2発目 お前らオークは女の敵! 必ず討伐する!
「な、なぁ……この巨体が街に入っても大丈夫なのか?」
「もっとでかいやつもたまにいるから気にすんな」
なんだ? 化け物の巣窟か?
「もう考えんのやめた! 可愛い子とえっちしたぁい」
「自重しろブタ。今は準備段階みたいなもんだ、あまりハメを外すな。お前はいつも自重出来なくてやらかすんだから」
「……うす」
街にオークが訪れるなんて、刑務所に強盗犯が乗り込むレベルでやばい気がするけど。
可愛い子とお近付きになれるならなんでもいいや。期待してるぞ澪。
「俺、討伐されたりしないよな?」
「振る舞い次第じゃないか?」
「怖いこというなよ」
この巨大ならどう振る舞っても目立つし敵意があると思われかねない。匍匐前進で行くか? いや、余計怪しいな。
もういい、潔く堂々としとこう。危なくなったら騎士団のこいつが助けてくれるだろ。
「まじでいざって時は澪が助けてくれるよな?」
「まぁ時と場合によるな。それに今は澪じゃなくてミオン。ミオン・シドーだ」
街に向かう最中、立ち止まってそう言う澪――じゃなくてミオン。おそらく異世界に適した名前に改名したんだとは思うんだが、いくらなんでもそのまんま過ぎないか?
「獅童澪でミオン・シドーって。他にもっとあっただろ」
「そうだな、ボッチオークのソロくん」
「おいやめろ! それはあいつらが勝手につけた蔑称だぞ。いじめはダメなんだからな?」
いつも1人で、女騎士を凌辱する同族たちをみていることから馬鹿にされてつけられたあだ名。
「日本の名前では違和感あるからな、どうすんだよ偽名」
「めんどうだからソロでいいや」
「蔑称じゃないのかよ」
蔑称でも構わない。孤高の男みたいで若干かっこいいし。
「てかまだ着かないのか? ミオンが拠点にしてる街は」
「そろそろ見えてくる。ほら、あれだ」
そう指差すと、なにやら建物がチラホラと見え始める。
久しぶりに建造物を目にした。転生してからずっと荒野で縮こまっていた俺は、思わず叫びたくなるほど嬉しくなった。
「いいなぁ……住める建物があるって……」
人としての尊厳をようやく取り戻せる気がした。
思い返すだけで、荒野でのクソオークとの共同生活は地獄だった――
***
悪い、澪。俺はどうやら衝撃緩和のクッションの役割すら出来ねぇ役立たずらしい。
落下していく俺と澪。無傷とはいかななくとも、俺の脂肪で澪への衝撃を和らげれば思っていたのだが、風の抵抗や体積の違いで俺と澪の体は少しずつ離れていく。
「唯我、ビビってんのか?」
絶体絶命。
誰もがパニックになる状況でこの男は、涙を浮かべる俺をみてケタケタと笑っている。
「そりゃビビるだろうが! 今から死ぬんだぞ!?」
「昔からお前は夢がないんだよ、こんなん転生のチャンスだろ。やったね」
心臓に毛でも生えてるんじゃないだろうかあいつは。
自由落下しているとはいえ、あくびするのは自由すぎるだろ。今からこの世を去るんだぞ? 最後がそんなマヌケヅラでいいってのかお前は。
「悠長なこと言ってる間にもう地面とこんにちはですがぁ!?」
「初めましてニューワールドな瞬間がもうすぐだな」
やばいちびりそう。こんな速度で落下することもそうだし、硬いコンクリにぶつかるってことを考えたらマジで怖い。
それに、こんなことにあいつを巻き込んじまったことに対しての罪悪感で潰れちまいそうだ。
「なに言ってんだよ、俺らもう会えなくなるってのに楽観的すぎるだろ!」
「安心しろって、どこに転生されても見つけ出してやるから。お前の愚痴に耐えれるのなんて俺くらいだろ。今はとりあえずオレを信じとけ」
このバカは死ぬって選択肢がまるでないみたいに笑顔を浮かべている。
死ぬ間際、目に焼き付ける顔が笑顔ってだけでも感謝すべきなんだろうな。
あいつは俺の失態に巻き込まれただけ。それなのに最後に見る顔が俺の情けない顔なんて可哀想すぎるだろ。せめて笑顔だけでも見せとかないとな、本当は彼女の顔がいいだろうけど。
「ガチで信じるからな! 絶対見つけろよ!? 見知らぬ土地に1人とか俺は無理だ!」
「分かってるって」
これが最後の談笑になるかもしれない。だが、そんな幕引きもエモいかもな。
なんだか視界がぼやけてきた……そろそろか。
「唯我、またな」
「ああ。またな――」
――肉が焦げ付く匂いが鼻腔を貫く。
「は……?」
なにか獣のような咆哮と、女の悲痛に嘆く声が聞こえる。
状況は的確には理解できないが、俺はまだ生きている。それに、獣の叫びと女の悲鳴が同時に聞こえるなんて恐らくこの世界は日本じゃない。
まじで……? マジで!?
周りを見渡せば、強そうな鎧と険しい表情でで武装したキレイなお姉さんがボコボコにされていた。
周りには、すでに武装をはがされ桁違いのマラをぶち込まれ白目をむいてるお姉さんもいた。
「おいおい、俺やべぇとこに転生しちまったんじゃねぇの……」
命を弄ぶように女を道具として扱うあの獣は、恐らくオークという奴だろう。
醜く、性欲で動き、暴力しか取り柄がない、ファンタジー世界でのモンスターだ。
以前オークについては澪から聞いている。
なんでも、俺のふくよかボディーがオークに似ているらしい。心外すぎるだろ。
いや今はそんなことを思い出してほのぼのしている場合じゃない。目の前で襲われているお姉さんを助けなければ。
いつもより視界が高いし、筋肉もついている感じがする。これはきっと澪がよく言っていた転生特典というやつだろう。
ファンタジーには疎いが、これだけは分かる。俺が主人公だ!
「随分にぎやかだな」
武器はない、素手だ。だが今の俺ならなんとかなる気がする。
「おぉう新入り、随分お寝坊さんじゃねぇか。討伐しに来たペットどもはほとんど潰したぞ」
へ?
「まだ仲間がいた……だと!? だが我らは決して屈しない!」
ほへぇ?
「お前らオークは女の敵! 必ず討伐する!」
「あひん!?」
目の前のオークに顔をつかまれながらも俺に刃こぼれした剣を投擲してくる。
「笑わせやがるぜ! 人間風情がオークに敵うわけがない」
「グアァ――ッ!」
オークの笑い声とともに頭をつかむ手の力が強くなり、お姉さんの頭蓋骨はいとも容易く砕けてしまう。
「お前もあまり笑わせるようなみじめな態度は取るなよ? あまりにも酷いと同族だろうが容赦しないからな」
「しゅ、しゅみましぇん……」
待て待て待て。俺が同族? 女の敵? どういうことだよ。
俺は頭をフル回転させる。が、どう考えても俺がオークに転生してるという最悪の結果しか導き出せない。
「ま、まじでオークじゃね?」
すでに息絶えたお姉さんたちを供養しようと近づくと、血だまりに今の俺と思わしき醜いオークが映し出されている。
信じきりたくない一心で、変顔してみたりピースしてみたり。
色々してみればしてみるほど、自分をオークと認めざるを得なかった。
「おい新入り! なにぼさっとしてんだ! その肉片処理しとけ。人間の肉はまずいからな。そこら辺に撒いて魔獣の餌にしとけ」
「え、えぇ……」
「なんだ? 文句でもあんのか?」
「いえ! すぐやります!!」
おっかねえ! 早く来てくれ澪!!
「ったく。最初から素直にそうしとけ」
「はいぃすみません……」
くっそぉ! 俺にちゃんとした転生特典があればあんな醜いオークなんてけちょんけちょんなのに!
「お姉さんたち、ごめん……俺は無力だ」
すでに息のないお姉さんに、俺は謝罪の言葉を投げかける。返事が来ないことは分かっているが、どうしても切なくなってしまうな。
服を剥がれたお姉さんに、ボロボロの布切れをかぶせてそっとオークの群れから離れたところに置くことしかできない。
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