9発目 ユリリの恋1
***
〈ユリリサイド〉
「おねーさま今度デートしようねー!」
私とは逆へ進むおねーさまの背に向けて、叶わない願いをぶつける。いつも。
当然返事は返って来ないし、今まで2人で出掛けたことすらない。
おねーさまの中であーしはただの部下で、おねーさまの心はライラさんにしか向いていない。
「ほんと……あの時と一緒じゃん……」
あーしが好きになる人は、あーしを好きになってくれない。
破裂しそうなくらいのおっきい愛を送っても、まるであーしが最初からいなかったかのようにスルーされる。
相手したくないなら最初から優しくしないでよ……。
「あーだめため、ヘラるなあーし。前はヘラって失敗したし、今回は明るくこの恋を成就させるって決めたっしょ!」
気分が下がれば自分の汚い部分が顕著に現れてしまう。
そんなときあーしは、おねーさまと出会ったあの日を思い出す――
――あの日、空は大胆に泣いていた。
「ユリリちゃーん! 今日もかわいいー!」
「えー? ほんと!? 嬉しいよぉ!!」
あ? 嬉しいわけねぇだろ。あーしが可愛いのは世界共通だっつーの。
他人を褒めれる私かわいいー! にあーしを利用すんなこのブスが。
「ユリリちゃんって大人しくて、気遣いが出来て、お茶目で、ちょっとドシでほんとに愛くるしいよねー!」
「もー! ドジって言わないでよぉ!」
全部演技に決まってんだろ。頭湧いてんのかこのクソブス女。
あーしがここで生きやすくするにはウケのいいキャラを演じるしかない。だから、こんなうざいブス相手でも、あーしは可愛い女を演じなきゃ。
「あ、そういえば聞いた?」
「んー? なになに?」
「実はなんとね……」
話を無駄に引っ張るなよめんどくさいな。
「今日この第1部隊に新しい人が来るんだってー!」
「えぇ!? そーなんだ!」
……だからなに?
「どんな人かな? 気になるよね!」
「うん! そうだね! みんなみたいに優しい人だといいなー!」
このノリうっぜ。別に気になんねーし。
あーしは誰がきても対等な態度で可愛がってもらう。波風立てずに生きて、平穏に死んでいく。
それがあーしの夢。
だからどんなやつが来ようとあーしの態度は変わらない。
「みんな、ちょっとこっち見てー。新しい子を紹介するね」
あーしが所属する第1部隊に与えられた部隊室に、嫌いな女の声が響く。
あーしより後に入ったくせに、部隊長。それに、人気だって今まではあーしが独り占めしてたのに、今ではあーしとあの女、ライラの2つで分かれている。
後から現れてあーしのもん奪っていくのが、心の底から大っ嫌いなあいつみたいでライラも気に食わない。
「この子が、今日から第1部隊に配属されるミオン・シドーさんです。仲良くしてあげてね」
シドー……? まさか、ね。
ライラの横に立つ金髪の女は、雨に打たれたのか酷く体を湿らせている。なんで拭かずにそのまま平然といれるんだあいつ。
「ここは基本的に待機したり休んだりするとこね。ミオンの席は……あ、後ろの窓際が空いてるね。そこね」
「うす」
ライラに指示された場所まで歩くミオンとかいう女。無愛想なツラで、周りに誰も近づけないようあえて嫌なオーラを放っているようにも感じた。
あーしと目が合っても、動じることなく席へと座る。
人と関わりたくない系? なんかムカつく。普通あーしみたいな可愛い子いたらキョドるだろ。
「はじめましてー! ユリリでっす! よろしくね」
人と関わりたくないなら、あーしが思い通りにさせるわけがない。あーしをチヤホヤするまで話しかけてやる。
「ミオンってばすっごい濡れてるじゃーん! 拭いてあげるよ」
「いや、別に」
ぶっきらぼうに振る舞うミオンに近付くふりして、あーしはアクションを起こす。
「――きゃっ! ごめーん、転んじゃったぁ」
見た? この完璧な転び方を。
研究して、研究して、研究し尽くして、自然なモーションで不自然に転ぶ才能を身につけたあーし。
数々の人の前でやって、百発百中で手を差し伸べられ、「大丈夫?」や、「ドジだなぁ」なんて色々声を掛けられる。
さぁ、人と関わりたくないミオン・シドー。この可愛いあーしを心配して、あんたのポリシーを破り捨てろ。
「……」
「こ、転んじゃったなぁ……」
「……」
「すってーんって、綺麗に」
「……」
はぁ!? シカト!?
「足くじいちゃったかもぉ」
「……」
嘘でしょ? あーしって、全人類に通用する可愛さじゃないの? ありえないんだけど。というかそもそも、人転んでもシカトってこいつ倫理観終わってんのか!? 目すら合わないし。
「イタイナァ」
「お前……」
あ、やっとこっち見やがった。
なに? 今度はあーしのことじっくり見て。いまさらあーしの可愛さに気付いた? もっと早く気付けば良かったって後悔しても遅いから。
「なんかキモいな」
あぁ?
「え、えへ……え? あーしが?」
「オレの視線の先にいるのはお前だけだろ」
なんだこいつ。いい度胸してるじゃん。あーしに向かってキモい?
ガチありえないんだけど!?
……って落ち着けあーし。
こんなとこでボロ出して、今までの苦労を無駄にするわけにいかない。
「本音偽ってヘラヘラしてて、お前本当にキモい」
「……ひ、ひどいなぁもう!」
クソムカつく。けど、こいつの意見は心のどこかであーしも思ってたかもしれない。
内心、自分でもキモいって思ってた。嘘ついて、自分を騙してまで人に気に入ってもらおうとするなんて、本当に虫唾が走る。
「もういいか? オレは入団試験で疲弊してるんだ。寝かせてくれ」
「あ、そうなんだぁ? 大変だもんね、入団試験! おやすみ!」
なんだよ入団試験で疲弊してるって。
筆記と雑魚相手の実技戦闘だけだろ、どんだけやわなんだよ。やわならやわらしい態度取れよ!
ほんとムカつく! ムカつく! なんなのまじであいつ!
沸々と燃え上がるあーしの怒りを、我関せずで寝息でかき消すムカつく女。おもいっきり椅子を蹴り飛ばしたいけど、周りの目があるからそんなこともできない。
あーもう! 不自由!
でもしゃーないじゃんね、素のあーしを受け入れてくれる人なんてここにはいないし。
「まじうざい!」
憂さ晴らしにモンスターでも蹂躙しに行くか。
お気にのリュックに警棒詰めて、準備は万全。変に大荷物でも邪魔なだけだしね。
「あ……まぁいいか。雑魚狩りに行くだけだし」
あーしのドーピング剤みたいなジュースを入れ忘れたけど、そもそも森の入り口付近なら、ドーピングしないと勝てないレベルの強敵はいない。
剣より馴染むこの警棒で、ストレスを発散する。そんな些細な楽しみに胸を膨らませてあーしは森へと踏み込んでいく。
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