36発目 駐屯の実態
〈ダートルサイド〉
「では、皆は祭りを楽しんでくると良い。ワシはミオンたんからの手紙を読むとするわい」
「はーい!」
ワシは、祭りにウキウキで向かうソロたちの背中を見送り、次第にミオンたんからの手紙に視線を送る。
その手紙が入った封筒の表には、『じいさんへ』と殴り書きで書かれている。
実にミオンたんらしいのう、なんて思いつつ、嫌な予感も同時に察知してしまった。
「さて、腹を括るかのお……」
雑に閉じられた封筒を指で開け、2つ折りされた中の手紙を取り出して、ぱさりと広げる。
『腐り切った騎士団を綺麗にする、手伝ってくれ』
ほとんどが白紙の紙の中央には、それだけが殴り書きで記されている。
……あの子は何を言っとるんじゃろうか。
協力するのはやぶさかではないが……。
「詳細を知らん限り手伝いようがないんじゃミオンたん……」
じゃが、かわいい弟子の頼みじゃ。師として、期待に応えないわけにはいかんじゃろうよ。
〈ミオンサイド〉
「さ、拠点は完全に壊したし行くか」
「そうだね。団員も全員ある程度痛めつけれただろうし」
オレたちはこの日、騎士団の拠点を破壊し。
「待てよ2人とも! 状況を説明してくれよ!」
「……」
仲間を蹂躙した――
「――ミオン、ちょっとやりすぎたかな?」
「別に、あれくらいでくたばるほど雑魚くないだろ」
倒壊する拠点から、特に決めたわけではないが南西へと歩みを進めていた。
「でも心配だよ……嫌われてないかな? 恨まれるのやだよ私!」
「バカ、恨まれるためにやったんだろ。我慢しろ、恨んでないのはオレ1人いれば十分だろ」
しょんぼりとした姿を見せるライラ。
オレの行動に巻き込んでしまって少し罪悪感がある。
「それもそっか! しばらくはミオンのことを独り占めできるんだもんね、うんうん! 悪くない!」
「能天気か、オレたちは騎士団のトップとやり合わないといけないんだからな? 腹括っとけよ」
「バカだなぁ、肩の力は抜ける時に抜いとかないとだよ?」
にへっと笑ってライラは、歩きながらオレの肩を揉んでいる。
「軽装だからもみやすーい」なんて言って、お揃いできているパーカーのフードをパタパタと動かしている。
「やめろ、つかなんでお揃いなんだよ」
「だってもう騎士団の鎧には袖通せないじゃん?」
それはそう。
騎士団に反旗を翻したオレたちにあの鎧に袖を通す資格はない。まぁ魔法で剣は異空間に格納してるんだけどな。
「だからってお揃いじゃなくてもいいだろ」
「よくないよ、だって私たちは恋人役だよ?」
「……はぁ。もう好きにしてくれ」
オレたちは、身元を隠して旅する中で、1番馴染む設定を考えた。
姉妹、友人、母娘、姉弟関係。色々と。
だがなぜか、同性のはずなのに恋人役がしっくりときた。オレが元男だからか?
「わーい! 新婚旅行楽しいねダーリン?」
「ソウダネハニー……」
感情を殺そう、そうしよう。
抱いていたライラへの罪悪感は、楽しそうにする本人をみて吹き飛んだ。
「でもさぁ、この旅。ほぼ思いつきじゃん? この先どうするの? 聞かされた作戦はただ騎士団の敵になって暴れて各地を転々とするってだけだよ?」
……。
「当初私も賛成だったけど、これ冷静に考えたら悪手じゃない?」
「そうか?」
ライラはどうやらオレの完璧な作戦に意義があるらしい。
「だって私達が狙われてたのは多分騎士団のなかで1番団長たちに近いからだよね?」
「ああ、おそらくな」
騎士団のトップはどんな望みも叶えれると聞く。だからいつトップの座を狙いに来るか分からないライラとオレをのさばらしておくのは避けたいんだろうな。
「うんうん、だよね。でも知ってる? 今私たち遠い存在になってるよ!? 敵だよ!?」
ぐわっと意見を主張するライラは続けて言う。
「敵だから狙われるだろうけど! きっと団長たちにとかじゃなくて、巻き込みたくなかった団員たちに!」
「まじじゃん……盲点だった。もう狙う意味なくなってるじゃん」
団長たちに狙われるために大悪行をしていこうと叛逆したが、トップになる可能性がなくなったのと同義だ。つまりただの犯罪者だ。
であれば団長が出張ってくることは無くなったわけだ。
「もしかして無意味じゃね?」
「無意味だよ!? ただのマヌケな前科者じゃん私たち! どーしよー!?」
「ま、嘆いてても仕方ないだろ? 悠々自適に逃亡者生活楽しもうぜ」
「呑気!」
フラフラと脱力したように歩くライラを引きずりながら歩くこと数分、俺の視界に小さな集落が広がっているのを確認する。
里か?
確かうちの騎士団から何箇所かには駐屯してる団員がいたはずだな。
もしかしたら顔バレてるか?
里に駐屯する騎士。
シズクがいた里にもそんな存在がいれば……いや、考えるだけ無駄だな。
「ライラ、あそこの里って駐屯所あったか?」
「あったと思うよ? 物資の管理とかも駐屯先の団員が管理してたはず!」
念の為、俺たちはパーカーのフードで顔を隠して里へ足を踏み入れる。
小さな里だが、往路もしっかりと整備されていて人の行き来も活発だ。
「賑わってるねぇ」
「だな……」
特に目的もない旅だから、今は里を観光するのが俺たちの目的になっている。
ライラは賑わっていると表現するが、オレは少し引っかかる。
目につく住民は、全員が全員頬が欠け、目には濃いクマをあしらっている。
それに服もボロボロだし、靴すら履いていない。
「ねぇミオン、なんであの人たち靴履いてないんだろ。それにみんな重そうな荷物運んでる。手伝ってくる――」
「待て待て待て、不用意に首を突っ込むな。厄介ごとな気がする」
ライラもどうやら異変に気づいたようだ。
どうやら住民はどこかに荷物を運んでいる人が多いな。
中には、物を売っている人間もいるようだが、どちらにせよ身なりからは苦労を感じる。
「おいお前ら! キビキビ働け! 家族が餓死しちまうぞ!?」
「す、すみません!」
住民が運ぶ荷物がどこへ行くのか。
それが知りたくて人が流れていく方へ進んでいくと、騎士団のマークが掲げられた施設の入り口前で怒号が響く。
「てめぇらあんまり騎士団様を舐めてたら食料恵んでやらねぇぞ!」
むかつく顔で住民を鞭打つのは、オレたちが身に纏えなくなった騎士団の鎧を身につけている。
「……なにあれ! 駐屯してるのはこんな独裁するためじゃないでしょ! ちょっと行ってくる」
「だから待てって、罪人に対する罰則の可能性もある。今は情報を集めるぞ」
まぁ、そんな可能性はほぼないけどな。
間違いなくここに駐屯してる騎士団員たちはこの里で独裁的な政治を展開してる。
腐ってやがるな。
オレは憤るライラを宥めながら、ひとまず騎士団が管理する施設から距離をとって入り口あたりへ踵を返す。
「きゃっ……!」
「大丈夫!?」
どさりと落ちる荷物。ひっくり返る小さな少女。
ライラはすかさずその少女に近寄り手を貸す。
「ひどい怪我、それに寝れてないでしょ。小さいのにクマがすごいよ」
「おねーちゃんたち誰? わたしは大丈夫だよ……みんな我慢してるしわたしも……」
我慢していい年じゃないだろ……!
シズクがいた里にも騎士団がいればなんて、考えが甘かった。
どうして、里の外だけじゃなくて日々を過ごす里の中まで危険がないといけないんだ。
「ライラ、まずはその子の治療を」
「分かった! ミオンは……?」
「言うまでもないだろ」
さっきはライラに情報を集めると言ったが情報なんて、辛そうな少女の姿だけで十分だ。
頭に血がのぼり、冷静な判断はできていなかったかもしれない。
ただ施設へ全力で走り、気づけば足元に1人、団員が寝ていた。
「てめぇらにシズク……じゃねぇ、里の人間の資源を管理する資格はねぇよ」
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