38発目 結ぶ約束
***
「ねぇほんとに良かったの? もう少し遊んでいかなくて。あの子ももっと遊んで欲しそうにしてたのに」
「いいんだよ、縁があれば会えるだろ」
「名前すら聞いてないのに?」
「ああ、絶対にな」
シズクと重ねてしまって深入りしてしまいそうだから名前すら聞かなかったが、オレはあの子の未来を救えただろうか。
「ま、ミオンがそれでいいならいっか」
里から離れ、人通りの少なそうな森の中で、オレたちは野営の準備を始める。
少し値は張ったが、見かけはテントで中身は一軒家の魔法アイテムで、オレたちは快適な野営を楽しむ。
「コーヒー入れたぞ」
「ありがとー」
家具やキッチンが完備された魔法テントは、モンスターが襲ってきそうな森の中でもコーヒーを飲んでリラックスできる程度には安全性が確保されている。
これを売ってくれた店主曰く、才のある魔法使いが何重にも保護の魔法をかけているらしい。
「今回の件、オレらはもっと早く気づくべきだった」
「うん、まさか騎士団が駐屯先で好き勝手してるなんて思ってなかったもんね」
早く気づいて、早く対処してれば、あの子だって無駄な辛さを味合わなくて済んだ。
本来、騎士団が駐屯する理由は、予想外の危険から住民を守るためだ。
だから駐屯の制度事態を廃止はできない。
「じいさんには信頼のおける人間を配置してくれって手紙に残したからもう安心だけどな」
「おじいちゃんなら頼まれるまでもなくそうしてくれると思うけどね」
少し特殊な伝達方法にはなったが、きっとじいさんはオレの意図を汲み取ってくれるだろうな。
「会って直接伝えればいいのに、手紙なんて回りくどいよねぇ」
「無理だろ、会ったらまちがいなくあいつらは首突っ込んでくるぞ」
「それもそっかぁ、新しい旅の目的は駐屯してる騎士団が悪さしてたら潰すうていうのだし。騎士団に所属してるうちは叛逆になっちゃうから参加させれないもんね」
コーヒーと合わせて甘すぎるクッキーをボリボリ貪る。
「あいつらを腐った組織に置いておくのも気がひけるが、反逆させて無駄に危険を負わせるくらいなら、何も知らないまま騎士団を壊した方がマシだろ」
オレたちはもう決意している。
ただの反逆者になりさがり、騎士団の汚い面も見えてきた。
であればもう2人で騎士団を潰しまえと。
こっからどう足掻こうとオレたちの罪は消えない。
だったら今から何しようが一緒だなんて発想。
「はやくみんなに会いたいからさっさと壊したいけど、こうしてミオンを独り占めするのもいいな、なんて思いもある。どうしよ」
とぼけたことを真顔でいう。
「はいはい……って寝てんのかよ」
祭りの準備で無茶させたし、疲れてるんだろうな。
かくいうオレもだいぶ疲れてる。
***
「ミオン副部隊長、お疲れさまです」
「…………」
真っ白な部屋の中。
目の前にライラはいない。いるのは死んだはずの、第2部隊の団員。
「夢だな」
疲労から、会話中にも関わらず寝たライラを見ていて、オレも眠くなったところまでは覚えている。
だが死んだはずの人間に会えるのは夢の中だけだろ。
「リュカ・サテライト。君を殺してしまったこと、夢の中とはいえ、謝らせてくれ。すまなかった」
夢は所詮自身が見たいもの、もしくは深層心理で望むものを映し出す。
オレは、ずっと謝りたかったんだな。
金に輝く髪を高い位置で結んだポニーテール。
毛先をふわりと揺らしてオレを不思議そうに眺めるリュカは言う。
「リュカはミオン副部隊長に救われました! ので! 謝罪は不要ですよ!」
「……」
心がズキズキと痛む。オレは許されたいだけじゃなく、死は救済だなんて深層心理で思ってたのか? バカじゃねぇのか。死は死だろ。
こんな最低なことを、夢の中とはいえ故人に言わせてしまっている。これじゃママに顔向けできないだろ。
「オレがリュカを殺したのは事実だ。それに関してはどんな状況でも罪だ。深層心理でもそう思っている……はずだ」
「いやいやいや! 団長に利用されたリュカの落ち度です!」
いやいやいや、とオレもリュカも自身の意見を譲らない。
「いくらリュカが団長に利用されてたからって」
ん? ちょっと待て。
「リュカ、団長に利用されたって……?」
「……? うん。団長を問い詰めたら殺されちゃいまして、それであんな事態に……」
面目ないと頭を下げるリュカ。
「リュカをあんな目に合わせたのはネクロマンサーだろ」
「ですね、団長はネクロマンサーなので」
「嘘だろ!?」
団長がネクロマンサー、信じがたい。
が、辻褄は合う。
ネクロマンサー狩りを命令したトップがネクロマンサーなら、撲滅したはずのネクロマンサーが行動できるのも頷ける。
……だが、これは真実か?
「夢での出来事でオレが知らない新事実が発覚するのはおかしい。何がどうなってる……?」
「夢ではないですね」
「夢ではない?」
だめだ、疲れすぎてる。状況の整理がつかない。
「はい、リュカの遺言と捉えてもらえると分かりやすいと思います」
「遺言……か。なぜオレに?」
「リュカを助けてくれた方に発動するよう、団長に殺される直前こっそりと自身に呪詛魔法を仕掛けておいたんです。遅れて発動するように」
呪詛魔法。呪いの類をこの世界ではそう呼ぶ。条件付きで発動する魔法が多く基本は呪殺に用いたり、罠を仕掛けたり、不運をなすりつけたりが多い。
遺言変わりに呪詛魔法を使ったのはリュカが初めてだろうな。
推察するにリュカが指定した条件は、死者蘇生を解いた相手。だろうな。
「それって、団長がネクロマンサーだと伝えるためか?」
「はい、まぁミオン副部隊長かライラ隊長のどちらかが助けてくれるって確信してなかったら決行してませんけどね」
にっこりと笑うリュカは、オレかライラが助けると確信していたと告げる。
「なんでオレかライラじゃないとだめだったんだ?」
「だって2人とも目先の利益より正しさを優先するじゃないですか。ミオン副部隊長は手段がメチャクチャなこともありますが」
「……否定できないな。で、確信した根拠は?」
「根拠はですね、リュカが趣味でしてた呪詛占いでたまたまライラ隊長とミオン副部隊長を始末する作戦を知っちゃったんですよねぇ」
えへへ、と恥ずかしそうにリュカは振る舞っているが、趣味が呪詛占いって……。いやそもそも呪詛占いってなんだ?
「誰が企ててるかは分からなかったんで団長になんとかしてもらおうと手紙を飛ばしたんですけどねぇ」
「……企ててたのが団長で、口封じされたんだな」
「その通りです! 痛めつけられてる間に、正体はネクロマンサーだのリュカを利用してミオン副部隊長を始末するだの色々聞かされたんですよ!」
「……災難だったな」
無抵抗な状態でただひたすら殴られたのが悔しかったのか、わなわなとしている。
「あ、そろそろ時間ですね」
「時間?」
「呪詛魔法の有効時間は限られてますから。これでお別れです、最後に話せたのが憧れのあなたで……リュカは最高の幸せ者です!」
限られた時間。そんな中でリュカはオレに託してくれた。命と引き換えにえた情報を。
ごめんも、ありがとうも。どれほど伝えても足りないほどの借りができた。
「ママによろしくです。心配かけちゃってると思うので。あと、愛してるって伝えといてください!」
「ああ、伝えておく。約束だ。それと、オレがトップになってなんでも願いが叶うってのを利用してリュカを生き返らせる。言葉はオレが伝えれても、気持ち伝えれるのは本人だけだろ?」
「……はい!」
理不尽な死は絶対に認めない。
団長をぶちのめし、リュカをこの世に生き返らせる。仇討ちと約束、オレは2つの大事なことを胸に秘め、しばらくの別れをリュカに告げた。
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