通り、団員はミオンたちめがけて攻撃を仕掛ける。
恐らく自身の身体能力許容の上限を超えた動きをしている。
全身から悲鳴を上げながら、ミオンたちに猛攻する。
「……っ!」
「おねーさま!」
鍔迫り合いで押し負け飛ばされるミオンを、地雷女がフォロー。
「ミオン……!」
戦力としては、明らかにミオンとお姉様が上回っている。
だが、戦況は団員が圧倒的に有利だ。
きっとミオンもお姉様も、仲間相手に本気を出せていない。
ここは……。
「ミオン! お前が仲間をやれないってのなら俺がやる!」
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