6発目 鍛え甲斐
***
〈ソロサイド〉
時は少しさかのぼり。
「ソロ、しばらくはじいさんの言うこと聞いといてくれ。話は通してるから」
「へ? どゆ状況!?」
……美人な親友が美人なお姉さんに引きずられて行った。
じいさんの言うことを聞けと言われたが、俺は今なにをすればいいのだろうか。誰か教えてくれ。
「おーい、オーク君。聞こえるかのぉ?」
部屋の奥からじいさんの声が聞こえる。
「聞こえてます、俺は何すればいいんですか?」
「まずは家造りじゃ。危ないから離れちょれ」
家を作るのか? 今から? てか危ないって何?
「じいさん、言ってる意味があまり理解――」
じいさんに聞き返そうと、部屋をのぞきこんだ時に聞こえた。
「フルバースト」
「は?」
抉るように鋭い殺気、辺りを蒸発させる勢いの熱気、地面が揺れるほどの覇気。
すべてが今まで体感したことのないほどのレベルで、軽く圧倒される。
そして、俺の巨体はいともたやすく吹き飛ばされた。
「嘘だろ!? 急に家を吹き飛ばしやがったあのじいさん!」
ガチでなにを考えているのかが読めない。
舞い散った瓦礫や木片が俺のもとへ落ちてくる中、一か八かでミオンに念を飛ばしてみる。
こんなトリッキーなじいさんに任せるなら事前にちゃんと連携しててくれ。ってな。
「なんじゃ、そんなとこにいたのかい。一緒に吹き飛ばしてしもうたか」
瓦礫が俺のふくよかボディーにあたる瞬間、ほっほっほと余裕の笑みを浮かべてじいさんが助けてくれた。
「じいさん! 急に家吹き飛ばすとかなに考えてるんすか!? ホームレス志望!? やめといたほういいですよ!?」
「ちがうわい! 狭い家じゃお主が野宿になるじゃろうて、リフォームするんじゃ」
「じいさん……! いい人っすね!」
まさか俺のために今ある家を吹き飛ばしたなんて、なんていい人なんだ。
まさか、話を通してくれたって、ここまで通してくれてるとは思わなかった。せいぜい禁忌魔法の許可が下りたとかだとばかり。
にしても、禁忌魔法で人間になれば普通サイズの家でよかったのでは?
あれ? いやな予感がするぞ?
これから過酷な生活が始まる、そんな予感。
「師匠と呼ばんかい。モンスターの弟子は初めてでのぉ……腕が鳴るわい」
やっぱりな……過酷な生活が始まるんだ。こういう時の感はよく当たる。
にしてもミオン、どんな話の通し方したらじいさんに弟子入りなんて話になるんだよ。
「禁忌魔法を使ってくれるんですよね……? 師弟関係はちょっと理解が追いつかないと言うか……」
「今のままじゃ禁忌魔法をかけたとてお主はただ死ぬだけじゃ」
「まじで……?」
てかなんでそんな厄介そうな魔法を使わないと俺は人権を得れないんだ? 人間なのに。
「じゃからワシがお主を鍛えて、禁忌魔法に耐えゆる肉体と精神を形成するわけじゃ」
「じいさん……」
なにをビビってんだ俺は。
退くなんて選択肢ははなから存在しないだろうが。
まだミオンに飯を奢ってねぇし、美人な彼女も出来てねぇ。
授業つけて、人権勝ち取って、ミオンに飯奢って、美人紹介してもらって、俺は幸せにこの世界で暮らすんだ!
「……師匠! よろしくお願いします!」
「ほっほっほ、こりゃ鍛え甲斐がありそうじゃわい」
ニヤリと笑う師匠は、そこら中にバラつく木材や瓦礫を魔法で異空間に送って、代わりに新しい木材とレンガを大量に用意した。
「今すぐにでも鍛えたいんじゃが、まずは家じゃな」
「1から組み立てるなら相当時間かかりますよ?」
「そんな常識を穿つのが魔法じゃ。ようみとれ」
懐から石の付いた棒を取り出すと、「リリース:建造物」そう唱えて、瞬く間に用意された材料がひとりでに動き出す。
勝手に組み上がっていき、10秒もしないうちに家は、最初見た時よりも遥かに大きな屋敷へと変貌を遂げていた。
「いいか? 世界を変えるのはいつだって少しの能力と膨大な発想なんじゃ。能力に関しては人によって限度がある。じゃが……」
「じゃが?」
「発想力は何歳になっても無限に広がるもんじゃ。この家だってワシの発想力の賜物じゃわい」
豪快に笑う師匠は、微調整と言わんばかりに、周囲に芝を生やしたり、門を作ってみたり、よくわからない石のオブジェを置いてみたりしていた。
「今日からワシはお主に発想力を叩き込む。これはかけられた禁忌魔術を自身で解釈し、理想の姿になるために必要な力じゃ」
「もしかして発想力が乏しかったら失敗するんじゃないですかそれ」
「もしかせんでも失敗じゃわい。それどころか酷ければこの街は消し飛ぶとと思っておくんじゃな」
……荒野に戻ってたほうが平和に暮らせるんじゃないだろうか。
リンチなんてのも適当に流せばそのうち飽きられるし、俺のミスでこの街に暮らす罪なき人間の命を危険に晒すリスクは出来れば背負いたくないなぁ……。
「ようやく覚悟が決まったかのぉ?」
また腑抜けてしまう俺の精神を引き戻すように、両頬を激しく穿つ。この巨大では、まるで銃弾を放ったような激しい音が鳴り響く。
「怖すぎるけど、やるしかないんで……!」
「ほっほっほ、言うのぉ。早速始めるかい?」
師匠が年季の入ったローブを脱ぐと、転生前のミオンより引き締まった肉体が目の前に現れる。
ご老体のはずなのに、社内細マッチョコンテスト優勝者より仕上がった肉体なんて、脳がバグるぞ。
「なにその肉体、師匠まじこえぇ……何歳よ」
「100を超えたあたりから数えとらんのぉ」
「年寄りって次元じゃねぇな!?」
日本でも100歳を超えた偉人は何人かいた気がするが、ここまで人間離れした肉体ではなかったと思う。
「年寄りはヨボヨボ。まだまだ発想が乏しいのぉ」
「いや普通そうだって!」
「バカもの! 今からお主は普通を超越するんじゃ、古い考えは捨てんか」
言うと同時に、師匠は屈強な肉体で俺に蹴りかかる。
俊敏な動きで俺の視界から消えて、背後から鋭い衝撃が襲い掛かる。
「いったい! なにするんすか!?」
「修行じゃ。ワシは手段問わずお主に暴力の限りを尽くす、じゃからお主はそれを耐え抜くか捌くんじゃ」
「どっちがモンスターか分からない発言ですね……」
俺が言葉を発している最中なのに、師匠はもう俺の視界から消えている。
さっきは後ろから攻撃が来た。つまり、師匠が視界から消えるのは、背後を狙うときのモーション――ッ!?
「また背後からの攻撃だと思ったのかのぉ」
攻撃が来るであろうタイミングで、体の向きを変えると、俺の背中が悲鳴を上げた。
つまり、師匠は正面に息をひそめていた。
「視界から消えてたじゃないですか」
「自分の気配を消せば容易い。色々な可能性を考えるんじゃ、頭をひねれ」
師匠は勢いよく俺に突進するように走りこんでくる。
「見えてたら楽勝!」
体の重心を落とし、両手で盾を作るように守りを固める。突進されても俺の巨体なら、構えていれば耐えれるはず。
「楽勝ねぇ」
「は!? 消えるのかよ!」
師匠はまた消えた。
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