39発目 答え合わせみたいな瞬間

 ***


   

 視界がまどろんでいる。

 うたた寝から覚めたのか?


 リュカと絶対に果たさないといけない約束をし、闘志がみなぎっても眠いものは眠い。こんな時、あいつなら「大人しく寝ときな?」なんて言ってくれんだろな。


 元気にしてんのかな。


「光、会いたいな……」

「なぁに? 澪はさびしんぼかな?」


 鼓膜に響くライラの声。

 机に突っ伏しているオレは、思わず顔をあげる。


「起きてたのか、というか今……名前……」

「おはよ。澪がぼそっと呟くくらい会いたかったなんて。私愛されてるなぁ」


 ぐーっと伸びをするライラは、着ている薄い部屋着がめくれて腹部をチラリと露出する。

 口ぶりからは、転生前の名前が佐々木光だと主張している。


「なん、で……異世界に?」


 薄々気づいていた。

 微かに光の面影は感じてたし、禁忌魔法を使った時に見る夢は悪夢ではなく、事実の可能性もあった。


「実はね、澪が死んじゃってから寂しくなって後を追っちゃったんだ」

「なにしてんだよ! 自分の命は大事にしろ、残された人間がどんな気持ちで」


 言いかけて思い出した。

 オレも残してきた人間だってことを。


「……ごめん。先に死んじまって」

「いいよ、また会えたし」


 姿は違っても、目の前に光がいる。

 そう思うと感情が溢れてきて、オレはライラを強くしっかりと抱きしめる。もう二度と離れないように。


「いつオレって気づいた?」

「1番最初、初めてミオンにあってからなんとなくそうかなとは思ってたよ。確信に変わったのはソロくんの生前が大原くんってことが分かってからだけどね」

「なるほどなぁ……知らず知らず同棲までしてたのはオレの可能性があったからか」

「そ! 言動がほぼ澪だったし、こっちでの名前安直すぎるし」


 はははと楽しそうに笑うライラは、一向にオレの体から離れようとしない。かくいうオレも離すつもりはないが。


「騎士団に誘ったのも?」

「うん、澪はもう手放したくなかったし私のそばに置いてたかったしさ」

「……転生してから束縛癖でも患った?」

「もとから嫉妬とか独占欲はあったよ?」


 何食わぬ顔で言ってくる。


「我慢させてたんだな、悪い」

「ううん、好きだから。そんな時間も悪くなかったよ」


 恥ずかしいことをさらっと言えるんだよな昔から。


「でももう我慢できないかもなぁ」

「なんでだよ」

「離れるのってつらいじゃん?」


 ジリジリとオレを締め付けるライラの腕力はどんどん強くなっている。


「確かに……すごく辛かった。禁忌魔法を使った時に見る、光が自殺する光景。あれはすごくきつかった。元いた世界にいるはずの彼女が死んで二度と会えなくなったんだって実感が絶望をつれてきてた。異世界に来た時点で二度と会えないとは思ってたんだけどな」

「本当に辛そうで言ってあげたかったんだよ? 彼女が自殺する夢を見たって最初に言われた時からずっと。私はここにいるよーって」


 ずっと立ったまま抱きしめられる状況も悪くはないが、そろそろ足が疲れてきたオレは、そのままライラをひょいっと抱えてベッドへ移動する。


「なんで言ってくれなかったんだよ」


 移動して、そのまま2人で溺れるようにベッドに吸い込まれていく。


「この相棒関係も悪くないかなぁって。そもそも澪が過剰に私のこと守ってくれそうで一緒に戦えなさそうだし」

「……それは、うん。否定はできないかも。けどまぁ、オレより強いってのを知ってるからなぁ。守って欲しいなら守るわ、今はそう断言できる」

「結局守ってくれるんじゃん! でも、今はしばらく、肩を並べて戦ってさ。困った時は助け合ってさ。愛を育んでいきたい……よね?」


 オレの腕に頭をのせて、ぎゅーっと顔を胸元に寄せてくるライラは、上目遣いでそう呟いた。


 愛を育みたいって……おいおい、そういう流れか?

 枕になってる手とは反対の、オレの左手で自身の腹部や足に触れさせるライラの行動で全てを察した。


   

 ***


   

 一夜を越えた。

 日本に残してきたと思っていた彼女が頼れるパートナーだとしれた今、いつでも彼女とまったりできる安心感と、この幸せを守り抜く覚悟でオレは今までより強くなったと確信した。


 半端な鍛錬より、磨きかかった精神が人を1番強くする。オレはそう考える。


「ふわぁ、おはよーミオン」

「おはよライラ、ちょうど朝飯できたぞ。簡単なものだけど」

「ありがと! ミオンのつくるご飯好きなんだー」

「そう言われたら晩飯は気合い入れて作らねぇとな」


 オレたちは、日本での名前ではなく、今を生きるこの世界での名前で呼び合おうと約束した。


 日本の心を捨てるわけじゃないが、今過ごしている環境を大事にしたいという2人の想いだ。


「コーヒーの香りっていつ嗅いでもいい匂いだけど、朝って感じでいいよね! 優雅な1日が始まるって思えるし」

「だな、実際はじまるのはクズを狩る殺伐とした1日だけどな」


 ベーコンエッグトーストを食べるまえにミオンは、朝の雰囲気を楽しむためにコーヒーを口に含んで笑みを浮かべる。


「今はそんなことは忘れて朝ごはんだよ」

「ま、切り替えは大事だもんな」

「そうそう、殺伐は美味しいご飯の後に考えよう!」


 もぐもぐと半熟の目玉焼きを上手にベーコンと食パンに絡めてはふはふ頬張るライラの姿に癒されながら食べる朝食はいつもより美味しい気がした。


「よし、食い終わったし動き始めるか」

「だね、テント収納しとくね」

「よろしく、オレは里探すわ」


 ライラがテントを魔法で収納してくれてる間に、オレはコアサーチを使って周辺の里を探索する。


「お、ちょっと歩いたところにあるな」

「ほんと? ラッキーじゃん!」

「だな、駐屯してる団員がいなければ住民も幸せでラッキー尽くしだな」


 どんな里か、分からないが警戒しておくに越したことはないな。

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